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Do it Magazine01Do it Close-up (ドゥイット クローズアップ)
Do it Theaterの宮原千波が、今気になるシアターカルチャー(シアターにまつわるカルチャーのあれこれ)をクローズアップし、レポートとしてお届けする新企画です。
今回は、9月16日(金)に墨田区菊川にオープンする新しい映画館『Stranger(ストレンジャー)』を徹底取材してきました。
目次
①新しい映画館『Stranger(ストレンジャー)』
②名前の由来が面白かった!
③とことん映画を語り合える場所
④今、一から映画館を作る想いとは
02新しい映画館『Stranger(ストレンジャー)』
新しいスタイルを提供する映画館『Stranger(ストレンジャー)』が9月に東京の墨田区にオープンします。場所は都営新宿線の菊川駅から徒歩1分。
何もかも新しい映画館が誕生するということで、Do it Theaterとしては見逃せません!
どんな特徴のある映画館なのか、どんな作品が上映されるのか、なぜ今映画館を新しく作ったのか、気になることがたくさんあります。
そこで、工事中の現場にお邪魔して、『Stranger』のチーフ・ディレクター、岡村忠征さんにいろいろとお話を聞いてきました!
新しい映画館『Stranger(ストレンジャー)』とは
「映画を知る」「映画を観る」「映画を論じる」「映画を語り合う」「映画で繋がる」という5つの体験を一連の映画鑑賞体験として提供する新しいスタイルを目指した映画館です。
・映画を知る:SNSを活用し様々な映画情報を映画館スタッフの顔が見えるスタイルで発信します
・映画を観る:特集上映をメインに作品編成。映写・音響は既存映画館と比較して遜色ない上映環境品質を実現します
・映画を論じる:映画メディアを主催し上映作品以外の様々な映画についても多角的に論じていきます
・映画を語り合う:お客様と交流する映画館を目指し併設のカフェを中心にコミュニティをつくります
・映画で繋がる:愛される映画館ブランドを目指しオリジナルグッズなどで一体感を生み出します
詳細は公式のクラウドファンディングページから ※2022/9/14時点の情報です。
クラウドファンディング:https://motion-gallery.net/projects/stranger
HP:https://stranger.jp
Twitter:@strangelove2022
Instagram:@stranger.tokyo
Facebook:@stranger.tokyo
03名前の由来が面白かった!
8月某日、絶賛工事中の映画館へお邪魔しました!まだテーブルや座席はなかったので、配置を説明してもらいながら、頭の中でイメージ。椅子をお借りして完成前の映画館のど真ん中でインタビューさせてもらいました。
宮原:岡村さん初めまして。Do it Theaterの宮原千波です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。
岡村:『Stranger』チーフ・ディレクターの岡村です。よろしくお願いします。
宮原:一言で表すと『Stranger』はどんな映画館ですか?
岡村:スケボーショップやレコード屋のような映画館ですかね。
レコード屋さんって、実際にレコードを買う時間は5分とか10分とかそんなものなんですけど、そのあと1時間くらいお客さんと店員さんがレコードや音楽のことを話してたり盛り上がったりしていて、なんなら他のお店で買ったレコードの話をして情報を交換することもあります。そんなコミュニティがいいなと思っていたんですけど、映画館って今でも非日常場って感じで、映画館のスタッフってお客さんと距離がある、硬いコミュニケーションだと思うんです。もっとお客さんと店員の距離が近く、同じ趣味を共有する仲間のようなスタンスの映画館があると、現代的な映画館になれるんじゃないかと思うんです。なので、スケボーショップやレコード屋のように、スタッフとお客さんが同じ目線でコミュニケーションする映画館というのが答えですかね。
宮原:『Stranger』のコンセプトの一つであるカフェは、そういう気軽に話せるというコミュニケーションを意識して作っているということですね!
岡村:はい。映画館って基本的に、売店というものがありますが、映画館の売店ってあまりコミュニケーションをする場所じゃないと思うんです。だけど、せっかく映画をみたあとに自分の感想や疑問点を誰かと喋りたいと思った時に、映画館を出てTwitterで感想を呟いたりしないといけないのはすごくもったいない。だから、感想とか思ったことを見知らぬ人ともコミュニケーションできる場を作ることを考えた時、売店じゃなくて、カフェを併設したいなと思いました。
宮原:ちなみに、カフェで買ったものは中に持ち込めますか?
岡村:ドリンクは持ち込むことができます。
宮原:オリジナルのコーヒーの他にはどんなドリンクメニューがありますか?
