映画『猫を放つ』志萱大輔監督インタビュー。撮影から 7 年かけて完成させた志萱大輔の初⻑編監督作品。
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Do it Theaterが、現在注目のシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする企画[Do it Close-up]。今回は、初の長編映画制作に挑み、5月2日よりユーロスペースでの上映を控える映画『猫を放つ』の志萱大輔監督にインタビュー。完成まで7年をかけた制作の背景から、作品に込められた想いまでお話を伺いました。
―― まずは、この作品を作ろうと思った原点を教えてください。
この作品は、主演のアサコ役を演じている俳優の村上由規乃さんと出会ったことがきっかけです。たしか2017年~2018年頃だったと思いますが、まず「彼女と映画を作りたい」という思いからはじまりました。そして実は2018年くらいからもう撮影を開始しているんです。でも、その時はこの作品がこういう長編の形になるとは思っていなくて。

監督・脚本:志萱 大輔(シガヤ ダイスケ)
1994 年神奈川県生まれ。日本大学芸術学部卒業。卒業 制作映画『春みたいだ / Spring Like Lovers』が PFF アワード 2017 や第 27 回 TAMA NEW WAVE コンペティション部門など入選。2020 年には ndjc2020 に選出され、制 作した短編映画『窓たち / Windows』は第 26 回釡山国際映画祭 Wide Angle Asian Short Film Competition 部門で上映された。本作『猫を放つ / Leave the Cat Alone』が 初⻑編作となる。
―― 2018年から撮影されていたんですか! 完成までにどのような変化があったのでしょうか?
本当は中編ぐらいのサイズの映画を想定して動いてたんです。でも、それがなかなか完成しきらなくて、一度制作がストップしてしまって…。そこから時間を空けて、2024年に再び撮影をして今の形になったので、スタートした時点ではこういう形になるとは思ってもいませんでした。
―― 時間が経ったことで、見え方が変わった部分もありましたか?
2018年に撮っていた素材を、この映画の中では「記憶」みたいなものとして配置しているんですけど、撮影当時はそんな使い方をするとは全く想定していなくて。でも、実際に7年という時間が経ったことで、当時の映像が“本物の記憶”として機能し始めた。これは時間を置いたからこそできたことだと思います。
―― 2018年に撮影していたシーンをベースに、改めてストーリーを見つめていった感じでしょうか?
はい。なぜ一度撮影が止まって、一本の中編としてまとめられなくなってしまったかと言うと、理由があるんです。例えばアサコとモリが夜の部屋でキスをするシーン。あそこは同じショットなんだけど、キスをする「主体」が違うという齟齬が描かれています。僕の中では、平たく言えば「記憶違い」というか、「記憶は主観的である」ということの現れとして撮ったんですけど、そのシーンを撮ったがゆえに、「記憶の主観性」を描くには、それを思い出している「今の時間軸」が必要だった。でも、当時はそこに気づけなかったんです。

―― 完成までの7年間、どのように気持ちを繋いでこられたのでしょうか。
この映画のことはずっと頭の中にはありました。その間にも短編映画『窓たち』を撮ったり、演劇を作ったり、何かしら少しでも動いていたからこそ、ちゃんと思い続けられたのかなと。あとは、劇中でマイコがピンホールカメラで写真を撮っている場面がありますよね。実は僕自身も7年間の期間にピンホールカメラで写真を撮っていたんです。劇中の彼女と同じことを自分もやっていたというのが、どこかこの作品との感覚を繋ぎとめてくれていたような気がします。
―― 説明セリフがほとんどないので、言葉から関係性を辿っていくような感覚がありました。その感覚が、7年という時間の流れともリンクしているように感じました。
それはあるのかもしれません。7年という時間があったからこそ、自然と滲んでいったものもある気がします。馴染んでいく、浸透していく、みたいな感覚というか。毎日この作品のことを考えていたわけではないんですが、ずっと近くに作品がある状態で過ごしていたので、寄り添うようにそばにあったからこそ、自分の生活や身の回りのことがじわじわとしみ出していったのかもしれません。
―― 志萱さんにとって「思い出す」という行為は、どのようなものでしょう?
僕が何かを思い出す時って、意識だけがふわっと記憶の方に飛んでいくような感覚があるんです。今ここにいながら意識は昔のところに入っていくような。映画の中での思い出すシーンでは、なるべくその感覚を入れているつもりです。でも、何かを見た瞬間にはもう通り過ぎて「記憶」になっているから、結局全部が記憶のような気がするんですよね。街を歩いていて誰かを見かけて、そこから何かを作ろうとすると、結局それは全部「記憶」から思い出して作ることになるというか。
―― たしかに。
編集する時なんて、まさに「記録されたもの」を扱うわけじゃないですか。撮影行為自体が、今はもう存在しない「かつての瞬間」を固定するもので。だから「カメラは記憶」っていう感じがするし、それを寄せ集めて並べて映画にしていく、という感覚ですね。

