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Dialogue

現実と想像が重なる記憶の物語。映画『SUPER HAPPY FOREVER』佐野弘樹さん・宮田佳典さんインタビュー

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2026.02.05

Do it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。今回は、五十嵐耕平監督 最新作 映画『SUPER HAPPY FOREVER』で妻を亡くし自暴自棄になる佐野とその友人宮田を演じた佐野弘樹さん・宮田佳典さんにインタビュー。「この作品が支えになった」と話すお二人に、6年という月日をかけ撮り終えて、公開を控えている今の率直な気持ちと役作りについてお聞きしました。

story

2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。数年前まで賑わっていたホテルも、今は閑古鳥が鳴い ている。まもなく閉館を迎えるこのホテルでは、アンをはじめとしたベトナム人の従業員たちが、ひと足早く退職日を迎えようとしていた。 なぎ 観光地に来ていながら、佐野と宮田の間には暗いムードが漂う。佐野は、5年前にここで出会い恋に落ちた妻・凪を最近亡くしたばかりだっ た。妻との思い出に固執し自暴自棄になる姿を見かねて、宮田は友人として助言をするものの、あるセミナーに傾倒している宮田の言葉は 佐野には届かない。2 人は少ない言葉を交わしながら、閉店してしまった思い出のレストランや遊覧船を巡り、かつて失くした赤い帽子を 探し始める。翌朝、眠れないまま部屋へ戻ってきた佐野の耳に、懐かしいメロディが聴こえてきて──。


――とても素敵な作品でした。本作は6年前の佐野弘樹(以下、佐野)さんと宮田佳典(以下、宮田)さんが送った一通のメールからはじまったとのことですが、新宿武蔵野館での上映が決定し、海外の映画祭でも上映されました。作品を撮り終えて、今の率直な気持ちを教えてください。

佐野 いやもう本当に嬉しいよね。

宮田 ね、すごく嬉しい。始めの頃から新宿武蔵野館で上映したいと話していたんです。

佐野 あと、海外の映画祭でレッドカーペットも歩いてみたいとかも話していたので、それがどんどん現実になり、「本当にこんなことが起こるんだ」っていう気持ちです。驚きもあるんですけど、しみじみと喜びを感じているところですね。まだ公開前ですけど(笑)。

宮田 奇跡が起こりすぎて、二人とも実感がないところもあるのかも(笑)。

宮田佳典・みやたよしのり

1986年9月22日生まれ、大阪府出身。2017年、劇団柿喰う客に入団。舞台へ出演する傍ら、岸善幸監督『あゝ、荒野 後編』をはじめとした映画や、ドラマ「宮本から君へ」(18)、NHK連続ドラマ小説「まんぷく」(18)などへと活動の幅を拡げていく。近年の出演作に、主演を務めた藤本楓監督『サボテンと海底』(22)や、WOWOWオリジナルドラマ「TOKYO VICE Season2」(23)、濱口竜介監督『悪は存在しない』(23)、池田健太監督『STRANGERS』(11月2日公開)など。

――初号試写で作品を観たときは、「いい作品ができた」という手応えのようなものはありましたか?

宮田 脚本の段階からすごくいい作品になると感じていたのですが、作品に関わりすぎていたので、客観的に見るのが難しかったです。同時に、これまでの月日を改めて感じて、“ついに完成したんだ”と、今までの想いが溢れてきました。そして、やっぱり五十嵐さんの作品っていいな、と。

佐野 試写が始まる前に五十嵐さんの挨拶があり、僕らのことに言及する言葉から始まったんです。「佐野くん、宮田くんが一通のメールを送ってきてくれて、この映画に協力してくださる皆さんがいてようやく完成しました。ありがとうございました」って。その言葉でもう泣きそうになりました。

宮田 わかる。

佐野 全てが本当によかった。試写で観終わったあとは、何にも考えられなくなって、席を立てなかったんです。五十嵐さんを信頼してみんなで作ってきたので、安堵や喜びなど、いろんな感情が浮かんできました。

佐野弘樹・さのひろき

1993年12月8日生まれ、山梨県出身。ドラマではNETFLIX「FOLLOWERS」(20)やNHK連続テレビ小説「舞い上がれ!」(22)や夜ドラ「未来の私にブッかまされる⁉」(24)にレギュラー出演。映画の主な出演作に、主演を務めた櫛田有耶監督『焼け石と雨粒』(22)のほか、石井裕也監督『町田くんの世界』(19)、タナダユキ監督『浜の朝日の嘘つきどもと』(21)、鎌田義孝監督『TOCKA [タスカー]』(22)、石井裕也監督『愛にイナズマ』(23)、『本心』(24)など多数。

――これまでもいろんな作品に出演されていますが、本作はまた違う気持ちが生まれましたか?

