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Do it Magazine01お笑い芸人 スクールゾーンのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になることもある。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、お笑い芸人として活躍しているスクールゾーンの橋本稜さん、俵山峻さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
※感染防止に配慮して撮影しております。
02俵山峻さんのシゴトとシネマ
映画『茶の味』
監督:石井克人
『茶の味』
DVD発売中
発売元:カルチュア・パブリッシャーズ
©2003「茶の味」製作委員会
――作品との出会いやきっかけを教えてください。
俵山 もともと母が映画好きだったので借りてきたDVDをよく一緒に観ていたんですけど、『茶の味』は中学生くらいの時に観て衝撃を受けた作品でした。ワンシーンごとのコメディ要素が強くて、観ていたら思わずゲラゲラと笑ってしまって。その頃お笑いにもハマり出していたんですけど、人間をリアルに描いているところがまた全然違うタイプの笑いに触れた感じがして、すごく衝撃的でした。
――作品からはどんな影響を受けましたか?
俵山 定点で長回しの「のぞき見シネマ」という動画を毎週土曜日にYouTubeへアップしているんですけど、先日改めて『茶の味』を観たときに、この作品に影響を受けていたのかもしれないと思いました。突飛なことをせず、日常を切り取るだけで面白いという感じが。
――映画で悩みが解決されたエピソードはありますか?
俵山 高校生のときにはもう芸人になることを決めていたんですけど、進学校だったので、周りはほとんど大学に進学するし、先生や親も「進学した方がいいんじゃない?」と言っていて。そんな時にウディ・アレン監督の『さよならハリウッド』という映画を観たんです。その作品の中でウディ・アレン監督が「周りから何を言われても“はい、わかりました”って言って、全然違うことをしてしまえばいいんだよ」って言っていて。
そのシーンを観たときに、「これでいいのかも」って思えて、そこから芸人を目指して進むことができました。あのワンシーンとあのセリフで自分を肯定してもらうことができたし、改めて今の自分に繋がっているなと感じています。
03橋本稜さんのシゴトとシネマ
映画『A.I.』
監督:スティーブン・スピルバーグ
『A.I.』
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
©︎2001 Warner Bros. Entertainment Inc. and Dreamworks LLC. All rights reserved.
――作品との出会いやきっかけを教えてください。
橋本 子供の頃に金曜ロードショーで観たことがきっかけでした。人間になりたいロボットのお話で、非現実的なんですけどどこか夢があって素敵だなと。そして、『A.I.』を観てからSFが好きなんだと気付きました。
――作品からはどんな影響を受けましたか?
橋本 コントをつくるときの発想に影響を受けているかもしれません。僕がコンビニで働く人の役で、俵山がコンビニのレジのなかに住んでいるおじさんという設定のコントとか。あと、『A.I.』に出てくるロボットの子供は普通の人間よりも更に人間らしい感じだったので、“人間臭さ”みたいな部分も影響しているような気がします。
――映画で悩みが解決されたエピソードはありますか?
橋本 仕事をするための原動力に繋がることはありますけど、「こうやって撮っているんだ」とか、「このシーンやこの画がすごく良い」という感じで映画を観ているので、悩みを解決するためとか元気を出すためという感覚で観ることはあまりないですね。「のぞき見シネマ」を始めたことで、より作り手の視点で映画を観るようになりました。
04スクールゾーンのお二人へインタビュー
――「のぞき見シネマ」をはじめたきっかけは?
