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Do it Magazine01Food Director さわのめぐみさんのシゴトとシネマ
「続けていくパワーが欲しいときに観る作品」
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になることもある。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、Food Directorとして活躍しているさわのめぐみさんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
※感染防止に配慮して撮影しております。
02作品名
映画『幸せのレシピ』
監督:スコット・ヒックス
『幸せのレシピ』
ブルーレイ 2,619(円(税込)/DVD特別版 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
© 2008 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
03作品との出会い
料理に関する映画だったので、公開後にレンタルで借りて観ました。元気が出ないときとか、仕事でつまずくたびに観ている気がします。
04作品とのリンク
『幸せのレシピ』は女性シェフのお話で、映画の中ではプライドの高いシェフのように映っているんですけど、たぶん彼女はこれまでいろんなことを我慢して、努力してあの場に立っていたと思うんです。
ちょうど「女の料理人が強く在るためにはどうしたら良いんだろう?」と考えていた頃に出会った作品だったので、自分の想いとすごくリンクしました。
05作品から受けた影響
実は【ものがたり食堂】の一番はじめのテーマは『幸せのレシピ』だったんです。今年で7周年になるんですけど、1年に1度は思い出す映画です。原点を振り返られるというか、【ものがたり食堂】をはじめた当時の気持ちを思い出します。お料理の映画は他にもいろいろ観ていますが、そのなかでも特に思い入れがある作品ですね。
06作品によって解決された悩み
【ものがたり食堂】はもともとイベント開催で、1回で終わるつもりだったんです。継続して開催していくという気持ちではじめたわけではなかったので、自分のなかでも戸惑いがあり、正直「これでいいのかな?」と思っている時期もありました。
でも、1回目に来てくれたお客様が「次はどんなテーマでやるの?」って言ってくれたんです。私自身、誰かに喜んでもらえることがすごく好きなので、その言葉をいただいたことでその次も開催することを決め、絵本の『はらぺこあおむし』をテーマに2回目を開催しました。いつも続けていくパワーが欲しいときに『幸せのレシピ』をよく観ています。
07作品の魅力
一番は、料理が美味しそうというところですね。【ものがたり食堂】でも『幸せのレシピ』をテーマに開催したくらいなので、作品からはいろんなインスピレーションを受けました。
あと、公開当時の洗練された料理なので、今見ると少し古さや懐かしさもあるんです。イマドキの料理ではないんですけど、時代を感じられるので、料理をしている人が観るとたぶんより楽しめると思います。シェフの格好やクラシックなお皿など、「こういう時代もあったな」という視点で観るのも面白いです。
08インタビュー
――観る映画を選ぶとき、料理がテーマになっているとやはり気になりますか?
そうですね。ドキュメンタリーも含め、お料理系の映画は結構観ています。今回の作品セレクトも『レミーのおいしいレストラン』と悩みました。私のなかで元気がでる映画なので。
あと、俳優さんたちが料理を学んでいく姿をメイキングなどで観るのも面白いですし、料理を美味しそうに見せる技術もすごいなと思いながら観ています。誰が監修に入っているのかとかもチェックすることが多いですね。
――もともと、映画や絵本などがお好きだったんですか?
映画はすごく好きで、昔は2日に1本とかTSUTAYAで借りて良く観ていました。でも、だんだん仕事が増えてくるとあまり観なくなってしまって…。最近は、いただいた依頼の課題図書や課題映画を観る時間が増えました。
――これまで観てきた映画や絵本が、今のお仕事にも活きているという感じですね。
絵画や写真などと同じように、お料理は表現の1つだと思っているんです。私の場合はその“表現方法”が料理だったというだけで。きっと、【ものがたり食堂】などを通し、料理を作ることで作品の魅力を伝えているのだと思います。
――【ものがたり食堂】では、1度さわのさんの中で映画を解釈、変換し、お料理にしているということでしょうか?