佐野 関わり方は違っても、かける熱量や想いはどの作品にも等しくあります。なので、作品に対して気持ちの差はありませんが、これまで一度も泣いたことなかったですし、今回も泣かないって言っていたんですけど、クランクアップのときに泣いてしまって……。自分でも驚きました。

でも、隣を見たら先に宮田くんがコメディアンのように泣いていて(笑)。その姿を見ながら、話し始めたら、同じようにもう涙が止まらなくて。結果、宮田くんより泣いていました(笑)。

宮田 めちゃくちゃ泣いてたよね(笑)。

佐野 この6年間という月日が、自分の中に大きく在ったんだ、ということをそのときに感じました。

――制作された5~6年という期間は長かったですか?あっという間でしたか?

宮田 長かった……。長かったです。

――その期間、どのように作品への想いを保っていましたか?

宮田 逆に、この作品に支えられていた感じでした。この作品があったから、前に進めていたような気がします。

佐野 そうだね。もともとは、(役者としての)仕事がないというところから動き出した作品だったので。この作品を企画開発しながらも仕事はしていましたが、毎日スケジュールが埋まっているというわけではなかった。だからスケジュールが空いたときは、この企画のことを考えるようにしていました。この作品は精神的な支えになってくれていましたね。

―― お二人は、どのような形で企画や製作に関わっていったのでしょうか?

宮田 そもそもは「自分たちの代表作を作りたい」という想いがあり、五十嵐さんがこれから作る作品に参加させていただきたい、という気持ちだったんです。でも、五十嵐さんはそのときちょうど温めている企画がなかった。そこから何度も話し合いを重ね、佐野くんと一緒に企画を考えたり脚本を書いたりして、五十嵐さんに「この脚本どうですか?」と提案を繰り返していきました。

佐野 やっぱり始めは、どこか甘えていたんですよね。「餅は餅屋」じゃないですけど、五十嵐さんにアイデアがあったらその作品に乗っかって、僕らを主演で出してくださいというようなスタンスだった。でも結果、3人でアイデアを出し合って作っていこうという形になった。僕らが頼んだ手前、いいアイデアが生まれたらまず僕らで脚本にして、悩んだらまた3人でアイデア出して……という形を2年間くらい繰り返していましたね。

――そこから、ググっと動き始めたのはどんなことがきっかけに?

佐野 脚本を書いていた長編がなかなか進まず、五十嵐さんが脚本書いてくれることになったんです。そして同時に脚本家の久保寺(晃一)さんが加わり、プロデューサーとして大木(真琴)さん、江本(優作)さんが加わり、6人体制に。そこからかなり話が現実的になっていきました。

宮田 確かに。それくらいから動きが早まっていきましたね。それでもそこから2年くらいはかかりましたが。

――作品の中では、役の名前をはじめ、お二人の個人的な部分も取り入れていたように感じましたが、なぜそのような形にしたのでしょうか?また、取り入れる塩梅はどのように決めていきましたか?

佐野・宮田 五十嵐さんが勝手に取り入れていたんです。

佐野 僕らが脚本に向き合っていた2年間、会ったときにどうでもいいような話をよくしていたんです。考えてきたアイデアを出し合うというよりは、近況報告的な感じで、面白い出来事があったら話す、みたいな。なので、そこを中心に話を組み立てていったような気がします。

――そうだったんですね。

佐野 五十嵐さん、宮田くん、僕の3人でシナハン(シナリオハンティング)という名の旅行に行ったりもしました。そういう中から、もしかしたら僕たちのパーソナリティーを理解しつつ、キャラクターを掘り下げていき、脚本を書き始めてくださったのかもしれません。

――そうして生まれた佐野・宮田という役とは、それぞれどのように向き合っていきましたか?

宮田 脚本段階からみんなで一緒に話を重ねてきたので、月日を重ねていくことで自然と役に入っていくという感覚でした。一緒に生きてきたという感じですね。

佐野 僕も宮田くんと同じ感覚です。ただ、結婚をしていて、妻が亡くなるという状況は経験していないので、考えるところもありました。 作品の中で、凪と出会った瞬間の佐野は、現在の状態とは明らかに何か違うものがあると感じた。だから、歩くスピードや物を手に取るときの動き、歩く姿勢や目線の動かし方など、身体的な部分を意識して役と向き合っていきました。

――映画のイントロダクションにも“「青春期の終わり」を迎えた人々の奇跡のようなひととき”と書かれていましたが、本作は時間や場所、物や空間の捉え方が素敵で、印象に残りました。お二人が大切にしている場所や時間を教えてください。

