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Do it MagazineDo it Theaterが注目のシアターカルチャーをクローズアップする企画[Do it Close-up]。今回は、そのビジュアルセンスと遊び心あふれる作風で注目を集めているオランダの新星、ザラ・ドヴィンガー監督の長編デビュー作『KIDDO キドー』(絶賛公開中)で主人公カリーナを演じたフリーダ・バーンハードさんと、本作の監督・脚本を務めたザラ・ドヴィンガー監督、プロデューサーのレイラ・メイジュマンさんにインタビューを行いました。母としての顔とひとりの女性としての顔。その狭間で揺れ動くカリーナというキャラクターにどう向き合ったのか。撮影エピソードや映画制作の裏側、そして忘れられない“映画体験”についても語っていただきました。
ママがやって来る!児童養護施設で暮らす11歳の少女ルーのもとに、離れ離れだった母親のカリーナから突然連絡が入る。自称ハリウッドスターのカリーナは、再会を喜ぶルーを勝手に施設から連れ出し、「ポーランドのおばあちゃんのところへ行く」と告げる。カリーナにはルーとずっと一緒にいるための、ある計画があったのだ。「人生はゼロか100かよ、お嬢ちゃんキドー」。ルーは破天荒な言動を見せるカリーナに戸惑いながらも、母親と一緒にいたいという思いでついていくのだが…。
01カリーナという女性に、共感と愛着を込めて
─ 本作のアイデアはどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?制作の決め手となった出来事などがあれば教えてください。
ザラ・ドヴィンガー監督(以下、ザラ):きっかけは、「子どもの目線から“型破りな母親”を描く物語を作りたい」という思いでした。共同脚本家のネーナ・ファン・ドリルと一緒に、普通とはちょっと違う親を持つことの光と影、両方をしっかり見つめて描いてみたいと思ったんです。
私にとってすごく大事だったのは、ユーモアと感情のバランスをどう保つかということ。悲しい物語にしたかったわけじゃなくて、不完全な関係性が持つ美しさや混沌を映したかったんです。決定打になったのは、やっぱりキャスティングですね。主演の二人の関係性が、この物語にリアルさと軽やかさをもたらしてくれました。
© 2023 STUDIO RUBA
─ カリーナはアウトローでかっこよくもあり、母親としては危うさもあるキャラクターでした。どのように彼女を作り込んでいったのでしょうか?
ザラ:カリーナは、魅力と混沌、そして強い不安を抱えたキャラクターで、ユーモラスでもあり、同時にとても切ない存在です。最初から心がけていたのは、「無責任な母親」として描かないこと。彼女は自由で楽しいけど、どこか不安定で、観客が“リアルだな”と感じられるような人物にしたかったんです。彼女はまるで、自分自身を映画の登場人物のように捉えていて、現実から逃げながらも、この世界を走り抜けていくような人。
こんな強烈なキャラって、誇張されすぎると現実味がなくなっちゃうんですけど、フリーダ・バーンハード(以下、フリーダ)の唯一無二の存在感があれば、絶対にこの役を生きてくれると信じていました。彼女とは、カリーナの心の奥の恐れや執着について、何度も話し合いました。彼女をジャッジせず、その行動の根っこにある純粋な愛を理解しようとしたんです。フリーダはこのキャラクターに驚くほどの深みをもたらしてくれて、予測不可能なのに、人間らしさに満ちた存在としてスクリーンに立ち上げてくれました。
─ フリーダさんは、脚本を読んだとき、カリーナというキャラクターについてどんな印象を持ちましたか?
