MAGAZINE
Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする企画の[ Do it Close-up ]。今回は、ミヒャエル・ハネケ監督に師事した気鋭ジェシカ・ハウスナー監督が、『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカを主演に迎え、第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された『クラブゼロ』をクローズアップ。「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」という危険な食事法を生徒たちに説く栄養学の教師と、のめり込んでいく生徒たちの様子を不気味に、コミカルに描いた本作。“子ども”と“食事”というテーマを描いた経緯や、シリアスになりすぎないための演出、監督自身の“食”に対する考えや体験についてお話を伺いました。
絶賛公開中
名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァクは【意識的な食事/conscious eating】という「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」食事法を生徒たちに説く。親たちが気付き始めた頃には時すでに遅く、生徒たちはその教えにのめり込んでいき、「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブに参加することになる。 栄養学の教師が導くのは、幸福か、破滅か――
01過激化と子どもたちの反逆心
――本作品の、“子ども”と“食事”というテーマのアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか?「食べない」という行為が、子どもたちにとってこんなにも強い意思表示になるという点が非常に興味深かったです。
この映画では、若い世代のグループが非常にラジカルなアイデアを持ったときに、その後どうなっていくのか、という点を描いています。つまり、この映画は「過激化」や「ラジカライゼーション」に関する作品でもあります。しかし同時に、子どもたちは自分たちの意思で指導者についていくわけで、そこには一種の「反逆心」や「反抗」が含まれているとも言えます。特にエルサは、自分が吐き出したものを食べるという行動を通して、親や食の業界への反発を表現していますよね。
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
02食事はコミュニケーションの手段
――本作では、食事を通じたコミュニケーションも大きなテーマとなっていると感じました。監督自身も、食事はただ生きるためのものではなく、コミュニケーションとして重要な役割を持つという意識を、普段から感じていたのでしょうか?
そうですね。私も食事にはそういう側面があると感じています。食事というのは、栄養摂取のためだけでなく、非常に実存的で親密な行為でもあります。体に取り入れるものだからこそ、とても個人的で、同時に社会的な行動でもありますよね。なぜなら、「誰とどこで何を食べるか」ということには社会のルールや儀式が関わるからです。例えば、夕食の席で自分だけ食べないと言えば、招待してくれた人に失礼だと思われるかもしれません。そういった「社会的ルール」と食事が結びついている点も興味深いと考えています。
――例えば、日本では食事中に静かに礼儀正しくすることが子どものころから求められる傾向があります。監督の子ども時代の食事のスタイルはどのようなものだったのでしょうか?
それは興味深いですね。ただ、私は日本の文化をよく知らないので、先入観で話してしまうかもしれませんが、確かに日本では礼儀や規律が大切にされているイメージがあります。実際にドキュメンタリーなどで目にしたことがあるだけなので、正確ではないかもしれませんが…。私の子ども時代の食卓は非常に厳格で、父がかなり高齢なこともあり、まるで19世紀のような環境で育てられました(笑)。『クラブゼロ』の子どもたちの家庭とは全く違う環境だったと言えます。
例えばラグナのようなキャラクターがいる家では、親がリベラルで何でも話せる雰囲気がありますが、私の家庭にはそれがありませんでした。非常に伝統的で、形式張った食卓でしたね。
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
――そうだったんですね。そのような家庭環境を描くにあたって気にかけたことはありますか?
例えばラグナの場合、むしろ娘が親とコミュニケーションを取らない姿を見せていますよね。そのように、親子関係は家庭によってそれぞれ異なるものだということを意識しました。例えばシングルマザーであるベンの家庭では、親はできるだけ子どもに寄り添おうと必死に頑張っています。ラグナの親も、不器用でありますが子どもを想ってコミュニケーションを図ろうと努力している様子が見られる。そんな中、一言で「親のせいだ」と片付けるのは不公平でシンプルすぎますよね。それぞれの事情があったり、関係があることを丁寧に描くようにとても気にかけました。
03色使いと音楽が生む独特な距離感
――映画の中での、ポップな色使いや少し気の抜けるような音楽も印象的でした。物語と観客の距離感を独特に感じさせつつも、サポートするような工夫が随所に見られました。こうしたバランスはどのように考えて作られたのでしょうか?