岡村:自家製のレモネードやオリジナルのフルーツパンチを用意する予定です。どこでも買えるコーラとジンジャーエールに高いお金を払って劇場に持ち込むのではなくて、カフェとしてもクオリティの高いものにしたいので、自家製のものにこだわっています。
宮原:フードは販売しますか?
岡村:サンドイッチとタパスを何種類か。
宮原:本当に「カフェ」なんですね…!
岡村:そうなんです。サンドイッチもオリジナルで開発しています。『Stranger』の名前って、裏テーマとして西部劇があるんですよ。『荒野のストレンジャー』(1973年)というクリント・イーストウッド監督の映画がありまして、それが店名の由来の一つになっているんです。他にもあるんですけど。西部劇ってやっぱり映画の原点みたいなものなので、西部劇をなんとなく連想させるようなメキシカンフードや、中南米の食べ物・飲み物をコンセプトにしています。だからコンセプトは「モダン・フロンティア・スピリット」と呼んでいます。アメリカの西部開拓をイメージさせる食べ物・飲み物をモダンに洗練させて提供する。なので、サンドイッチとかもチキンとパイナップルをあえていたり、エスニックな感じの工夫をしています。
宮原:西部劇がテーマの一つになっていたのは意外で驚きました。
岡村:僕が影響を受けた作品や監督に『荒野のストレンジャー』とか、あとジム・ジャームッシュ監督『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)とか、オーソ・ウェルズ監督の『ストレンジャー』(1946)とか、自分が影響を受けた作品の中に“ストレンジャー”がキーワードとして出てきたんですよ。よく考えたら、ストレンジャーって要するに「さすらいの人」とか「見知らぬ人」っていう意味じゃないですか。そしてストレンジとなると「奇妙な」とか「変わってる」って意味ですが、変わっていることとか奇妙なこととかさすらう人とか、そういうのがごろっと画面に出てくるのが映画の面白さだなと思うんです。“ストレンジャー”って映画の本質に触れるようなワードだなと思ったので、『Stranger』という名前にしました。
それと同時に、僕自身もずっと映画の業界にいたわけじゃないので、この業界にとってはストレンジャーだと思う。だからある意味、部外者だからこそ自由に新しいことをやろうという意味でつけています。
宮原:話を聞けば聞くほど、この名前がしっくりきますね。◯◯シネマとか、◯◯座とかそういうのが多いじゃないですか。
岡村:既存の映画館とは違う新しいことをしようとしているので、そういう名前の付け方に囚われないようにしようというのは初めから考えていました。
宮原:ロゴも青と白を基調にしていて素敵だなと思っていました!
岡村:それも西部劇の抜けるような青空とか、荒野を吹く風とかをイメージしています。
04とことん映画を語り会える場所
宮原:上映作品について、最初は「ゴダール特集」ということですが、新作の映画なども上映していくのでしょうか?
岡村:はい、もちろん上映します。上映方針としては、一つ目は作家主義的な特集上映。二つ目は日本で上映権利が切れている作品や日本の劇場では観ることができない貴重な作品を直接買い付ける。三つ目は、みなさんが見逃した質の高い作品を2番館3番館としてかける。封切りはどうしても小さい規模の映画館なのでかけられないんです。なので一通り上映が終わったものを3〜4ヶ月遅れで上映するというのはやっていきたいと思います。
宮原:上映する作品はミニシアター系やアート系の作品なんでしょうか?
岡村:基本的にはそうですね。でも僕自身アメリカの娯楽映画も大好きなので、そこはジャンルレスでいきたいと思っています。
宮原:特集上映とか他であまりやっていないですよね。
岡村:そうですね。普通映画館が自分のところで上映するために直接作品を買い付けるってやらないと思うんですけど、うちの場合、ジャン=リュック・ゴダール作品は直接フランスのゴーモンとやりとりしていますし、第2弾として予定している作品も、ここで上映するためだけに直接買取しました。配給まではなかなか手が回りませんが、限定的な買い付けであれば我々もトライして、なかなか見られない作品を見られる映画館として特徴を出していきたいなと思っています。
宮原:WEBメディアにも力を入れていくそうですが、具体的にはどんなメディアにしていくのでしょうか?
岡村:映画批評をやりたいです。今、映画批評を読む人って少なくなってきていると思うんですけど、僕たちは劇場でありながら作品についても論じていきたくて、読み応えのある映画批評を外部の著名な執筆人とかに依頼して書いていただくというのをやろうと思っています。
宮原:WEBでの発信のみですか?
