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Do it Magazine01フォトグラファー羽田 誠さんのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、フォトグラファー 羽田 誠(はだ まこと)さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
※感染防止に配慮して撮影しております。
02作品名
映画『キッズ・リターン』
監督・脚本:北野武
03作品との出会いやきっかけを教えてください
もともとビートたけし(北野武)さんが大好きで、大学一年生の頃に観ました。それまでの作品は暴力描写も多かったかので『キッズ・リターン』を観たときにこれまでとはまた少し違うものを見た感じがあって、衝撃を受けました。お話はシンプルなんですけど、メイン以外のいろいろな人たちの描き方やストーリーも好きで。観た時に「この感じは忘れないでおこう」と思いましたね。
04その作品からはどんな影響を受けましたか?
最近また見返したのですが、撮り方の潔さとか構図、人の入り方とかは『キッズ・リターン』から少し影響を受けているところがあるかもしれません。あまりテクニカルに撮ろうとはせず、シンプルに淡々と人を撮っていく感じもよくて、その中に北野監督の美学があるように感じました。
あと、以前北野監督が何かのインタビューで話していた「映画は10枚の写真でいい」という言葉がずっと記憶に残っていて。写真にもいろんな仕事があるんですけど、基本的には「一枚一枚を丁寧に撮る」という気持ちでいこうと思えました。
05作品の魅力を教えてください
漫才師とかボクサーとか、いろんな人やいろんな状況の全てのエピソードがいいんです。一人ひとりのことをちゃんとすくい上げて、フォーカスしているところが『キッズ・リターン』の好きなところですね。メインの若者2人だけではなく、全てに物語があって、そのお話も面白くて。ラストの象徴的な言葉のやりとりもそれぞれが全員に対して言っている言葉のように感じました。暴力描写もあるんですけど、笑えるところもあって、北野監督の人に対してのやさしさを感じる作品です。
そして北野監督の、お笑いもやるし映画監督もやるという振り幅のよさから「いろいろなことをやっていいんだ」ということを教えてもらったような気がしています。
06インタビュー
――映画は普段からよくご覧になるのでしょうか?
そうですね。映画は子供の頃から好きでよく観ていました。最初に観たのは『里見八犬伝』です。もともと父親が映画好きだったので、レンタルビデオ屋さんで借りてきた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などを一緒に観ていた記憶があります。
――写真家を志す前に映画の道へ進もうと思ったこともあったのでしょうか?
もともと映画が好きだったので、映画の方に進もうか考えていた時期はあります。
――なぜ写真の道へ進んだのでしょう?
父親が趣味で写真を撮っていたんです。ある日、父親のアルバムを見ていたら、世界を放浪しているヒッピー時代の親父の写真を見つけて、自分が知らない親父がそこには写っていて、かっこよかった。その写真を見たときに写真もいいなと思ったんです。大学受験では写真も映像も両方受けたんですけど、映像系は落ちて、写真は受かったので写真の方へ進むことを決めました。でも、写真を学びながらも学生時代はいろいろなことをやろうと思っていたので、友達と8ミリで映像を撮ったりすることもありましたね。
――RADWIMSやスキマスイッチなど、CDジャケットやライブ撮影といった音楽関係の仕事を多く手がけていますが、もともと音楽もお好きだったのでしょうか?
好きですね。大学を卒業して最初に入ったところはファッション系のスタジオだったんですけど、スタジオを卒業した方がカメラマンになって、スタジオに遊びに来ることが多くて。その時に少し撮影を手伝うことがあったんです。そのスタジオによく来ていた人がのちの師匠で。
――そうだったんですね。
当時はCDが売れていた時代だったこともあって、師匠は自分の好きなミュージシャンたちを沢山撮っていたんです。そのアシスタント時代にお世話になった方や仲間たちと徐々に音楽関係の仕事をするようになっていきました。
――写真を撮るとき、いつもどんなところからイメージを膨らませているのでしょうか?