フリーダ:彼女のことをすごく好きになりました。たぶん、誰からもすぐに好かれるタイプではないと思うんですが、彼女はとても楽しくて、一生懸命な人ですよね。母として、不器用ながらもルーを愛そうと努力しているのが伝わってきて、「ああ、この人、がんばってるな」と思いました。
私はまだ母親ではないので、“まだ完成されていない母”という存在には共感しやすかったのかもしれません。ローザ(ルー役)と親しくなる過程と、キャラクターへの理解が自然と重なっていって、気づいたら彼女との距離がすごく近くなっていました。
© 2023 STUDIO RUBA
─ カリーナにはミステリアスなところもありますね。 バックグラウンドや心情はセリフではあまり語られていない印象でした。
ザラ:子どもの頃って、自分のまわりで何が起きているのか、すべてを理解しているわけじゃないですよね。そういう、“まだ世界を完全には掴みきれていない感覚”を表現したくて、セリフではあえて多くを語らないようにしました。脚本の段階でも、説明しすぎることを避けて、観る人がそれぞれに想像できる余白を残すことを意識しました。
─ キャストのお二人とはどのようなことをよく話し合われましたか?
ザラ:リハーサルでは主に、ルーとカリーナの関係性に集中して向き合いました。撮影中も、二人の関係がどんどん深まっていくのを目の前で見ることができて、本当に嬉しかったです。彼女たちは、撮影の合間や車の中でもたくさんの時間を一緒に過ごしていて、その絆がスクリーンにも映っていると思います。
特に印象的だったのは、フリーダがローザにずっと対等に接していたこと。カリーナは、ルーに対して決して子ども扱いをせず、いつも真剣に向き合っているんです。その姿勢が、キャラクターの説得力につながったと感じています。
© 2023 STUDIO RUBA
02型破りな母の、ヒーローのような存在感
─ カリーナが車の上で叫んだりする場面がいくつかあったと思うんですけど、最初ちょっと躊躇したりはしませんでしたか?
フリーダ:ぜんぜん! 叫ぶシーンは大好きで、リハーサルの段階から何度も叫んでいたので、まったく躊躇はありませんでした。特にルーと車の屋根に登って叫ぶ場面は、本当に楽しかったですね。意外と高さがあってびっくりしたけど、眺めが素晴らしくて。「世界のてっぺんにいる!」っていう気分でした。
© 2023 STUDIO RUBA
─ カリーナがルーを「KIDDO」と呼ぶシーンもとても好きでした。気にかけていたことはありますか?
フリーダ:カリーナは、自分の子どもであるルーを「KIDDO」と呼ぶのがクールだと思っています。しかし同時に、ルーが「自分の娘」であり、また「子ども(kids)」という存在でもあることが、カリーナにとって少し捉えどころのないものに感じられている。「KIDDO」という言葉を使うことで、彼女にとって「子どもを持つこと」の理解を深めているのかもしれません。また、カリーナがルーを「KIDDO」と呼ぶのは微笑ましくもあり、それが二人の関係に、ある種の距離感を生み出しているようにも思えます。
─ カリーナの描き方には、ヒーローのようなカッコよさを感じました。
レイラ・メイジュマン(以下、レイラ):それはたぶん、カリーナ自身が“かっこいい自分”を演出してるからじゃないかと思います。悲しみや繊細さを抱えているけれど、それを見せないように強く振る舞っている。その姿が、結果的にヒーローのように見えるんだと思います。
あと、ルーがカリーナの服を真似したり、2人で“ボニーとクライドごっこ”をしたりするシーンも象徴的です。無意識のうちに、カリーナは誰かのロールモデルになっている。そういうところも、彼女を印象的にしている理由だと思います。
© 2023 STUDIO RUBA
─ 食事のシーンは、物語の転機になっている印象を受けました。
レイラ:ザラ監督がアメリカ映画、特にアメリカン・ニューシネマが大好きなんです。そしてこの作品は“ロードムービー”というジャンルでもあるので、そうした映画へのオマージュのような要素も含まれています。
もしかしたら、食事のシーンが印象的だったのは、そういった映画に影響を受けているからかもしれませんね。
特に「食い逃げ」のシーンについては、ポーランドでとても良いロケ地が見つかって、その場所を気に入ったことが取り入れたきっかけになっています。また、少しスリリングな、冒険要素のあるシーンを加えたいという思いもあって、あのシーンが生まれました。
─ちなみに、お気に入りのシーンはどこですか?