岡村:いえ、ペーパーでも発行します。まずは、ゴダール特集に合わせて、『Stranger Magazine』というのを創刊して第一号を出そうと準備しています。執筆者も豪華で、ゴダール研究で有名な堀潤之(ほりじゅんじ)さんや『新映画論』を著作して注目されてる映画評論家の渡邉大輔(わたなべだいすけ)さんや、映画批評家の大寺眞輔(おおでらしんすけ)さんや佐々木敦(ささきあつし)さんなどに執筆を依頼して、すでに原稿をいただいています。
宮原:Do it TheaterもWEBでマガジンを書いているので、上映だけでなくさらに深いところを発信するというのは、似ているところがあるなと感じました。
岡村:そうですね、確かに。既存の映画館で映画批評や映画記事を発信しているところってほとんどないと思うので、上映する主体者でありつつも、映画を批評することを主体的にやっていきたいなと思います。
宮原:批評って聞くと硬そうな感じがしますが、Filmarksを利用したり考察を調べたり、実は多くの人が作品を深く感じたいと思っているんじゃないかと思うので、とてもいいと思いました。実は私は大学で映画評論を専攻していたので、映画批評の面白さはすごくわかります!
岡村:想定しているお客さんは映画好き以上シネフィル未満だと思っていて、映画好きで映画をたくさん観ているけれど、単に珍しい作品を観て終わりというよりかは、その辺をきっかけにしていろいろコミュニケーションしたいっていう人たちに来ていただきたいなと思っています。硬い映画批評からおすすめ映画の紹介まで発信したいなと思っています。
宮原:ここはカフェのある映画館なので、コアな映画好きの人たち以外も、ミニシアターを見るきっかけになったりとか、もしかしたら意外とゴダールを好きな自分に気づけるかもしれないし、そんなきっかけを作れる場所になっていけたらいいですよね。
岡村:まさにそうですね。カフェをきっかけにして映画と新しい出会いが生まれるといいなと思います。
宮原:もはや映画を観ずにカフェだけの利用でも大丈夫なんですかね(笑)?
岡村:そうそう、ここで観たお客さんに立ち寄っていただくというのはもちろんなんですけど、それだけじゃなくて、例えば「別の場所で映画を観てきたんですよー!」って言ってその感想を言いにカフェにくるとか、そういう人たちが増えるとよりいいなと思いますね。入り口のガラス面を大きくしているのもそういう意図があって、「こんちわーっす」って感じで映画の話をしに来てコーヒーを飲んで帰る、そういうイメージもしてます。
宮原:本当に素敵です。そういうフランクな場所にしていくために具体的にはどんなことをしますか?
岡村:凄く距離感の近いトークセッションなどをしようと思っています。この劇場は舞台挨拶ができるようにしていないんですよ。壇上に乗ってそこで人が話をするっていうよりも、カフェでゼミ形式でトークセッションをしたりするとか、そういうことをやっていきたいと思っています。
あとはやっぱりスタッフですよね。単にコーヒーを出したり劇場を案内したりするんじゃなくて、コミュニケーションするためにいるスタッフなので、初めて来られた方にも気軽にこちらから話かけていきたいなと思っています。
05今、一から映画館を作る想いとは
宮原:そもそも映画館を作るきっかけは何だったのでしょうか?
岡村:僕、もともと二十歳で上京してから映画館・配給会社・映画制作の現場と20代後半まで働いてきたんです。映画を作りたいと思っていたんですけど、映画監督とは別の角度で映画を作るってことにアプローチしようと思っていて。その時に映画雑誌を作って批評したりとかそういう側面から映画に関わる道筋を作れないかなと思ったんですよ。それで雑誌を作れるようになろうと思って、デザインを始めました。そこからはここ20年ほどはずっとデザインの仕事をやっていて映画とは距離があったんです。だけど45歳になって、これから先どうやって行こうかなと思った時に、自分の事業や自分のブランドを立ち上げたいと思いました。それだったら自分が努力しなくても夢中になれることで、人よりも何らかの経験があることを考えるとやっぱり映画だなと思いました。そんなときに、銀座の土橋の試写室で2021年の11月に一般の人に開放して特集上映会をやっていて、たまたまそれを見に行って、小規模映画館だったら僕にもできるかもしれないと思ったんです。映画館ってなかなか現代的にアップデートされていないと思ったので、自分が培ってきたデザインやブランディングの経験やノウハウを使って新しいスタイルの映画館を作り出せば、そこに共感してくれる人がいるんじゃないかと思い、立ち上げました。
宮原:なるほど。培ってきた経験値と自分の目指したい映画館のスタイルが『Stranger』の元になっているんですね
岡村:「エースホテル(Ace Hotel)」って知っていますか?アメリカ発のホテルで高級なんですけど、ホテルマンがジーンズとパーカーを着ていたりしていてハイタッチなんかして、ホテルのロビーも夜になるとガンガンクラブミュージックが流れていて、まさにクラブみたいなんですよ。オリジナルグッズも充実していて…。高級なサービスのあり方が変わってきているというか、格式張ってお客さんに丁寧に接するって言うだけじゃなくて、むしろお客さんとすごくフレンドリーに話しながらもお客さんが求めている体験を提供するという方向もあるなと思って。映画館もホテルと一緒なんですよ。支配人がいて、ドアマンがいて。なのでそんなハイタッチ文化な映画館があってもいいと思ったんですよね。
僕たちが勝手に呼んでいるのは“ 映画館のサードウェーブ ”。アップルストアやブルーボトルコーヒーのように、お客さんと好きなものを共有して仲間という感覚でお付き合いしていく。でも、提供しているものはハイグレードです。
宮原:どうしてこのエリアに映画館を作られたんですか?