そうですね。私のなかで読み取ったものを料理という形で出しているので、作品のなかに出てくる再現料理ではありません。
――観た映画や読んだ絵本は、どういう形でさわのさんの中に蓄積されているんですか?
先日ある編集者さんに、「それって共感覚ではないですか?」って言われたんですけど、それまで私もこの感覚がわからなかったんです。人によって、観たものや聴いたものが味に感じることもあるし、色に感じることもある。例えば風の音が聞こえたら、音を感じたり温度を感じたり、そういう感覚に似ていて。
私の場合、映画や絵本などの物語を通して、口のなかでシュワシュワする感覚が生まれるんです。梅干を見た時に感じるシュワシュワする感じが口のいろんな部分で感じるというか。だからこれまで、そういう感覚で観た作品のことを蓄積してきたんだと思います。
――そこから生まれる料理だと、すごくオリジナルなメニューになりそうですね。
私が一人で企画するときは、完全にオリジナルで作っています。私がその作品から感じた味で作るので、美味しいかは別なんですけど。でも、以前開催した【夜空と交差する幻燈の料理店】のときのように、他に企画者がいるときは、その企画者が思っているイメージをヒアリングするようにしています。そうしないと私だけの自己満になってしまうので。
――作品の観方も、よりオリジナルな捉え方で楽しめそうな感じがします。
作品を観れば観るほど混乱しますけどね(笑)。アウトプットをしないでいると、自分の脳みそがパンクしそうになりますし、煮詰まってしまうこともあるので。でも、次回の作品を決めてからは、その作品の同じシーンを何度も繰り返して観ることもあります。
――何度か観ていくうちに、感じ方も変わるのでしょうか?
変わりますね。たぶん色合いでいうと、色が薄くなっているか濃くなっているかの違いで、赤がいきなり緑になることは無いんですけど。
――料理を食べるお客さんに対しては、どんな想いがありますか?
もちろん美味しいと思っていただきたいという気持ちが一番ですけど、他のアーティストの方々と同じで、どう受け取るかは個々の感性だと思っています。説明を求められるときもあるんですけど、料理自体が私の表現なので、そこからそれぞれで感じ取っていただきたいというのが本当の気持ちです。でも、聞かれたらちゃんと答えるようにはしています。
咀嚼するということは、“噛む”ということであり“理解する”ということなので、食べることは、飲み込んで理解することと同じだなと思っています。なので、料理を食べることによって、その人のなかに何かが落ちれば良いなと思っています。
――さわのさんが今お仕事で一番大切にしていることは何ですか?
無理をしないことですね。料理人ですけど、自分では表現者だと思っているので。食事は、栄養として誰かの体の一部になるものなので、自分が無理をしていたり調子が悪かったりすると、その感情などが伝わって食べた人の体のなかに入ってしまうと思っているんです。それでは誰のためにもならないですし、無理して捻出しても、美味しいものは作れないと思っているので。
――今後やってみたいことはありますか?
実は今、絵本を出版したいと思っているんです。これまでは、誰かが作ったストーリーをご飯にしていたんですけど、自分の作ったストーリーでご飯を作ってみたいと思っています。
09プロフィール
さわの めぐみ
Food Director
家族全員が料理人という家庭で育ち、物心が着く頃には同じ料理の世界に。2年間イタリアにて修行後、2014年独立。ケータリング、ホテルやカフェのレシピ開発、フードイベントのプロデュースなど、様々な活動をしている。誰もが知っている物語をコース料理として楽しめる、食べるアートイベント『ものがたり食堂』の作品は30作品以上。現在、鎌倉にて完全予約制のレストランのシェフを務めている。
2017年 『わかったさんとおかしをつくろう!(全3巻)シリーズ』レシピ監修。
2018年 新刊『わかったさんのこんがりおやつ』にて『料理レシピ大賞 in japan』にて絵本賞を受賞。
2020年 『こまったさんのレシピブック』レシピ監修。
photo:Shota Watanabe
interview&text:Sayaka Yabe