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Dialogue

映画についてのかけがえのない無駄話 / 『リンダ リンダ リンダ』 文:岩渕想太

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  • #音楽
2025.12.27

意味なんかないことを12年続けている。

意味なんかないことのために、炎天下の中、時には土砂降りの繁華街で、機材を運んだり、変なプライドをぶつけ合ったり、たまに言い争ったりする。

意味なんかないことのおかげで、人生に一度のような夜を何度も経験し、言葉では言えないことを沢山分かち合う。

渋谷のシネクイント。半券をふたり分買って待っていると、その前に予定があった先輩がエレベーターから上がってくる。ポップコーンは先輩が奢ってくれ、予告編が流れるまでの間、2人でバンドの話をダラダラとする。先輩はTHIS IS JAPANというバンドをやっており、我々がやっているPanorama Panama Townというバンドと今度2マンすることが決まっている。THIS IS JAPANとは古い縁で、初めて対バンしたのは10年以上前のことになる。それからお互い相も変わらずバンドを続けている。たまに一緒に飲んだり、こうして映画を観たりする。貴重な関係だ。

2人で観たのは『リンダ リンダ リンダ』の4K版。本当に素晴らしかった。我々が想定していたものを遥かに超えて、今観れてよかったと思った。冒頭のとあるシーンから終盤に至るまで、至言で埋め尽くされており、そのセリフのどれもがいちいち胸を打つ。涙を流さずにいられなかった。スタッフロールが流れ終わった後、2人の間に暫し沈黙が流れ、幾つかのぎこちない会話を交わし、帰りのエレベーターの中で「いやーバンドに意味なんかないですよね」とポツリと溢したのを皮切りに、話したいことが止めどなく溢れてくる。カフェや飲み屋を転々としながら、最後は下北沢で朝まで杯を交わした。作中、組んだばかりの高校生バンドから発せられる無軌道なエナジーが、バンドをやっている今に向けた讃美歌のように響き、ここまで歩んでくる中で忘れてしまったものを幾つも思い出させた。

「意味なんかない」というのは、冒頭のバンドを組むシーンで、バンドのギタリストから発せられた台詞だ。

ボーカルがとあることから居なくなってしまったバンドが、THE BLUE HEARTSのカバーを文化祭でやる、そのことに意味なんかあるのか?と問われて、即座に「意味なんかないよ」と返す。一番心に刺さったのはまさしくその台詞であり、映画はその「意味なんかない」バンドを、家や学校、友人のやっているスタジオなど、高校生4人が色んな場所で練習し続ける、その様を捉えている。

「意味なんかない」そう言い切ったバンドを四六時中、学校のスタジオに忍び込んだり、知り合いのスタジオを使わせてもらったり、時には兄弟が騒ぎ回っていてろくに音なんか聞こえない家で、寝る間も惜しんで練習する。そこに深く感動するのだ。バンドを初めて10年以上が経った今でも、寝る間を惜しんで曲を作り、重たいアンプを東から西へ運び、ライブを続けている。そりゃあもう他人事だとは思えない。 何より、その高校生4人の中に悲壮感のようなものはまるでない。ましてや、初のライブに対する重圧のようなものも(多少はあるのかも知れないが)感じさせない。そこにあるのは、無軌道で、プライドや名声といったことから一切無縁の、まさしく「意味なんかない」情熱なのである。くぅー。

映画を観ている間、ふとバンドを組んだばかりのことを思い出していた。

神戸の大学の軽音楽部。周りを見れば皆、何かのバンドのカバーに勤しんでいる中、右も左も分からずにオリジナルバンドを組んだ。というより、正確に言うと今はもう辞めてしまったドラマーに誘われて、バンドをすることになった。当時大学一年の私は、まともにバンドを組んだのも大学に入ってから。人前で歌った経験も、友達と行っていたカラオケくらいなもので、部内でも圧倒的な初心者だった。曲を作ったことなど殆どないのに「お前が曲を作れ!」という重圧を引き受け、メトロノームに合わせてギターをジャカジャカ弾いてぼやき続けるだけの、「曲なのか何なのか分からない何か」が録音されたボイスメモを持って、大学のスタジオに向かう日々が続く。とはいえ、メンバーも初心者に毛が生えたようなもので、どうやって曲を作ればいいかなんて分からない。一般的に曲作りってのは、何かしらコードの話やリズムの話をしてから、始まるものだと思うけれど、そんなことすらよく分かっていない4人は、集まるや否やろくに言葉も交わさず、音合わせ【「セッション」と呼ぶにはあまりにも稚拙で、軌道がなく、テンションが上がるとやたらと音量が大きくなるが、ろくに進展もない行為のこと】に勤しんでいた。