佐野 場所に関しては、自分の家ですね。帰って一人で落ち着ける空間をすごく大切にしています。それは、家で過ごす時間が心地いいからではなく、外で人と会ったり、作品と向き合ったりするときに、常に感謝を忘れず真摯な気持ちでいられるようにするためです。外で活動するために、一人でリラックスできる空間を大切にしています。

宮田 僕も大切にしている場所は家です。五十嵐さんも佐野くんも自分も、“家で過ごす時間”を大切にしているところが共通しているんです。みんなインテリアが好きで、たぶんその好みも似ている。そういう要素が、作品の中に少し反映されているかもしれません。実は、映画の中のホテルの部屋の赤いカーペットは全部敷いているんです。

――そうなんですね……すごい! では、時間についてはいかがですか?

佐野 時間に関しては、睡眠時間をすごく大切にしています。睡眠不足になるといろんなことが気になってしまって、頭が重くなって集中できなくなってしまう。なので、自分なりに研究をして、1番いいパフォーマンスができる7時間以上の睡眠をとることを日々心がけています。もちろん、友達と過ごす時間とか、別の大切な時間もありますけど、毎日を健やかに過ごすためにも、睡眠時間を大切にするようになりましたね。

宮田 僕は一人の時間をめちゃくちゃ大事にしています。自分にとって、部屋で一人で小説を読む時間がすごく大事。それが1番の落ち着ける癒しであって、“自分”に帰ることのできる時間なので。あと、思ったことを全部ノートに書くと頭がスッキリするので、いつもノートに書いて、頭の中をリセットしてから次に向かっていくようにしています。あとは、ボクシングとか運動している時間も大事です。

――本作は、いろんな感じ方や受け取り方ができるシーンがたくさんあって、観たことが体験として個人に残る映画だなと思いました。改めて、作品への想いを聞かせてください。

佐野 この映画には、繰り返し観ることの面白さみたいなところがあると思っているし、観るたびに新しい発見があるんです。例えば、佐野がホテル内をさまよっている中であるものを手に取るんですけど、それが後半のシーンで印象に残るものだったりする。作品を2回観ることで浮かび上がってくる面白さみたいなものがたくさんあると感じています。

――確かに。観ていて、どこか自分の記憶と重なるような瞬間もありました。年を重ねる度にどう感じるのか、何度も観たくなる作品かもしれません。

宮田 5年後のシーンから始まるからこそ、5年前のシーンを観るときに5年後のことを少し思い出しながら一緒に観ているような感覚になるんですよね。

佐野 この映画は順番がすごく味噌になっているんです。出来事を順番通りに描いていたら、最後佐野はどうなってしまうんだ、で終わるけど、幸せだった瞬間や記憶が描かれることで、希望が見える感じにも捉えられる。そういった部分も含め、公開したら何回も観ていただきたいですし、定期的に見たくなる映画になったら嬉しいです。

宮田 愛される映画になってほしいです。


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2023年8月19日、伊豆にある海辺のリゾートホテルを訪れた幼馴染の佐野と宮田。数年前まで賑わっていたホテルも、今は閑古鳥が鳴い ている。まもなく閉館を迎えるこのホテルでは、アンをはじめとしたベトナム人の従業員たちが、ひと足早く退職日を迎えようとしていた。 なぎ 観光地に来ていながら、佐野と宮田の間には暗いムードが漂う。佐野は、5年前にここで出会い恋に落ちた妻・凪を最近亡くしたばかりだっ た。妻との思い出に固執し自暴自棄になる姿を見かねて、宮田は友人として助言をするものの、あるセミナーに傾倒している宮田の言葉は 佐野には届かない。2 人は少ない言葉を交わしながら、閉店してしまった思い出のレストランや遊覧船を巡り、かつて失くした赤い帽子を 探し始める。翌朝、眠れないまま部屋へ戻ってきた佐野の耳に、懐かしいメロディが聴こえてきて──。

出演:佐野弘樹、宮田佳典、山本奈衣瑠、ホアン・ヌ・クイン
監督:五十嵐耕平 脚本:五十嵐耕平 、久保寺晃一
製作:NOBO、MLD Films、Incline LLP、High Endz 配給:コピアポア・フィルム
©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

公式サイト:https://shf2024.com/
X:@SHF2024_movie
Instagram:@shf2024.movie

photo:Cho Ongo(@cho_ongo)
interview&text:Sayaka Yabe
hair&make-up:光岡真理奈
stylist(佐野弘樹):淺井健登
stylist(宮田佳典):川上淳也
brand(宮田佳典):SEVEN BY SEVEN

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