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Do it Magazine01劇場支配人 下井一洋さんのシゴトとシネマ
「できないことは仲間にお願いすればいいんだという発想になれました」
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になることもある。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、グランドシネマサンシャイン 池袋の初代支配人・下井一洋さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
※感染防止に配慮して撮影しております。
02作品名
『ロード・オブ・ザ・リング』
監督:ピーター・ジャクソン
『ロード・オブ・ザ・リング』デジタル配信中
ブルーレイ 2,619円(税込)/DVD 1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
THE LORD OF THE RINGS: THE FELLOWSHIP OF THE RING and the Names of the Characters, Events and Places Therein Are Trademarks of the Saul Zaentz Company d/b/a Middle-earth Enterprises (“SZC”) Under License to New Line Productions, Inc. The Lord of the Rings: The Fellowship of the Ring © 2001, 2012 New Line Productions, Inc. Package Design & Supplementary Material Compilation © 2014 New Line Productions, Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.
03作品との出会い
公開されていた頃、ちょうど映画館でアルバイトをしていて。原作が「指輪物語」というタイトルで、当時日本でも人気だったんですけど、映画のタイトルは『ロード・オブ・ザ・リング』だったので、はじめあまりピンときていなくて…。そしてポスターには当時アイドルのような立ち位置だった俳優のイライジャ・ウッドがバーンと写っていて、「なんだこの作品は?」って思ったんです。
その頃自分は映写の担当だったんですけど、ちゃんとフィルムを繋いであるか確認するため、最初から最後まで担当者が一本観ないといけなかったんです。だからそのときに観たのが作品との出会いでした。観たらものすごく面白かったので、そこから原作を読みなおし、関連書籍をあさり・・・という感じでハマっていきました。
04仕事とのリンク
『ロード・オブ・ザ・リング』って、世界を救うために指輪を捨てるという、そのお話自体がすごく画期的だなと思うんです。最後まで観ると、悪役含めすべての人が関わった結果ミッションを達成できるという「チームプレーのお話」だなと思いまして。日々仕事をしていると、やっぱり自分一人では何もできないと感じることが多いので、そういう心情とシンクロしました。
05作品から受けた影響
劇場のスタッフにも『ロード・オブ・ザ・リング』を好きな方が多いので、よく事務所で話す機会があるんです。しんどい時も『ロード・オブ・ザ・リング』の話をして元気になることがありますね。
06作品によって解決された悩み
グランドシネマサンシャイン 池袋を立ち上げたとき、自分の力不足を思い知ったんです。自分の結果に対してなかなかポジティブになることができなかったんですけど、『ロード・オブ・ザ・リング』を思い出して、自分ができないことは仲間にお願いすればいいんだという発想になれました。
07作品の魅力
ミッションは指輪を捨てに行くという小さなお話なんですけど、それを大陸がかりでやるというすごく壮大な物語になっていって。そこが何とも言えない『ロード・オブ・ザ・リング』の魅力だと感じました。そして、結果的に悪役の存在も意味があるというところがすごく良いポイントだなと思います。
08インタビュー
――映画の仕事をしたいと思うようになったきっかけの作品はありますか?
カンヌ国際映画祭で受賞した『ワイルド・アット・ハート』ですね。当時高校生だったんですけど、映画にかぶれ出した頃で。その前に「ツイン・ピークス」というデヴィッド・リンチ監督のドラマを全話観ていまして。その後、デヴィッド・リンチ監督を追いかけていたんです。
『ワイルド・アット・ハート』を観たときに、冷静に考えると感動するような映画では無いんですけど、すごく感動してラストシーンでものすごく泣いてしまって。映画っていいものだなという印象が強く残ったんです。そしてそこから、職業として映画に関わるのはどうだろう?と考え出したので、今の仕事に就くきっかけになった作品です。
――もともと映画は好きだったけど、この映画と出会ってより衝撃を受けた感じだったのでしょうか?
そうですね。そこから映画にのめり込んでいったという感じです。僕は地方(愛媛県)の出身で、この映画を観ているのは周りでも数人で。まだシネコンも無かった頃ですし、映画館が遠かったので、当時はビデオで観ていました。
――映画に関わる仕事は多岐にわたりますが、なぜ“映画館”を選ばれたのでしょうか?
作る方は全く才能が無かったので、早々に諦めたんです(笑)。そして、たまたま自分の住んでいるところにシネマサンシャインができたので、アルバイトで働きはじめて、今に至るという感じです。
――劇場支配人のお仕事内容をお聞きしたいです。
週の半分くらいは作品のスケジュールを組んでいます。あとはスタッフの管理とか、報告が上がってきたことを確認して、何かあったら対処してという感じです。お客様からのご意見やトラブルの対応もありますし、必要があれば指示を出したり、自分が対応したりしています。
あとは、何となく全体を把握するようにしていますね。グランドシネマサンシャイン 池袋は規模が大きいので、部下を信じて任せるようにしないと、全て自分でやり切るのはなかなか難しいのかなと思っているので。
――下井さんが、今後グランドシネマサンシャイン 池袋でやってみたいことはありますか?
やってみたいとは少し違うかもしれないのですが、観に来たお客さんが映画の事しか覚えていないくらいの映画館が実は理想なのではないかと思うことがありまして。やはり主役は映画なので、 IMAX®のシアターでは没入感があり、「すごいものを観た」という感覚になりますし。環境や内装などを褒めていただくことも多いのですが、家に帰ったら映画のことだけ覚えていて、振り返ったときに「あれ、どこで観たんだっけ?」「そういえばグランドシネマサンシャイン 池袋だった」となるのが実は良い映画館なのではないかと思っています。
――これまで上映してきたなかで、手応えのあった上映企画を教えてください。
BESTIA(ベスティア)というプレミアムシアターがあり、そこで上映するかどうかは自分が決められるときがありまして。そこで上映したときに好評をいただくとやっぱり嬉しいですね。基本BESTIAで上映すると話題になりやすいので、その反応から手応えを感じます。
コロナ禍に旧作を上映した期間も盛り上がりました。誰もが知っているような有名な作品を自分の働く映画館で上映できたのは嬉しかったですね。
――池袋にはたくさんの映画館があります。映画の街として、これからをどう捉えていますか?
池袋で降りれば大体映画が観られるようになってきているのは嬉しいですが、まだまだこれからかなと思います。一度映画を観ると同じ映画館で観る方が多いと思うので、急に変わるものではなくて、徐々に徐々に変化していくのではないかと考えています。豊島区自体もアートやカルチャーに関する取り組みをしていますし。現在は大学生など若いお客様が多いのですが、今後はシニアの方やご家族連れでもお越し頂けるようにしていきたいですね。
――では最後に、下井さんにとって映画ってなんでしょうか?
仕事にしてから特にそうなんですけど、最高の娯楽ですね。思春期の頃はミニシアターで上映している映画を少し背伸びして観ていたのですが、最近はエンターテイメントの作品が良いなと思ってきています。劇場の支配人としては、観にきてくれた人が心底楽しんでいただけることが一番嬉しいですね。
09プロフィール
下井一洋(しもい かずひろ)
グランドシネマサンシャイン 池袋 支配人
愛媛県出身。地元にできた「シネマサンシャイン大洲(旧大洲シネマサンシャイン)」にアルバイトとして入社、05年に社員となり、その後徳島、石川、鹿児島、千葉など全国各地の劇場にて勤務。旧シネマサンシャイン池袋の支配人を経て19年よりグランドシネマサンシャイン 池袋初代支配人。
https://www.cinemasunshine.co.jp/theater/gdcs/
photo:Kohe Asano
interview&text:Sayaka Yabe