岡村:最初は学芸大とか中目黒とかカルチャーの感度が高い街でやりたかったんですよ。
でも東京の西側って都市計画法で 住宅地に指定されているところが多くて 映画館って商業地域か工業地域じゃないとできないんですよ。だからなかなか法律をクリアできるところが見つからなくて。その時にふと新しいことをやろうとしているんだから、新しい場所でやるのもいいんじゃないかと思って。それでちょっと東の方へ目を向けると、法律の壁をクリアできるところがあったんです。しかも東側にミニシアターが一軒もないことに気づいて。ここら辺のエリアは、ある意味インディペンデントなスピリットがあるなと思っていて、僕がやろうとしていることも同じような事なので、合っているんじゃないかと思いました。実際に駅から近い物件が見つかり、天井高があったので、大きなスクリーンが設置できるここしかないなと思いました。
宮原:本当に駅から近くてびっくりしました。周りに居酒屋がたくさんあるので、夜映画を見た後、ここのカフェで語りつくせなかったらそのまま飲みに行くこともできますね。
岡村:いいと思います。町全体が盛り上がってくれるといいですよね。現代美術館も15分くらいだし、そういう意味では新しいカルチャーの発信拠点になればいいなと思っています。
宮原:岡村さんにとって、この仕事の原動力になっている作品はありますか?
岡村:フランシス・フォード・コッポラ監督の『タッカー』(1988年)ですかね。ずいぶん昔に見ていたんですけど、この前観直したらすごく勇気をもらいましたね。タッカーという人が全く新しい車を作るんです。大きい会社に邪魔をされながらも新しい車を開発して発売するんです。それで、タッカーって人がクレイジーなんですよ。そしてすごくパワフル。映画館をやるってすごく数字的にシビアなんです。でも今の時代に映画館を作るなんて、頭おかしいじゃないですか。絶対金持ちになれるはずではないので。でもそこに可能性を見出して頑張っているんだから、タッカーのようにアグレッシブさとクレイジーさを大事にしようと思いました。自分がやろうとしていることは結構無茶でクレイジーなことだからその魅力を失わないようにと思っています。
宮原:本当にそれこそDo it Theaterも似ているところがあるなと思います。私たちのイベントは会場が毎回違うので、会場作りから始めるんです。やっぱり会場によっては、いろんなハードルがあって厳しい状況になることもあるんですけど、だからこそみんなでやり切ろうっていう気持ちやいいものを作ろうというアグレッシブさはありますね。
宮原:最後に、お客さんにどんな楽しみ方をして欲しいですか?
岡村:『Stranger』をブランドとして感じてもらいたいです。『Stranger』が映画好きの象徴と言うか、そんな風になりたいなと思っています。だからオリジナルグッズはかなり充実しています。映画好きの人は『Stranger』のTシャツを着ているとか、『Stranger』のトートバッグを持っているとか、『Stranger』のグッズを持っているということが映画好きであることの誇りになる。そんな存在になるといいなと思っています。
宮原:9月16日のオープンが楽しみです!!本日はありがとうございました。
実際にお会いしてお話ができて、岡村さんの映画館に対する情熱にとても共感しました。そして、Do it Theaterが作っているシアターやカルチャーに近いものを感じました。次はオープンしたときに映画を観に行って、実際にストレンジャーの魅力をたっぷりと体験したいと思います。体験レポートもお楽しみに!
photo:Shota Watanabe