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Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。
今回は、2023年10月に下北沢BONUS TRACKにオープンしたVHS喫茶「TAN PEN TON」を立ち上げた林健太郎さんにインタビュー。“才能がつぶされない世の中”を目指す映画レーベル「NOTHING NEW」の代表としても活躍している林さんに、TAN PEN TONについての想いやショートフィルムの可能性などについてお話いただきました。
01インタビュー
――VHS喫茶「TAN PEN TON」が誕生した経緯を教えてください。
ショートフィルムをもっと身近にしたいというのが1番のきっかけです。ショートフィルムは監督やクリエイターが1作品目として作りやすいですし、自己表現としても適切なものでもあります。その一方、コアな映画ファン以外の人たちにとっては身近ではなかったりする。そのショートフィルムをいかに知ってもらえるのかを考えた時の1つの手段として、作品に触れられる場を作ることが必要だと思っていました。そしてたまたまBONUS TRACKのテナント募集の記事を見かけて、そこから具体的に考えていくようになりました。
――お店のコンセプトを構築していくにあたり、下北沢というカルチャーが集まる街であるというところもヒントになっていたのでしょうか?
募集の記事を見かけてから実際にBONUS TRACKに足を運んでみると、いろいろな客層の方がいて、レコード屋さんや日記がコンセプトの本屋があったり、カルチャーに根付いたお店が多かった。なので、この場所でお店を始めたらショートフィルムの客層に広げるのにピッタリだなと。なので、下北沢じゃなかったらそもそも出店しようとは思いませんでした。
――“VHS”というレトロなアイテムで打ち出したのも、下北沢というカルチャーに根付いた環境だったからこそですか?
それもあるんですが、VHSそのものに可能性を感じていたことが大きいです。どういう視点やコンセプトだったら多くの人に届けられるかを考えていた時に、実家で『ベイブ』のVHSを見つけたんです。そしたらなんと定価が16,000円で。昔ってこんなに1つの作品に価値があったんだ……と衝撃を受けました。昔は映画を1本見るのに16,000円かかるけれど、今では月数百円とか数千円で何万作品をも観ることができる。その気づきからいろいろ紐解いていって、作品の見方や考え方を、VHSという媒体を通して再提案することで、映画の価値を改めて考えるきっかけになるのかなと思ったんです。
――なるほど。実際にオープンしてみて、お客さんの反応などはいかがですか?
コアな映画ファンの方だけでなく、近隣の方やふらっと来たカップル、ご家族の方も来てくださったり、夜はクリエイターの方が来てくださったりしています。想像よりも幅広い客層の方がいらしてくれているのが嬉しいですね。あと、土地柄からか外国の方の来店も多いです。
――お店ではVHSやショートフィルムをみなさんどのように楽しまれているのでしょう?
昼間はそれぞれがヘッドフォンで作品を観て帰るという体験が多くて、夜は他の人がテレビで作品を観ているところを、バーカウンターから別の人も観ている形が多いです。なので、鑑賞後に感想をみんなで語り合うみたいな形が自然と生まれたりして、お店全体が交流の場や、小さなコミュニティーのようになる時もあります。
――素敵ですね。
あとは、現在は一般の人にはまだあまり知られていない作品を揃えているので、ジャケ買いのように作品選びを楽しんでいただくことが多いです。直感で作品を選んでもらったり、スタッフがヒアリングしながらおすすめを紹介したり。配信などでレコメンドされた作品を観ていくカルチャーだとなかなか出会えない体験ができるというのが新鮮だという声もいただいています。
――店舗スタッフとのコミュニケーションはどんな形で行っていますか?
日々slackでコミュニケーションをとったり、お店に行って話たりしながら、現場の声を最優先してメニューや作品ラインナップの話をしています。まだオープンして2ヶ月くらいなので、まずは店としてどう成立させていくかという課題が多いですが、春先くらいからは作品を増やしたいと思っています。あとは、お店を何かのスペースとして使っていただくことなども考えていて、他の業界とどう接続していくかみたいなことも模索しています。
――楽しみです。ちなみに現在お店には何本の作品があるのでしょうか?