何かを表現したいという無軌道な情熱と、音を4人で合わせる楽しさだけがそこにあり、それ以外のことは何もなかった。

曲なのか曲じゃないのか分からないものを5つほど携えて向かった初ライブ。大阪の小さなライブハウスで、対バンは9組ほど。「曲のようなもの」の5つのうちの1つはその当日、ライブ直前に入ったスタジオでできたもので、まさしく『リンダ リンダ リンダ』の4人のように、6畳ほどしかないスタジオで、出番直前まで悪戦苦闘していたのを今でも覚えている。歌詞も直前まで書けていなかったため、楽屋で殴り書きした紙を、本番も足元に置いて見ながら歌おうとしたけれど、ステージの照明は思っていた数倍暗くて、何も見えなかった。うっすらと覚えている1番の歌詞を2番も3番も繰り返し歌った。今思うとお世辞にも良いライブだったとは言えず、軽音楽部の友人からは「あれは音楽じゃない」と言われた。4人で「そりゃそうだ!」と笑い合った。今となってもメンバー間の笑い話だ。

当時の自分たちを突き動かしていたのも、まさしく「意味なんかない」衝動であり、あらゆるプレッシャーから無縁だった私たちは、ただ目の前に決められているライブに向けて音を合わせ続けた。右も左も分からずに、曲を作るのはとても楽しく、スタジオで音を合わせるその瞬間が何よりの快楽だった。それから幾つかの賞を取ったり、東京に来たり、ポリープの手術をしたり、全国いろんなところを駆け巡ったり、事務所を独立してメンバー3人だけになったり、色んなことが自分達の中を駆け巡っていった。だけど、バンド動かしている一番の核はあの頃と一切変わずここにあると言える。それは、集まって音を合わせる気持ちよさであり、それは、本当に意味がなくて、かけがえがない。そして何より、いつになっても楽しい。

一緒に映画を観ていたTHIS IS JAPANの杉森さんは、自分がバンドを組む前からCDを買っていたような先輩であり、散々だった初ライブから間も無く、バンドとして何回目かの東京でのライブの時に初めて出会った。「ディスジャパ(THIS IS JAPANの略称)と対バンできるなんて!」と胸が高鳴りながら、神戸から東京への夜行バスに揺られていたことを覚えている。

2人で話し込み、昔話から今の話に至るまで花が咲いた。色んな点と点が繋がっては離れて、変わってしまったことも変わらずここにあるものも、思い出せることも思い出せないことも、ぼやけて来た深夜、先輩から「ちなみに今度のライブでやって欲しい曲とかある?」と聞かれ、あの頃、初めて一緒に対バンした頃によくやってた曲をリクエストした。バンドを始める前から聴いてた思い出の曲だ。「おーやれるかなー」とか言いながら先輩はとても嬉しそう。「ちなみにあの曲ってどうやって作ったんですか?」と尋ねると「いやーまさしく意味なんかなかったね。やりたいことを詰め込んだだけで、当時は曲かどうかもよく分かってなかった」とのこと。

なーんだ、みんな結局そうなんかい。笑いながら、朝まで飲んだ。

全くもって、意味なんかない夜だった。

New Release Digital Single 「P Space」

映画『リンダ リンダ リンダ 4K』デジタルリマスター版 Blu-ray 2026年01月21日発売!

価格:¥7,480(税抜¥6,800) 品番:VPXT-72154
https://www.vap.co.jp/linda4k

仕様:1枚組/本編114分+特典映像
片面2層/カラー/日本語リニアPCM2.0chステレオ/日本語DTS-HD Master Audio 5.1chサラウンド/16:9
【映像特典】
■オリジナルメイキング
■イベント映像集
・公開前夜祭 舞台挨拶
・公開記念トークイベント
■韓国キャンペーン ショートムービー
■劇場予告
【封入特典】
2005年版プレス(リサイズ版/24P)

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