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Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。
今回は、映画好きが集う恵比寿の古着屋「TRAVIS(トラヴィス)」の店主・ハラダユウキさんにインタビュー。映画館のロビーのようなお店にしたいと語るハラダさんのお店への思いと溢れ出す映画愛についてお伺いしました。
――TRAVISを始めたきっかけを教えてください。
ゆくゆくは映画館を作りたいという思いからお店をはじめました。映画館はスクリーンがあって、座席があって、その手前にロビーがあるじゃないですか。
映画館全体を作ることはすぐには難しいので、その手前となるお店として「TRAVIS」をはじめました。
「TRAVIS」は映画館のロビーのように、ポスターもたくさん置いてあります。自分も映画のポスターを家に飾っているんですが、前々からお客さんにも好きな映画に囲まれた生活をしてほしいなという思いがあったんです。いつも映画が身近にあって、映画館に行こうと思うきっかけになってくれたらいいなって。
――そうだったんですね。
近くには目黒シネマさん、恵比寿ガーデンシネマさんなどの映画館があります。ミニシアターがたくさんある渋谷の近くにお店を構えたのも、”映画館に着ていって欲しい服”をお店のコンセプトにしているからなんです。みなさん、デートなどに”おしゃれをしていく”感覚ってあると思うんですけど、自分は昔から、映画に合わせた服装で映画館に行くことが楽しみだったんです。
例えば、過去に観たことのあるリバイバル映画の上映だったら、「あのキャラクターはこんな色の服を着てたな」とか、作品に寄せて着ていく。そうすることで、より作品に没入できたり、見終わった後余韻に浸ったりして、劇中から出てきたような気分で帰ることができるんです(笑)。そういう体験をみなさんにも楽しんで欲しいという気持ちもあります。
――これまではどういうお仕事で働いていたんですか?
服屋で働いていました。古着はそこまで詳しくなかったんですけど、買い付けがてら海外の映画館にいけるなと思って古着屋をはじめました。
――海外の映画館へ行くことを先に考えて、買い付けに行かれるんですか?
そうですね。最初は2023年1月頃にドイツ・ベルリンへ買い付けに行きました。そこからフランスのパリ、リヨン、イギリスのロンドンという感じで4都市を渡り歩きましたね。古着好きの人には「なんでベルリン?」と思うかもしれませんが、ヴィム・ヴェンダース監督がベルリンに住んでいると聞いたので、「もしかしたら会えないかな?」という思いで行きました(笑)。
「TRAVIS」という店の名前もヴェンダース監督の『パリ・テキサス』の主人公から名前をもらっているんです。ベルリンではもちろんヴェンダース監督には会えなかったですが、ちょうど『ベルリン・天使の詩』を上映していて観ることができたんです。その後もパリに行って『ナイト・オン・ザ・プラネット』を、ロンドンでは『タクシードライバー』を観ました。
――「TRAVIS」でのお仕事はどんなところにやり甲斐を感じますか?
お客さんと映画の話をすることです。知らない作品をお客さんから教えてもらうこともあれば、逆に映画のいろいろな情報を教えることもあったりするので、四六時中映画の話をしていられるのがとても幸せです。お店をやりながら知識がちょっとずつ増えていくというのはとても嬉しいことですね。
――「TRAVIS」のように、映画好きの方が「映画の話を思う存分にできる場所」って、なかなかないと思います。
お客さんの中には「映画好きな友達はいるけど、自分と同じくらい映画を観ている人はあまりいないから、たくさん話をしてストレス発散になります」と言ってくださる方もいらっしゃいます(笑)。
あとは、ありがたいことに雑誌やSNSの影響もあって、札幌、名古屋、福岡などの遠方から来てくださる方もいらっしゃるんです。もともと、大分や札幌や名古屋の映画館を巡る旅行をしていたんですけど、改めてその旅を再開したいなと思いました。よく行く映画館が一緒だったり、好きな監督や作品が一緒だったりすると、早く仲良くなれる気がしているので。
――共通点があると確かに、段違いに話が弾みますよね。
例えば音楽だと、「このバンドいいよ」とか「これ聴いてみて」って勧める何気ない会話があるじゃないですか。そのときに勧めるのってそのバンドのリードトラックとかの3〜5曲で10〜20分、アルバムなら約1時間くらいだと思うんですよね。でも、「この監督のこの作品観てみてよ」って勧めると、1時間半~2時間くらいかかることになるんですよ。その時間に比例する感動の深さって大切だなと思っていて。教えた映画を大切な時間を使って観て、「よかった」と伝えてくれたりするのはすごく嬉しいことですね。
――ハラダさんにとって映画館はどうしてそんなに特別な場所なんですか?