10作品くらいです。現在準備中の作品が5~6本ぐらいあるんですけど、デザインしてVHS化する工程がまだ間に合っていない。そこをもう少し上手くサステナブルに回せるようになるのが課題の1つですね。なので、現在お店の統括できる人を探しているんです。もし興味がある方がいたらぜひご応募お待ちしています(笑)。
――Y2Kとかレトロブームの文脈で注目を集めているという記事もありましたが、お店を作る際にそのブームは多少意識はしていたのでしょうか?
そうですね。物をきっかけにして、コアな作品ファン以外の人も今まで知らなかった作品に触れていくムーブメントは意識していました。音楽業界ではレコードなどで確実に根付いていますし、それは映画でもあり得るんじゃないか?と。
――VHSなどの物の価値、そして作品との出会い方を改めて考える機会になりそうです。
レコードやカセットや古着のように、何か別の文脈で知ったり出会ったりすることにきっと可能性はあるような気がしています。その出会いをきっかけにして、最終的にまた劇場に足を運ぶ人が増えてほしい。なので、TAN PEN TONで作家を知って、好きになって、その監督の新作を劇場へ観に行く……という流れを作っていきたいです。
――素敵ですね。下北沢には実際に映画館もありますし。
はい。TAN PEN TONを下北沢でオープンすることに決めたのは、近くにK2さんやトリウッドさんがあったことも大きかったです。TAN PEN TONが劇場に訪れるきっかけや、鑑賞後語らう場所になっていけば嬉しいです。
――新しいクリエイターを生み出したり、映画業界をアップデートしていくという視点で、ショートフィルムにはどんな可能性があると考えていますか?
新しい才能の人たちがオリジナル長編作品を目指す動線として可能性があると思った1つの仮説がショートフィルムなんです。現在は企画コンペや映画祭などもあり、すごく有意義な機会だと思うんですけど、いきなり長編を作る機会は今の日本だとなかなか存在しない。クリエイター目線でも、長編へ挑む前に経験を積む場も欲しい。名刺となる作品も欲しい。そのために、まずはショートフィルムを制作できる環境を作って、いずれマネタイズできる仕組みや海外に繋げる動線を作るという挑戦は価値があると思いました。現状は出し口がYouTubeにアップするだけになってしまっているのが大半。そこに新たな選択肢を作っていきたいと考えています。
――その1つの試みが、オンライン映画自販機 「NOTHING NEW」とホラーショートフィルム作品集「NN4444」なんですね。
はい。まずは自分たちでプロデュースした作品で挑戦しようと「NN4444」を製作しました。「オンライン自販機」で作品をオンライン販売する検証を行いながら、現在は海外での展開も検討しています。また下北沢K2にて2月16日から劇場公開も行います。
オンライン映画自販機 「NOTHING NEW」
――ショートフィルムで、ホラーで、夜の0時~4時にしかオープンしないというエッジのある形になっていましたが、どんな仕組みなんでしょうか?
サイトに登録いただき、作品を購入することで鑑賞できるという仕組みでした。その中にダビングシステムというものがあり、作品を鑑賞した後にシステムを利用すると、その作品を他の方にプレゼントすることができ、購入金額の70パーセントをクリエイターに還元する機能もありました。
――ネーミング含め、面白くチャレンジングな仕組みを作っているんですね。
実際にやってみないとわからないところもたくさんあるんですけど、今のお客さんは作品とどういう向き合い方をしているのかを知るという部分も含め、実験的に始めた部分も大きいです。人やキャラクターに対する投げ銭の文化はありますけど、作品に対する投げ銭はなかなか無い。でも、海外では「Bandcamp」という音楽を自由に金額を決めてダウンロードするという仕組みやカルチャーがあるんです。なので、これを機に作品に対しての投げ銭などが普及していけたら面白いなと。
――NOTHING NEWは映画レーベルですけど、ドラマではなく映画である意味ってどんなところにあると思いますか?
