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Do it Magazine01画家 尾潟糧天さんのシゴトとシネマ
「制作に対してのヒントをもらった作品」
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になることもある。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、画家として活躍している尾潟糧天さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
※感染防止に配慮して撮影しております。
02作品名
『LIFE!/ライフ』
監督:ベン・スティラー
『LIFE!/ライフ』
ブルーレイ発売中/デジタル配信中
(C)2015 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン
03作品との出会い
純粋に1番好きで、映画からもらっている影響もすごくたくさんある作品です。『LIFE!』は学生時代に観たんですけど、自分の「少しリスクがあってもやりたいことはやろう」というマインドは、この映画からもらっている部分が大きいです。
04作品から受けた影響
『LIFE!』は基本的にブルーベースっぽい色彩感がずっと続いているんですけど、主人公のウォルター・ミティが選ぶ車や、山の中で着ているウェアが赤で。そのコントラストが効いているところとか、全体的な色彩感が好きで、ビジュアル的なところからはすごく影響をもらいました。
あとは、制作に対してのヒントももらいました。制作するにあたって、自分との対話をするタイプの人と、自分の中のものをアウトプットするタイプの人と、外の世界を見て、それを作品に落とし込むというタイプの人がいると思うんですけど、僕は完全に後者で。
人と話をしたり、実際にその場所まで行って自分の目で見たりすることをヒントに制作していることが多いので、そのきっかけになったのはこの映画でした。
05作品によって解決された悩み
制作活動は自分のコンディションやモチベーションを保つことがすごい重要で、バイタリティが低下したり、インプットが足りていなかったりするとかなり苦戦するんです。
なので、インプットが足りていないときは映画を観ることが多いですね。実際にその場所へ足を運んでいろんなものを見たり、人と話した会話のなかからヒントを見つけたりします。映画には自分のなかを循環させる解決策があるのではないかと思っているので。
06作品の魅力
『LIFE!』は、とてもワクワクする映画です。自分もこうなりたいと思えるところとか、主人公の成長や心境の変化などに親しみがあり、主人公の立場になった感覚が楽しめるところがあります。そういう意味でも没入感があるし、変化していく様子も、かわいらしくコミカルに描かれていて。
いつ観てもハッピーになれる映画であり、ビジュアルもかっこいいところがすごく魅力的です。あと、観るたびに新しい発見があったり、新しいヒントをもらえたりします。
07インタビュー
――『LIFE!』のなかで、響いた具体的なシーンやセリフがあれば教えてください。
主人公が働く会社のスローガン「世界を見よう、危険でも立ち向かおう、壁の裏側をのぞこう、もっと近づこう、お互いを知ろう、それが人生の目的だから」という言葉がとても好きですね。あと、主人公のミティがヘリコプターに乗り込むシーンは、保守的であまり変化のない日々から、行動的になっていくという1番切り替わりの見えるシーンで、すごく勇気をもらえます。
――先ほど影響を受けた部分でお話されていましたが、映画を観るポイントとして、色彩感を捉えて楽しむのは新たな発見のように感じました。
以前、グラフィックデザインの学校に通っていた時期があり、映画のフライヤーを作る授業で、『LIFE!』のポスターを作ったんです。そのときに何回も何回も『LIFE!』を観ていたので、色味の部分などの細かなこだわりを発見していきました。
そこからどんどん、ビジュアル面でも好きになっていった感じですね。都会の景観から一気に大自然の景観に移り変わっていくんですけど、その景観の変化に比例して、主人公の外見や表情が変化していく様子とか、わかりやすく伝えるためにいろいろな思考が凝らされていると思いました。
――映画はどんな部分に惹かれることが多いですか?
年齢を重ねるごとにどんどん変わってきています。それこそ『LIFE!』を観た20歳頃は、感情の動きとかを一番観ていて、外側よりも内側を観ているような感覚でした。
自分もそういう風に考えたいとか、こういうことをしたいとか、自分の感情面が動かされるようなインプットの仕方だったんですけど、25歳を過ぎてからは、どちらかというと外側を観ることが増えてきました。どうやって作っているんだろうと考えたり、色彩感を観たりとか。昔は人生のヒントにしていましたが、最近は制作のヒントにしている部分もある気がしています。
――映画以外からも、そういう影響を受けることが多いですか?
本や文章を読むこともすごく好きです。展示のコンセプトなども毎回力を入れて書いているので、文章が人に与える影響はすごく興味があります。本は、文章を読んで自分の頭のなかで映像を作っていくので、直接映像を観るのとはまた違う感覚があると思うんです。そういう意味でもよく本は読んでいますね。
あと、実際にその場に行くということも大切にしています。描くときに、人がどう見るのか、どう考えるのかというところを重視しているので、できるだけいろいろなところに行って人と話をして、そこからヒントをもらうことが多いです。
――尾潟さんは、今のお仕事ではどんなところを大切にしていますか?
作品制作において、自分との対話というよりも、自分が作ったものと観賞者の対話にすごく興味があるんです。できあがった作品と、それを見る人の間にどのようなコミュニケーションが生まれるのか、どういう価値観が生まれるのかとか。あと、それを見たことによって、その人の考え方がどう変わるのかというところにも興味があります。
理論的に構築しているところがあるので、作品と鑑賞者の対話に持っていくために、そこまでのプロセスを複雑に構築するということを大切にしています。あまり右脳で感覚的には書いていなくて、それよりも、見ている人が感覚的になってほしいなと。
――作品を見る人も含めた作品作りという感じなんですね。
はい。だからアーティストというよりも、デザイナーに近い所があるのかもしれません。
――その制作のスタイルは、作り始めてから徐々に構築されていったのですか?
始めた頃は降ってきたものや頭の中にあるものを描いていたんですけど、初めて展示会を開いたときに、「人が見るというということはどういうことなのか」「人から評価されるということはどういうことなのか」ということを肌で実感して。
どういうカタチが一番良いのだろうと考えつつ、理屈っぽいタイプであるところを受け入れて、それにあった描き方をしようと思うようになりました。「人に見てもらう」というきっかけがあったことが大きかったです。
――作品を見てもらうことで、そこからまた新たな創作が生まれるという感じでしょうか?
そうですね。僕が思っているものと、見た人それぞれが持っている知識や経験も違うので。その人と作品の間に生まれる感情から、新たなヒントがもらえることもありますし、そこが本当に興味深いなと思っています。
08プロフィール
尾潟 糧天(オガタリョウテン)
現代画家
現在は東京を拠点に活動中。生まれの地である北海道の大自然の中にアイデンティティを見出だし、海の凹凸まで再現したリアリスティックなペインティングを得意とする。また、海という限定的なモチーフを核とし、絵画の他にもデジタルアートやプロダクトデザインなど多角的な表現方法で作品を展開している。
Instagram:@ryotenogata
HP:https://ryoten.jp/
photo:Shota Watanabe
interview&text:Sayaka Yabe