俵山 単独ライブをやるときに、コントとコントの間の時間をVTRで繋いでいたんです。その時間に流すVTRとして、2人で映像を撮って、後から副音声みたいな形で音声を付けていて。その動画を「のぞき見シネマ」という形でYouTubeで流すことを決めて、副音声のツッコミを入れないようにしていって、今の形になりました。
――芸人になろうと思ったきっかけもお伺いしたいです。
橋本 僕が通っていたのは農業高校で、就職率が99%くらいの学校だったんです。当時就職するのが嫌だったので、どうしようかと悩んでいたんですけど、とある帰り道に自転車を漕いでいたら、おばあちゃんとぽっちゃりの男の子の孫が歩いてきて。おばあちゃんがランドセルを持って、男の子が泥だらけで泣いていて、その2人の間に会話が無かったんです。その2人とすれ違った瞬間、「あ、芸人になろう」って思いました。
――なんかドラマチックですね。
橋本 もう感覚でしたね。それが何だったのか今でもわかっていないんですけど。芸人になろうと思った場所の風景とかも鮮明に覚えているんです。あの時僕が有名で知名度もあったら、あの2人を喜ばせることができただろうなと。たぶん、あの時何もできなかったのが悔しかったんだと思います。当時お笑いはあまり見ていなかったですし、寧ろあまり興味もなかったので。
――俵山さんはいかがです?
俵山 先ほども少し触れましたけど、僕は中学生の頃にはもう芸人になりたいと思っていました。好きなことを仕事にしたいと思って、高校卒業後に養成所へ進みましたね。
――お笑いへの強い想いを持っていたんですね。
俵山 もともとは「M-1グランプリ」や漫才師に憧れてこの業界に入ったんですけど、今はもう漫才はやっていないので、どんどん変わってきていると思います。
――どのような変化が?
俵山 5年目の頃に2人で漫才だけをやる単独ライブを開いて、1ヵ月くらい練って考えたんですけど、びっくりするくらい全部がすべったんです。漫才はダメだ、どうしよう、と思っていた頃、神保町花月でやるお芝居が楽しかったので、コントをやってみることにして。そこからコントを作ることが楽しくなっていきました。
――コントで行こうと決めたとき、一押しになった言葉や出来事ってあったんですか?
俵山 吉本名物の作家さんで、山田ナビスコさんという方がいるんですけど、ある時山田さんが「スクールゾーンはコントじゃない?」って言ってくれたんです。
――心強いですね。
俵山 あとは、いろいろなことを試した後にちゃんとコントを作ったら、ネルソンズの和田まんじゅうさんが「めちゃくちゃ面白い」と言ってくれて。もう賞レースには出ないようにしようと思っていた時期だったんですけど、和田まんじゅうさんが「全然行けるから」って背中を押してくれて。そこから賞レースに向けてコントを作るようになりました。
――先ほど、コントや「のぞき見シネマ」で映画の影響を受けているとお話されていましたが、お2人は普段映画のどんな部分を観ているのでしょう?
俵山 僕は登場人物の人間のダサさとかをすごい観てしまいます。先日『空白』(𠮷田恵輔監督)を観たときも、寺島しのぶさんの役が本当にリアルで。人間過ぎて面白くて引き付けられました。
橋本 あの終盤のシーンを撮るために、この作品を撮ったんじゃないかってくらいだったよね。
俵山 そういう人間の本当の部分というか、本質のところで魅了してくる感じとか、自然の人間の成り行きで面白く見せているところがすごく好きです。
――それは、質感や間やカットなど、映画でしか味わえない感覚なんですかね?
俵山 そうだと思います。
橋本 なんか良いんだよね、あのボディにくる感じが。
俵山 絶妙にひきつってる顔とかね。
橋本 衣装とかもね。
――となると、鑑賞する作品は人間ドラマが多いです?
俵山 そうですね……でもマーベル作品とかも観ます(笑)。観る前の心持ちとかは違いますけど。これはずっしり来そうだなという作品は腰を据えて観ますし、マーベルを観るときのワクワク感とは質が少し違いますね。
橋本 マーベル作品とかは、音の出るスナック菓子って感じで、『怒り』(李相日監督)とか『空白』とかはちゃんとお出汁のきいたご飯を食べに行くみたいな感じです。
――どんな時に映画を観に行こうって思うんですか?
橋本 ちょっと時間ができて、心を動かしたいときに観ることが多いですね。映画を観て学んで、のぞき見シネマに活かしています。
――お気に入りの劇場とかあるんですか?