映画館が好きになったきっかけは『ロスト・イン・トランスレーション』(監督:ソフィア・コッポラ)なんです。この作品は特に新文芸坐でみるのが好きで、観終わったあとに、外のネオン街を歩くのが最高なんです。今までは、スカッとするわかりやすい作品を観ることが多かったんですけど、初めて『ロスト・イン・トランスレーション』を観た時に、”答えがない映画”だなと感じて、感銘を受けました。そして『ミッドナイト・イン・パリ』や『パリ・テキサス』を観て、「映画ってやっぱりすごいものなんだ」と思いましたね。
――お店の方がこんなに映画を好きだと安心感があります。
狭いお店なので、3組くらいお客さんがいらっしゃるとなかなか話せないこともあるんですけど、最近裏技を覚えてしまって……。
――どんな裏技ですか?
初対面のお客様同士を紹介し合うんです。大前提として、映画が好きという共通項がある方同士なので、大体は「最近何観た?」という話で盛り上がるんですよね。映画が好きな人って新作・旧作、洋画・邦画問わず観ているので、何かしらでフィットすることが多くて。お店を出たあと、そのまま横の飲み屋さんに行かれることもありました(笑)。
――今後、どういうお店にしていきたいと考えていますか?
きっと今と変わらず、映画好き同士がここで出会っていく場所が続いていくのだと思います。特にラブストーリーが好きなので、ここで出会った人同士が恋人になってくれることがあったら素敵だなと。何かのきっかけになるお店になれたら嬉しいですね。映画館にハマるきっかけの場所だったり、映画業界の人がここで出会って作品が生まれるきっかけの場所になったり。
――素敵です。映画への思いが集まる場になったらいいですね。
オリジナルアイテムは「映画の中のあの娘が着ている」というものや、「あの店に制服があったなら」というものを作っています。古着も年に一回は買い付けにいきたいです。あとは、みなさんからもっといろいろな映画を教えてもらいたいです。すぐにとはいきませんがなるべく観るようにしているので。でも、ホラーは苦手なので勧めていただいても観れませんが(笑)。
――では最後に、ハラダさんの好きな映画、おすすめの映画を教えてください。
純粋に好きな映画は『パリ・テキサス』ですけど、映画館に観に行きたい映画は『カイロの紫の薔薇』ですね。
『カイロの紫の薔薇』は、端的に言うと、映画館に通う人の人生讃歌だと思っています。
カフェで働いている女性が主人公の作品で、旦那はろくでなしだし、仕事もうまく行かないんですけど、唯一の救いが、街にある映画館に行くことなんです。ある日、カフェの仕事をクビになった帰りに映画館で映画を観るんです。その映画が『カイロの紫のバラ』という作品で、観ていると映画の中からお気に入りの俳優が出てくる。映画から出てきた彼も主人公に恋をして、2人で逃げるんですよ。こんな発想でないわというラストで、そのシーンを観た時に、自分と一緒だって思ったことがすごく印象に残っています。
01店舗情報
TRAVIS
3-6-12 Ebisu,Shibuya,Tokyo
Instagram:@travis_yebisu
photo:Natsuko Saito(@72527n)
interview&text:Reika Hidaka