おっしゃる通りで、私のストーリーテリングは観客と物語に少し距離感を持たせるものになっています。カメラの動きも機械的で、シーンの演出も少し距離感を感じさせるものです。ただ、それだけでは物語が入ってこなくなってしまうので、音楽や衣装、色使いなどでユーモラスな要素を加えて、作品にアクセスしやすくなるよう意識しています。
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
04映画祭での記憶に残る体験
――最後に、監督の記憶に残っているシアター体験を教えていただけますか?
私はスイスで開催される「ヌーシャテル国際ファンタスティック映画祭」で審査員を務めた経験があります。ジャンル映画が多く上映される映画祭でしたが、観客が映画を観ながらコメントを交わしたり、盛り上がったりする雰囲気がとても面白かったです。特にホラー映画では、モンスターが登場するタイミングをみんなが予測して「来るぞ!」と声を上げたり、映画の盛り上がりをリアルタイムで共有する文化がありました。
――監督自身も、同じように映画を楽しまれたのでしょうか?
はい、旦那と一緒に参加したのですが、2人とも観客と同じように声を上げながら映画を楽しみました(笑)。映画祭中、そういう雰囲気で観る体験は初めてで本当に新鮮でした。
――そうだったんですね。普段映画を観るのとはまた違った感覚でしたか?
そうですね。シリアスに映画を捉えすぎない雰囲気が、とても良いなと思いました。時に、映画の中に深く入り込みすぎて、まるで現実そのもののようにシリアスに受け止めてしまうこともありますよね。でも、映画はやはり「映画」であって、それ以上でもそれ以下でもないと思うんです。だからこそ、少しユーモアを持って映画を楽しむのが素晴らしいなと感じます。映画を過剰に、深刻に捉えるのではなく、ありのままの作品を受け止める。そういう観方も良いのではないでしょうか。
05作品情報
絶賛公開中
(Story)名門校に赴任してきた栄養学の教師ノヴァクは【意識的な食事/conscious eating】という「少食は健康的であり、社会の束縛から自分を解放することができる」食事法を生徒たちに説く。親たちが気付き始めた頃には時すでに遅く、生徒たちはその教えにのめり込んでいき、「クラブゼロ」と呼ばれる謎のクラブに参加することになる。 栄養学の教師が導くのは、幸福か、破滅か――
ジェシカ・ハウスナー (監督・脚本)
2001年の長編デビュー作『LovelyRita ラブリー・リタ』は第54回カンヌ国際映画祭ある視点部門で国際的な注目を集め、2004年、長編2作目となる『Hotel ホテル』で再び同部門に選出。2009年、『ルルドの泉で』は第66回ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出され、国際批評家連盟賞ほか5部門を受賞した。 『Amour fou(原題)』(14)は第67回カンヌ国際映画祭ある視点部門でプレミア上映された。そして、長編5作目にして英語デビュー作となる『リトル・ジョー』(19)は、第72回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された。
出演:ミア・ワシコウスカ
脚本・監督:ジェシカ・ハウスナー
撮影:マルティン・ゲシュラハト
2023 年|オーストリア・イギリス・ドイツ・フランス・デンマーク・カタール|5.1ch|アメリカンビスタ|英語|110 分|原題:CLUB ZERO|字幕翻訳:髙橋彩 |配給:クロックワークス
© COOP99, CLUB ZERO LTD., ESSENTIAL FILMS, PARISIENNE DE PRODUCTION, PALOMA PRODUCTIONS, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, ARTE FRANCE CINÉMA 2023
公式サイト:https://klockworx-v.com/clubzero/
公式 X:@clubzeromovie
interview&text:reika hidaka