フリーダ:私は、車の中でカリーナとルーがタバコを吸う真似をするシーンがとても好きです。
可愛らしさの中に、カリーナの不器用さが表れていて、ふたりの関係性がすごく対等に描かれているように感じられます。
脚本の段階から「このシーンいいな」と思っていたので、完成した映像を見るのが楽しみでしたし、今でも大好きなシーンです。
レイラ:私もあのタバコの真似をするシーンは大好きです。とても繊細で、何層もの深みを感じさせるシーンですよね。ただ、私は「食い逃げ」のシーンですね。 これまで私はアートハウス系の映画を中心に作ってきたんですが、あのシーンを撮って「次はジェームズ・ボンド映画やりたい!」って思ったくらい(笑)。スタントも含めて大変でしたが、すごく満足しています。
© 2023 STUDIO RUBA
03記憶に残るシアター体験
—— 最後に、“映画体験”として心に残っている思い出を教えてください。
レイラ:私にとって特別なのは、やはり撮影セットに入った瞬間です。脚本を書いたり、ぴったりの俳優を探したりと、準備段階ではいろんな工夫をしますが、セットに足を踏み入れた瞬間、「魔法がかかったような別世界」がそこに広がっている。
あの瞬間の感動は、何度経験しても色あせることがありません。映画の魔法は、まさにそのとき生まれて、それは決して消えることのない、ずっと記憶に残る体験だと私は思っています。
フリーダ:『KIDDO キドー』のプレミアを行ったイタリアの映画祭「ジッフォー二映画祭(2023)」での体験がとても記憶に残っています。子ども向けの映画祭だったのですが、本当にたくさんの子どもたちが来てくれて、それには本当に驚きました。
ザラと私はその場で映画のワークショップやQ&Aも行ったのですが、子どもたちの質問がとても賢くて、深い内容のものばかりで、それにもとても感動しました。
この体験は忘れられないものになりましたし、ザラとふたりで「映画の未来は明るいかもしれないね」と話し合ったほどです。
ザラ:観客の前で自分の映画を観るというのは、いつだって、そして今でも、自分の赤ちゃんが初めて歩くのを見守るような感覚です。緊張で神経がすり減るし、転んでしまいそうな不安もある。ただ、息をのんで座っている内に、もう自分の手を離れたことに気づくのです。我が子はもう外の世界に出て、1人で歩き出している。そして自分にできるのは、ただ見守って、ちゃんと自分の道を見つけてくれるよう願うことだけです。
© 2023 STUDIO RUBA
04作品情報
絶賛上映中 映画『KIDDO キドー』
(Story)
ママがやって来る!児童養護施設で暮らす11歳の少女ルーのもとに、離れ離れだった母親のカリーナから突然連絡が入る。自称ハリウッドスターのカリーナは、再会を喜ぶルーを勝手に施設から連れ出し、「ポーランドのおばあちゃんのところへ行く」と告げる。カリーナにはルーとずっと一緒にいるための、ある計画があったのだ。「人生はゼロか100かよ、お嬢ちゃんキドー」。ルーは破天荒な言動を見せるカリーナに戸惑いながらも、母親と一緒にいたいという思いでついていくのだが…。
監督:ザラ・ドヴィンガー
出演:ローザ・ファン・レーウェン、フリーダ・バーンハード、マクシミリアン・ルドニツキ、リディア・サドウカ 他
原題:KIDDO|オランダ|2023 年|91 分|カラー|オランダ語・英語・ポーランド語|フラット|5.1ch|PG12
日本語字幕:近田レイラ|字幕監修:松本俊|後援:オランダ王国大使館、ポーランド広報文化センター
配給・宣伝:カルチュアルライフ
© 2023 STUDIO RUBA
映画『KIDDO キドー』公式 HP:https://culturallife.co.jp/kiddo_film/
映画『KIDDO キドー』公式X:@KIDDO_film
カルチュアルライフ公式Instagram:@culturallife_filminfo