橋本 「映画観に行こう」って思ったら、まずはミニシアターの情報を調べますね。下高井戸シネマとか、テアトル新宿とか。
俵山 ミニシアターは没入感があるよな。
橋本 お客さんも下手なところで笑わない感じで、みんな作品をボディでくらっている感じがするんですよね。
俵山 観終わった後、深いため息が出るもんな。
――ミニシアターに行くようになったのは何かきっかけが?
橋本 観たい映画を調べたらミニシアターの情報が出てきて知りました。あとは、全国で公開していないような韓国ドラマが公開されたときに調べて行くようになった感じです。
俵山 以前早稲田に住んでいたんですけど、高田馬場に行く途中に早稲田松竹があって。こんなところがあるんだって知って、調べて観に行くみたいな感じでしたね。地元は田舎で、大きな映画館しか無かったので。
――観る映画はどこで選ぶことが多いですか?
俵山 Twitterでミニシアターの公式アカウントがタイムラインに流れてきて知ることが多いんですね。後はポスターとかですかね?
橋本 僕はあらすじというか、どんな内容の話なのかですね。劇場に入ってから予告編を観て気になる作品に出会うこともあります。あとは韓国映画かどうか、です(笑)。
――本当に韓国の作品がお好きなんですね(笑)。
橋本 サブスクとかでは観れない作品も劇場で観たいですし、何回も上映してほしい過去作もあります。『A.I.』ももう一度劇場で観たいです。
――既にドラマなどにも出演されていますが、今後はお芝居もどんどん挑戦していきたいですか?
橋本 やっていきたいですね。演じている方が楽しいので。
俵山 できれば「キングオブコント」で決勝とかまで行って、コントで皆さんに認知してもらえたら、お芝居系の仕事もどんどんしていきたいです。
――ご一緒してみたい監督は?
橋本 僕はいつか韓国映画や韓国ドラマに出てみたいです。
俵山 (『茶の味』の)石井克人さんはもう映画撮らないんですかね。出演まではいかなくても、いつかお会い出来たら嬉しいです。話を聞いてみたいので。
※モノマネの撮影をするお二人
――スクールゾーンとしての今後の方向性、やってみたいことを教えてください。
俵山 新しいジャンルを作れたらいいなと思います。お笑い芸人だからとか、コントだからとかではなく、スクールゾーンがやることっていいよねみたいな。
橋本 そうだね。あと、大きい映画館ではなく、ミニシアターで居たいです。
――具体的な動きはありますか?
橋本 ミニシアターを借りて、「のぞき見シネマ」をオムニバスで上映したいです。上映した後に、出演した役で僕らがトークをするみたいなイベントはいつかやろうと思っています。
俵山 今の「のぞき見シネマ」ももう少しカットを割って、どんどん映画のようにしていきたいです。
橋本 ちゃんとこだわっていって、「これでいいか」とならないように。
俵山 あと、もっと時間をかけられたらと思っています。嘘の無い人間の形で、コントや「のぞき見シネマ」を作っていきたいです。
05プロフィール
左:橋本稜 右:俵山峻
スクールゾーン
お笑い芸人
吉本興業に所属するお笑いコンビ。2010年12月結成、NSC東京校16期出身。
スクールゾーンchannel:https://www.youtube.com/channel/UCwiPUZyuFkrQqAmRW93tLgA/featured
橋本 稜(はしもと りょう) 中学生の時に「冬のソナタ」を見て、韓国ドラマにハマる。 それから15年間韓国ドラマを見続け、独学で韓国語をマスター。 橋本が発信している、日韓ミックス言語「チンチャそれな」が若者の間で流行中。 韓流あるあるをSNSに投稿している。
Twitter:https://twitter.com/schoolzonehsm
Instagram:https://www.instagram.com/schoolzonehsm
俵山 峻(たわらやま しゅん)
絶対音感を持ち、バイオリンを弾ける。憑依的な演技が得意で、老若男女問わず様々なキャラクターを演じSNSに毎日投稿中。
Twitter:https://twitter.com/masakomottai
Instagram:https://www.instagram.com/tawara711
photo:Natsuko Saito
interview&text:Sayaka Yabe