一言で説明するのは難しいですね。視聴者としては、ドラマも映画も大好きです。でもやっぱり、自分の原体験として、映画との出会いが衝撃的で、作りたいと素直に思ったからだと思います。映画って本当に作るのが大変ですし、一部の大作以外はマネタイズの方程式もまだない。労働環境や予算、国内に閉じてしまっていることなど課題は山積みです。ただそういったたくさんの課題は逆に、可能性と捉えることもできるかと。
――可能性?
例えば、作品のつくり方に関しても、もしかしたら選択肢は増やせるのかなと。2023年に初めて韓国や台湾の映画祭マーケットに飛び込んだのですが、「NN4444」のショートフィルムを原案に企画開発をしている長編の企画に対して、出資や共同製作の議論が想像よりも具体的に進みました。製作の視野を国内に限定せず、全世界の中からプロジェクトごとに適切な座組を検討するだけで新たな可能性が生まれるかもしれません。
――すごいです。
なので、まずはショートフィルムを起点に、海外を目指すクリエイターと海外映画市場を繋げる動線をつくりつつ、作り手としてお互いにフィーリングがあう場合は国際共同製作を視野に入れながら長編映画の製作を行う。その知見や収益をさらに次世代のクリエイターに投資していく。そんな既存の映画業界構造のオルタナティブを、まずは小さく作り出したいです。
――NOTHING NEWのさまざまな取り組みは実験的であると同時に、大きな可能性も秘めている感じがします。
何をきっかけに変革が起きるのかは、正直やってみなきゃわからない。1つの作品かもしれないし、最新技術かもしれない。ただ他の業界に比べて映画業界にまだ爆発的な変革が起きていないのは、既存の枠組みの中での延長でしか挑戦されていないからだと思うんです。オンライン自販機、下北のお店など突飛な挑戦をすると逆風もあるかもしれませんが、実験的な活動をしてるヤツが少しくらいいることで、少しでも業界の活気に繋がればと。
――新たな製作の形をNOTHING NEWで、新たな届け方や出会い方の形をTAN PEN TONで挑戦していく感じですかね?
そうですね。届け方も実験的にというか、新しいやり方を捉え続けていくしかないと思っています。例えば、ショート映画専門配信サービスの「SAMANSA」さんも今すごく話題になっていますよね。1つの形として成立していて、素晴らしいなと。そういう流れを見ていると、ショートフィルムもきっと潜在的な需要自体はあると思えます。なので、ショートフィルムを起点に映画の新しい経済圏を生み出せたら、チャレンジするクリエイターの母数も増やせるはずです。
――NOTHING NEWが世界中で面白い動き方をしているレーベルとして、注目されるようになったら面白いですね。
いつか「NOTHING NEWの新作だから/新しい活動だから」とレーベル自体に注目してもらえるよう、コツコツ挑戦を続けていきます。
――では最後に、これからTAN PEN TONで取り組んでいきたいことはありますか?
まずはお店として1年かけて一人前にしていきたいと思っているので、他の業界とどんどん接続していきたいです。さまざまな業界やクリエイターの方と一緒にイベントをしたり、作品数を拡充させたり、お店として新しい可能性を作って検証していきたいと考えています。母体が映画を作っている会社なので、お店に遊びに来たクリエイターの人たちと一緒に場を築いていけるように動いていきたいです。
また、NOTHING NEWとして最初の製作作品となるNN4444が下北沢K2にて2月16日に公開となります!TAN PEN TONから歩いてすぐなので、お店と合わせてお越しください!
02店舗情報
VHS喫茶 TAN PEN TON
営業時間 平日17:00-23:00 /土日祝12:00-23:00 (月曜定休)
HP
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photo:Natsuko Saito(@72527n)
interview&text:Sayaka Yabe