―― 「記憶を寄せ集めて並べる」という感覚、とても腑に落ちました。終盤の二人が夜道を歩くシーンなど、過去と今が静かに繋がっているような余韻があって、特に印象に残っています。
夜のシーンですね。過去を説明するセリフは多くないけれど、そう見てくださったのは、自分の昔のこととかを「持ち寄って」見てくれたってことなんでしょうね。
―― 自分の中にある似たようなシーンを思い出させられたような感じがありました。
説明しすぎないことで「隙間」を作りたくて。その隙間に、観る人の昔のことや今のことを持ち寄ってもらう。映画に映っているものと合わせて見てもらえたら、という感じです。
―― 物語の30分頃に起こる不思議な現象についてもお聞きしたいです。観た人によっていろいろな解釈ができると思いますが、あのシーンにはどういう意図を込められたのですか?
あのシーンは、二人が再び出会った時に起きる、ということが大事で。偶然の再会という「小さな奇跡」をマジカルなイメージで表現しました。意味合いとしては、アサコとモリが昔経験した、スーパーでの出来事のおぼろげな記憶があるのですが、その「過去」が、二人が再会した現在のケーキ屋さんに流れ込んできたようなイメージです。
―― おもしろい表現です。モリだけに見えているのではなく、店員さんたちも驚いているのがまた不思議でした。
もしかしたらアサコにはあの現象は見えていなくて、単に店員さんがタイミングよく物を落としただけに見えているかもしれない。この映画は主観のお話でもあるので、そういう可能性も含んでいます。

―― 「Do it Theater(ドゥイット・シアター)」での活動についても伺わせてください。志萱さんが撮影された『ミニシアターでまちあわせ』は、ふたりと街の空気がいい感じに合わさっていて心地よさがありました。こういうムービーをつくるときは、映画作りとはまた違う視点があるのでしょうか。
『ミニシアターでまちあわせ』は、「街を歩く」とか「映画館の外には一体何があるんだ」というテーマをモチーフに撮らせてもらったんです。『猫を放つ』でも「誰かと一緒に歩く」という動きがたくさん出てきますが、僕にとってすごく大事なことで。そういう部分では自分の作品とDo it Theaterの仕事は、どこか繋がっている部分があるなと感じています。
―― これまでの撮影で、とくに印象に残っている現場はありますか。
コロナ禍に開催された東京タワー、大磯、大阪でのドライブインシアターですね。みんなで同じ映画を観ているんだけど、各々が自分の車の中にいて。僕はそれを記録する係なので、邪魔しないようにこっそり撮るんですけど、なんだか「覗き見」しているようなドキドキ感がありました。カップルもいれば家族もいたりして、個別でバラバラな空間がずらっと並んでいる感じが、よかったです。
―― 「人を撮る」という視点は、映画作りにも活きているのでしょうか?
活きていると思います。イベントで人を撮るおもしろさは、映画を観て泣いたり笑ったりしている「天然の笑顔」が見られること。普段なかなか見られないような、映画に入り込んでいたり、楽しんだりしている表情が手に取るようにわかるのがおもしろいんです。そういう「ちょっと遠目から人々を観察して記録する」という視点は、自分の映画作りにもたしかにあるような気がします。

―― 釜山国際映画祭など、海外での反応はいかがでしたか。
初めての長編作品を映画祭でピックアップしてもらえたことは、単純に嬉しかったです。「自分たちがおもしろいと信じていたことは間違っていなかったんだ」と思わせてもらえたというか。釜山でのQ&Aで、あるシーンのセリフが「自分が最近思っていたことと全く同じだった」と言われた時は僕も驚きました。共通する感情は、どこかに絶対あるんだなと勇気づけられましたね。あと、あの不思議な現象のシーンを「地震なんじゃないか」と捉える方がいたりして、地域による見え方の違いもおもしろかったです。
―― 最後に、本作を観る方へメッセージをお願いします。
この作品では、みなさんが実生活や過去に感じたことのある感情や気持ちを、ちょっと違う味付けで見せたかったという思いがあります。観客のみなさんの経験を持ち寄って観てもらえる作りになっていますので、そこを楽しんでいただけたら。あと、今回は5月の公開にもこだわりました。実際に5月に撮影したというのもありますし、映画館を出た後の心地よい気候を楽しんでほしくて。夕方から夜にかけての日が落ちた後の感じって、最高じゃないですか。
―― そうですね。上映後に街を歩くのも含めて、いい映画体験になりそうです。
そうなんです。物語がだんだんと街に溶け込んでいくような、そんな体験をぜひ楽しんでいただけたらいいなと思っています。
―― もし屋外で上映するとしたら、どんな場所や環境がいいですか?
森っぽいところで上映したいですね。なんか周りに木があって、あんまり開けてないような感じのところで上映できたらうれしいです。

story
「 あなた今、幸せ? 」という問いが、自分に返ってきたとき、 ようやく彼らは 自らの現在地点 に目を向ける。
写真家の妻マイコ(谷口蘭)との距離に悩む音楽家のモリ(藤井草馬)は、かつての 友人アサコ(村上由規乃)と、思いがけない再会を果たす。 その出会いは、とうに過ぎ去った愛情を、ふたりの間に呼び起こす。しかし思い出は すれ違い、期待や欲望を含んだ記憶は、ぼやけ、歪み、それぞれの中で都合よく書き
換えられながら現れる。 そして⻑い散歩の終わりに、モリとアサコは、もう既に軌道を外れてしまった二つの 人生と、それぞれが立つ〈今〉を、あらためて見つめ直すことにー
監督・脚本:志萱大輔
出演:藤井草馬 村上由規乃 谷口蘭
望月めいり 宮原尚之 カトウシンスケ 菅原大吉 古矢航之介 佐藤ケイ ほか
制作プロダクション:HUT Pictures
配給・宣伝:イハフィルムズ
英題:Leave the Cat Alone
★第30回釜山国際映画祭 コンペティション部門
★第26回東京フィルメックス メイド・イン・ジャパン部門
2025|ステレオ | カラー | 1.85:1 | 102min
公式サイト:https://hutpictures.jp/Leave_the_Cat_Alone/
X:https://x.com/_necowohanatu_
Instagram:https://www.instagram.com/_necowohanatu_/
photo:井上ユリ(@lily1014)
interview&text:yabesaya