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Do it Magazine01デザイナー 川村唯さんのシゴトとシネマ
「“回り道ではなかったんだ”と背中を押してもらいました」
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になることもある。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、アートディレクターでデザイナーの川村唯さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
02作品名
『インターンシップ』
監督:ショーン・レヴィ
03作品との出会い
もともと「Googleの映画がある」ということで知っていて、いつか観たいと思っていた作品でした。その後とあるサブスクリプションサービスでおすすめに出てきたので、再生したのが本作を観たきっかけです。
04仕事とのリンク
映画の中でみんなが取り組んでいる「様々な人たちでアイデアを考え解決に導いていく」という部分が、普段私たちがしている仕事のやり方と、少し似ていると感じました。
ディレクターやデザイナーやエンジニアというメンバーが必要不可欠なところや、シーンによって海外ブレーンと関わりを持つ機会がある点、メンバーには様々な経歴をもった方がいるというところもよく似ています。
05作品から受けた影響
この映画には、様々な経歴や年齢のメンバーが出てきます。そして、ひょんなことがきっかけで関わることになったメンバーとの、つながりやチームワーク、課題解決する様子を面白おかしく描いています。
そんなチームの姿を見ながら、私が普段仕事をしているチームのことを思い出し、彼らの強みを改めて実感するきっかけになりました。
私はフリーランスになって7年目になります。どこかに属しているわけではない個人事業主なので、個人プレーが多く、基本は孤独です(笑)。
でも、チームで動くようになって連携をとることで、一人で仕事をしているのではないというありがたみをすごく感じます。会社にいたら普通のことかもしれませんが、フリーランスにとっては当たり前ではないからこそ、そういう存在に助けられているということを実感しました。
この映画のメインキャラクターたちのチームは、最初は連携はおろかお互いを尊重しあえずに対立します。しかし、一つのチームになってお互いのことを理解してくうちに、どんどん力が増していくんです。
その逆で、個人としてはパーフェクトな力をもっているのに、チームになった途端パワーダウンするチームも出てくるところが面白くて、そこにも共感しました。
私にも苦手分野の交渉事があります。
でも、その場を和ませながらカバーしてくれるディレクターがいて、そのディレクターのスキルを生かした資料を作っている他のメンバーもいます。
そして、普段なら「ノー」と言わねばならないスケジュールも、可能な部分と不可能な部分を瞬時に判断して、案件の進行自体を止めないように工夫し、トラブルが大きくならないよう防げてくれるエンジニアもいます。
そのメンバーたちは学生時代の友人から始まり、案件を通して知り合ったのち、また一緒に仕事をすることになるなど、様々なきっかけで出会った人たちです。
一緒に働いていると、その「人柄」に助けられる部分がたくさんあるのですが、この映画もまさに「結局は人柄が大切だよね」ということを思い出させてくれる作品なんです。
そして、まさに今一緒に仕事をしているチームの歯車が噛み合っていく様子と重なり、よりみんなの強みに感謝できるいい影響をもらいました。そして、一緒に事務所を借りるようになってからは、そのチーム感がより一層出てきています。
06作品によって解決された悩み
ロゴやグラフィックはもとより、webやアプリなどの進化スピードの早い媒体のデザインは、時代の変化を敏感に察することが大切です。
仕事柄、年齢を重ねることで得られるポジティブな部分をあまり感じなくなることも多く、感性が鈍ることで、自分の存在が必要とされないタイミングがくることへの危機感もどこかで感じています。
でも本作の劇中では「時代遅れ」と言われるニックとビリーの、これまで培ったセールスマンの経験が存分に生かされている描写がたくさんあり、大事なのは年齢ではなく、自分の長所や武器なんだ、ということを気付かせてくれました。
私は有名な美大卒の学歴があるわけでなく、自分がしたいデザインをするまでにかなり回り道をしてきた人間です。これは良いように受け取りすぎかもしれませんが、この映画を観て、「回り道ではなかったんだ」と背中を押してもらったような気持ちになりました。
そして、「自分の武器に、新しい一面を加える」という視点で見ると、ニックもビリーも全然時代遅れではないんです。
途中、パソコンやインターネットの事を何も知らないニックとビリーが、「知らないなら、覚えればいい」という当たり前の事を言うシーンがあります。歳を重ねると忘れてしまいがちな、こう言う当たり前のことを忘れないでいきたいと思いました(笑)。
あと、新しい経験を取り入れながら自分の武器をしっかり見極めることと、違う感性を受け入れて、協力しあうことの大切さも気付かせてもらいました。
学べるきっかけを当たり前だと思ってはいけないことや、今後も謙虚に精進しないと、こうして若い人と差がでてくるんだ、という危機感も映画から感じましたね。
07作品の魅力
この作品は一言で言うと痛快なサクセスストーリーですが、そこには努力だけではない短所や長所、その人らしさを尊重し合える人柄があるからこそ、というメッセージの入り方がとても素敵な作品です。
IT業界の世界を描いたスタイリッシュな映画かと思いきや、互いを尊重し合うことを忘れず、人と人との繋がりが物事を解決していくという描写が多いところも本作の惹かれたポイントでした。
日本では劇場未公開の作品ですが、就活中の学生のみなさんにも息抜きとして観て欲しいと思いますし、仕事だけではなく、何か悩み事がある人が観ても元気をもらえる気がします。
そして、自分にしかない魅力や自分にしかわからない経験を思い出すきっかけや、勇気をくれるフレーズがあるところも、この映画の魅力だと思います。
08プロフィール
川村 唯(かわむら ゆい)
アートディレクター・デザイナー
複数のデザイン会社や企業にて、グラフィックデザイン、WebやアプリのUI等のデジタル領域のデザイン、店頭ツールの企画、広報などを担当したのち、2014年にアートディレクターとして独立。媒体にとらわれずデザインを担当できる幅広さを生かし、主に女性向け、料理、コスメ、インテリア、ビューティ系のブランディングやデザインを多く手掛ける。
09編集部より
普段からよくいろんな映画を観ているというデザイナーの川村さん。
今回ご紹介いただいた映画『インターンシップ』は「チームワーク」や「人間関係」も見所の1つということで、エピソードから川村さんが普段仕事で大切にしているところが見えてきました。
近年、フリーランスやパラレルワークなどいろんな働き方で仕事をしている方が増えてきています。川村さんもフリーランスになって7年目とのことで、個人でいろんな動き方ができる分、チームで動くときの面白さやありがたみを感じる機会があるそうです。
また、お仕事について伺うと、どう届くのか、どう伝わるのかというところまで考えてデザインされていることを知り、普段何気なく目にしているデザイン1つ1つに込められている想いやこだわりを改めて感じることができました。
現在『インターンシップ』は、日本では劇場未公開の作品ですが、配信では観れるようなので、気になった方はぜひチェックしてみてくださいね。
text:Yui Kawamura
photo:Kohe Asano
illustration:Ryoten Ogata
edit:Sayaka Yabe