MAGAZINE
Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする企画の[ Do it Close-up ]。今回は、世界中の映画賞を席巻した『パラサイト半地下の家族』のポン・ジュノ監督らを輩出した韓国映画アカデミー(KAFA)からデビューしたイム・オジョン監督『地獄でも大丈夫』をクローズアップ。現代の若者たちの“絶望”や“孤独”といった感情を丁寧に描きながらも、「あと1日生きてみよう」と気持ちがすっと軽くなる、そんな物語を描くにあたって大事にされた温度感や演出についてお話を伺いました。
2024年11月23日(土)よりユーロスペースにて公開中
12月14日(土)から大阪・第七藝術劇場、12月20日(金)からアップリンク吉祥寺でも公開
いじめに悩まされてきたナミとソヌはクラスメイトとの修学旅行に行かずに自殺を図ろうとするも断念。2人は死ぬ前に、自分たちをいじめたリーダーで、今はソウルで幸せに暮らすチェリンへの復讐のための、2人だけの修学旅行に出かける。ついにチェリンを見つけ出すも、史上最悪のいじめっ子だった彼女は新興宗教に出会って、女神のような善人に変わっていた−−−
ナミとソヌは彼女が改心するきっかけとなったインチキくさい宗教団体の施設で過ごすことになる。しかし、 ここにもいじめられっ子はいて、、、、。
二人の決死の復讐計画は果たして実行されるのか?!
01ただ悲しい物語にはしない
――先日の試写会はいかがでしたか?(取材は2024年11月の来日時に実施)
日本人の友達から「日本で公開しないの?絶対みんな好きだよ!」と言われていたので、公開を楽しみにしていました。
実際、試写会の後トークショーでお客さんと話しましたが、同じものを一緒に共有している気分というか、この映画を通じて私たちは通じ合えるんじゃないかと思いました。
イム・オジョン監督 | 1982年生まれ。中央大学校で写真を専攻した後、韓国芸術総合学校映像院映画科に入学。在学中に作った短編「嘘」はミジャンセン短編映画祭“愛に関する短いフィルム”最優秀作品賞を受賞。その後「それ以上でもなく、それ以下でもなく」が全州国際映画祭に招待され、監督としての頭角を表す。オムニバス「真昼のピクニック」の3番目のエピソード「私が必要なら電話して」が評論家と観客の目に留まり、いよいよ初の長編デビュー作「l地獄でも大丈夫」を完成させた。
――上映が終わった後に拍手が起きましたが、そういったところで感じられたのでしょうか?
もちろん、拍手を聞いて感じたこともありますが、お客さんが見せてくれた目の輝きや表情からとてもエネルギーを感じました。
――そのような反応は想像していましたか?
本作は、シナリオを作るときから観る方々をとても意識して作りましたが、多様な反応があるなと改めて感じました。ですが、たくさんの言葉を聞いて、この映画が私一人ではなく、みんなの共感を得られたことを一番感じました。
――とても嬉しいことですね。
実際に、学校でいじめに遭っていた友人が、涙を流しながら「すごく慰められた」と言ってくれたんです。私はこの映画を通して、友人に再び傷を与えてしまうのではないかととても心配していましたが、その言葉がとても自信に繋がりました。
――私もこの作品を見た後、「もう少し生きてみてもいいかな」と思えるような気持ちになりました。悲しい現実を突きつけられるだけではなく、前を向けるような感覚というか。何か作品の温度感で大事にしていたことはありますか?
そうですね、ただ悲しいだけではなく、前向きな物語にすることにはとても気を配りました。この作品の中で扱っている感情は非常に暗く、重たいものですが、私はそれが人生そのものだと思っています。
――なるほど。
過ぎていった暗闇があれば、その先には明るく輝くものがあって、その光に輝きがあるからこそ、これからも生きていこうと思うのではないかと思っています。私は元々悲観的な性格ではあるのですが、その一瞬でも希望を感じることができれば、辛い地獄のような日々も生き抜けると感じていました。
なので、この映画のテーマは重いんですが、その瞬間を共に体験できた主人公たちには、 「今日は死ぬのはよそう。あともう1日生きてみよう。」と、そのくらいの明るさがあったらどうかと思いました。
02音の演出が生むリアリティ
――音の演出もとても印象的でした。特に後半にかけてドライブしていく感じがとてもハラハラしたというか。
この映画で主人公たちが追い求めているのは、実は復讐ではなく、「なぜ生きるのか」という問いに対する答えなんです。最も大切なのは、ナミとソヌが互いに安心して向き合えること。最初は憂鬱な成長映画に見えますが、中盤は心理的なスリラーになり、最後は冒険劇のように展開します。終わりに向かってドライブしていくのは、2人が和解を始め、まだ解決していない死との対面に向かうための緊迫した状態を描きたかったからです。
――確かに、とても緊張感が伝わってきました。
この映画で使いたかった音の演出は2つあります。1つは呼吸音、もう1つは心臓の音です。この2つはどちらも「生きている」ことの象徴だと思っています。最初はソヌが怯える呼吸音から始まり、エンディングではナミが幸せに満ちた呼吸をして終わります。音楽全体のコンセプトも心臓の音に似たビート感を持たせるようにしました。
03登場人物とその魅力、自分自身と向き合うこと
――ナミとソヌをはじめ、登場人物たちが皆とても魅力的だと感じました。どのようにして人物像を描いていったのでしょうか?
