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Do it Magazine[ Do it Close-up ]大切な夏休みの記憶を父と同じ年代になった娘の視点で綴った映画『aftersun/アフターサン』シャーロット・ウェルズ監督インタビュー
01Do it Close-up (ドゥイット クローズアップ)
Do it Theaterが今気になるシアターカルチャー(シアターにまつわるカルチャーのあれこれ)をクローズアップしてお届けする企画です。
今回は、A24 が北米配給権を獲得し、2022年のカンヌ国際映画祭で上映された映画『aftersun/アフターサン』(5月26日(金)より公開)のシャーロット・ウェルズ監督にインタビュー。監督の作品や映画づくりへの想い、そしてこれまでのシアター体験などについてお伺いしました。
シャーロット・ウェルズ監督
02作品について
――映画を観ながら自分の記憶も思い出すような素晴らしい作品でした。このストーリーで進めようと思った決め手を教えてください。
短編映画を撮ってから発展させていった物語なので、実はアイデアはこれしかなかったんです。短編の中にもう少し深く追求したい部分があり、『aftersun/アフターサン』を作りました。作っていく中で何度も壁にぶつかりましたが、その中に表現したいものがあったので、どれだけ時間がかかってもこの作品は作り終えたいと決めて作っていきました。
――「表現したいもの」とは具体的にどのようなものだったのでしょう?
まず一つは場所で、1990年代後半の外国の閉ざされたリゾート地という設定です。その場所を描くことに興味があったので、そこを舞台に展開できる作品を考えていました。もう一つは父と娘の関係です。他の作品では若い父親は少し不良のように描かれることが多いのですが、父親をつとめるために生まれてきたような、本当に娘のことを想っている若い父親を描きたいと思い、この作品に取りかかりました。
――監督は普段から過去を振り返ったり、見つめ返したりすることはよくされているのでしょうか?
もちろん過去を振り返ることもありますが、日記を書いているというわけではないですし、この作品のためにというのが主でした。この作品を作るにあたり、あの時代に父と過ごした瞬間を振り返って、書き留めていきました。
――父と娘の距離や関係にどんどん引き込まれていきました。とても魅力的な、娘・ソフィと父・カラムのキャラクターはどう作っていったのでしょう?
キャラクター設定において出発点となったのは父と私の関係です。しかし、完全に自分と父親がキャラクターになっているというわけではなく、ある時期に到達してからは一歩引いて、キャラクターに委ねる形で設定を進めていきました。
――役者さんが決まってからはいかがでしたか?
キャスティングが決まった瞬間から、自分の手からキャラクターが離れていきました。今回はポール(・メスカル)と、フランキー(・コリオ)にお願いをしたんですが、彼らの動作や笑い方などはカラムやソフィのキャラクターにとても生かされています。
これまで一緒に映画を作り上げてきたので、今このポスターの写真を見ても、カラムとソフィを彼ら以外が演じていることは想像できないですね。本当に役になりきってくれたと感じています。
――演じたおふたりからは、具体的にどんな部分が引き出されたのでしょう?
特にフランキーから引き出されたものは大きかったです。彼女には完全な脚本は渡しておらず、セリフだけを伝えていました。なので、一つひとつのセリフの背景についてはあまり説明していなかったんです。
――そうだったのですね。
フランキーは、“悲しい”という感情を出すことや感じることが苦手でした。特に印象的なのは泥風呂のシーンです。表情からも感じ取れると思うのですが、カラムは前夜に起きたことに対してすごく反省していました。なので、ソフィに「昨日はごめん」と謝ろうとするんですけど、それをソフィ(=フランキー)は受け入れようとしなかったんです。
ソフィ(=フランキー)は前夜に起きていることは忘れて、前に進もうとしていた。だからカラムには謝って欲しくなかったんです。あのシーンは、私が演出したのではなく、彼女自身の行動を活かしました。「悲しい感情は持ちたくない」という彼女の特質から引き出された演技なので、私にはできなかった演出だと思っています。
――ふたりの感情の持ち方がどちらも伝わってきて、とてもグッとくるシーンでした。
実を言うと、ビジュアル面などで編集を変えたのはカラオケ以前のシーンがほとんどで、カラオケ以降のシーンはそれほど変えていないんです。ほとんど撮ったままの状態でお見せしています。
03監督の映画体験について
――「Do it Magazine」では野外上映での体験やドライブインシアターでの思い出などを聞いているのですが、監督は野外上映やドライブインシアターで映画をご覧になった経験はありますか?
ドライブインシアターは50年代や60年代頃はアメリカにもたくさんあったイメージですが、私はまだ行ったことがありません。近々ペンシルベニアで『ゴジラ』を上映するようなので行こうかなと考えています。
――シアター体験の思い出はありますか?
劇場での思い出は本当にたくさんあります。最初に観た映画『ジム・ヘンソンのウィッチズ/大魔女をやっつけろ!』や『ジュラシック・パーク』を観たときは前に座っていた女性がびっくりして恐竜型のポップコーンの箱を放り投げてしまった思い出とか。
――劇場での体験って記憶に残っていますよね。
10代になってからは映画祭に行って、インディペンデント映画とか他の国の映画を1日3本観たりしていて。それによって世界が広がって、メインストリームの映画だけではできない体験もしました。
トッド・ヘインズ監督の『キャロル』を観たときは、エンディングで思っていたよりも希望のあるストーリーだと感じたことをよく覚えています。映画が大好きなので、子どもの頃から劇場では特別な体験をたくさんしてきました。
――近年ではさまざまなシステムやスタイルでの映画鑑賞の機会が増えていますが、これからの映画体験はどうなっていくと感じていますか?
これだけ配信などが普及してくると、『aftersun/アフターサン』のような映画を作るというのは今後難しくなってくるのかもしれないと感じています。このような親密なドラマをお客さんが求めなくなるかもしれないので。
でも私は劇場のために映画を作り続けたいので、洗濯物を畳みながらなど観るのではなく、観客の心を掴んで、スクリーンに集中して観てもらえる映画を作り続けたいと思っています。
私自身が好きな映画も、忍耐力を要する映画が多いんです。これから10年15年どこに向かっていくのかはわかりませんが、そういう作品を作っていける環境が今後も続けばいいなと思っています。
――では最後に、『aftersun/アフターサン』を作ったことで、監督の中で映画に対して何か変化は生まれましたか?
本当にたくさんの新しい発見があったのですが、一番強かったのは「私は映画作りが好きだ」という確信が持てたとことですね。みんなで一緒に、現場で一つの目標に向かって映画を作り上げていくという喜びがより明確になりました。
それはとても美しい感情ですし、人生をかけてこれからも続けていきたいです。そのようにコラボレーションをして、そこで得た喜びや周りの人からも学んだ多くのことを、今後の作品作りにも活かしていきたいと思っています。
――ありがとうございました。
04作品情報
映画『aftersun/アフターサン』
5月26日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、
新宿ピカデリーほか全国公開
公式サイト:http://happinet-phantom.com/aftersun/
配給:ハピネットファントム・スタジオ
© Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022
Photo:Natsuko Saito
Interview&Text:Sayaka Yabe