基本的に、今まで自分がやってきたことや、これまでの仕事とすごく掛け離れたようなオーダーはあまり来ないんです。自分が撮っている写真のイメージに近いものをオファーされることが多いので、はじめのイメージからそんなに乖離することはないんです。
――その中でも特に意識されているところはありますか?
どんな撮影でも、距離と光は意識しています。
――撮影中はどんなことを考えながら撮られているのでしょう?
撮影中でも常に緊張感があるわけではないので、諦めることも大事だと考えています。いい瞬間とかいい光があったら逃さないようにしようとは思っているんですけど、カメラを持っていない時にその瞬間が来ることが多くて。その時は、「きっとまた出会える」と思うようにしています。
――羽田さんはお仕事の撮影以外にも、ご自身で写真集を作られていますよね。
自分の作品を作ることが好きで続けています。作品は、それぞれのタイミングでいい風景に出会ったときに撮るようにしています。
――写真集では、そのいいタイミングで撮った写真の中から選んでいるんですね。
そうですね。ずっと作品を作り続けていると共通している何かが見えてくるんです。毎回それの答え合わせみたいな感じで写真を選ぶようにしています。
――面白い感覚です。たくさん写真を撮っていると、過去の自分との戦いのようになることもありますか?
どうしても似たりかぶったりする写真はあります。でもそれはそれで、「かぶるほど好きなんだ」という気づきになりますし、それでいいんだと思っています。自分はこれがずっと好きだったんだとか、この感じがいいと思うんだなとか。
――なるほど。
それ以外のこともやっていかないと、という気持ちもあるんですけど、かぶりがあることで落ち着いたりしっくりくるようなところもあるので。
――作品では風景の写真が多いですが、もともと風景を撮るのがお好きなのでしょうか?
人が写る写真は、100%自分のものではないような気がして。作品撮りなどでも、誰かをヘアメイクとスタイリングをして撮ることもありますが、そうすると4人の作品になり、僕一人の写真ではなくなる。仕事で撮ったものはその方のものなので、作品は自分のものにしておきたいんです。風景は自分だけが気付いたり見ていたものが写っているような感覚があります。
――羽田さんから見て、映画と写真ってどんな関係だと思いますか?
基本的な捉え方は変わらないと思います。最近はムービーを撮らせて頂く機会も増えたのですが、写真を意識した構図で撮って欲しいというオーダーもあるので。「一枚画」として考えれば、写真と一緒だと思います。『キッズ・リターン』の映像も、どこか一枚画のようなんですよね。その連続が映像になっていて、その中で人が動いている、みたいな。
――映画を観る時、シーンやルックが記憶に残ることが多いですか?
そうですね。このショットはかっこいいとか、気持ちがいいとか。今はいろいろなサイズのフレームがありますけど、僕は空間に対しての割合とか、方向とか、光とかで気持ちよさを感じます。
――では最後に、羽田さんが普段仕事で大事にしていることは何ですか?
人物を撮るときの距離感を大切にしています。ある程度一定の距離を保つようにして、あまり近く仲良くなりすぎないように、ちょっと緊張感がある方がいい写真が撮れる気がします。
――なるほど。その距離感を大切にしている感じ、羽田さんの写真から伝わってきます。
あとは基本的なことですが、遅刻しないことと、挨拶することですね。
――挨拶、大事ですよね。ありがとうございました!
07プロフィール
羽田 誠(はだ まこと)
Photographer
愛知県生まれ。日本大学芸術学部写真科卒。流行通信THE STUDIO入社後、浅川英郎に師事。
その後フリーランス。CDジャケット、雑誌、広告などジャンルを問わず幅広く活動中。パーソナルな作品も積極的に発表している。
Webサイト:http://makoto-hada.com/
Instagram:https://www.instagram.com/hadamakoto/
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photo:Natsuko Saito
interview&text:Sayaka Yabe
illustration:NAO ODAGIRI