主人公2人のキャラクターを作る際に、「憂鬱」と「孤独」を中心に考えました。ナミはまだ少し世界に希望を持っていて、怒りや悲しみ、絶望を抱えながらも誰かに助けを求めています。一方ソヌはもっと深刻で、深い絶望の中にあり、どこにも希望を持てないし、もう誰も信じられず、助けを求めていない状態です。この正反対の2人のキャラクターが、いじめっ子だったチェリンと和解ができるのか、という希望を持てる作品にしたかったです。
© 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
――作中では「絶望」や「孤独」などの負の感情が扱われていますが、監督は負の感情にどう向き合うべきだと思いますか?
私たちはそういった感情を隠したり、抑えたりしがちですが、私はそれをしっかりと扱うべきだと思っています。チェリンは、自分の感情を認めずに肯定的な感情だけを受け入れようとしていますよね。それはおかしいことだと感じています。私は、負の感情も含めて自分自身を受け入れることが大切だと考えていて、そんな関係性があれば、2人は真の友達になれるんじゃないかなと。
04映画が持つ力
――監督の映画体験についても、少しお伺いしたいと思います。記憶に残っているシアター体験はありますか?
私の母は感情をあまり表に出さないタイプで、普段は顔の表情もあまり動かさないのですが、テレビで放送されていた『風と共に去りぬ』を観たとき、母の表情が動いたんです。私が映画が感情を動かす力を持っていることを実感した瞬間でした。まさに”動く”芸術というか。
それがきっかけで、映画監督としてどんな映画を撮りたいかを考えるようになりました。その瞬間が映画監督としての道を歩む決意が固まった記憶に残る瞬間でした。
――それが映画監督を目指そうと思ったきっかけだったのでしょうか?
きっかけはまた別にあります。
元々私は指揮者になりたかったんですが、いろいろな理由でそれが叶わないということが幼い頃にわかって…。
でも、芸術家として何かを成し遂げたいという思いは強くあったので、好きだった文学や美術の世界に進むことにしました。そして、映画監督であれば自分の好きなアンサンブルを作り上げることができると気づいて、それがきっかけで映画監督を目指すようになりました。それからビデオ屋さんに通い詰め、映画を観ることに熱中しましたね。14歳の頃です。
05作品情報
2024年11月23日(土)よりユーロスペースにて公開中
12月14日(土)から大阪・第七藝術劇場、12月20日(金)からアップリンク吉祥寺でも公開
(Story)
いじめに悩まされてきたナミとソヌはクラスメイトとの修学旅行に行かずに自殺を図ろうとするも断念。2人は死ぬ前に、自分たちをいじめたリーダーで、今はソウルで幸せに暮らすチェリンへの復讐のための、2人だけの修学旅行に出かける。ついにチェリンを見つけ出すも、史上最悪のいじめっ子だった彼女は新興宗教に出会って、女神のような善人に変わっていた−−−
ナミとソヌは彼女が改心するきっかけとなったインチキくさい宗教団体の施設で過ごすことになる。しかし、 ここにもいじめられっ子はいて、、、、。
二人の決死の復讐計画は果たして実行されるのか?!
第27回釜山国際映画祭CGK 撮影賞
第48回ソウルインディペンデント映画祭 ネクストトリンク賞
第11回ムジュ山里映画祭 アービン・クリエイティブ賞(オ・ウリ)
第40回ミュンヘン国際映画祭 インターナショナル・インディペンデンツ招待
第22回ニューヨークアジア映画祭 韓国映画招待
第60回百想芸術大賞 映画部門 新人演技賞ノミネート(オ・ウリ)
監督・脚本:イム・オジョン
出演:オ・ウリ、パン・ヒョリン、チョン・イジュ、パク・ソンフン
製作:韓国映画アカデミー(KAFA) 英題:Hail to Hell|原題:지옥만세
2022|韓国映画|109分|カラー|5.1ch|DCP
配給:スモモ
イム・オジョン監督
1982年生まれ。中央大学校で写真を専攻した後、韓国芸術総合学校 映像院映画科に入学。在学中に作った短編『嘘』はミジャンセン短編映画祭“愛に関する短いフィルム”最優秀作品賞を受賞。その後『それ以上でもなく、それ以下でもなく』が全州国際映画祭に出品され、監督としての頭角を表す。オムニバス「真昼のピクニック」の3番目のエピソード「私が必要なら電話して」が評論家と観客の目に留まり、いよいよ初の長編デビュー作『地獄でも大丈夫』を完成させた。 30代女性の話(「私が必要なら電話して」)から10代の少女たちの話(『地獄万歳』)まで幅広い女性キャラクターを扱う彼女は、明るく走り回る少女たちの躍動感を今回の映画に盛り込みたかったと話す。
<FILMOGRAPHY>
短編映画:『私が必要なら電話して(2018)』、『シェルター(2015)』、『それ以上でもなく、それ以下でもなく(2013)』、『嘘(2009)』/Webドラマ「大勢は百合(2015)」
『地獄でも大丈夫』webサイト:https://www.sumomo-inc.com/okiokioki
『地獄でも大丈夫』X:@okioki24_movie
『地獄でも大丈夫』Instagram:@okioki2024_movie
『地獄でも大丈夫』TikTok:@okioki2024_movie
© 2022 KOREAN FILM COUNCIL. ALL RIGHTS RESERVED
interview&text:reika hidaka
photo:Cho Ongo(@cho_ongo)