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Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。今回は、テレビ朝日映像による初の長編オリジナル映画『ありきたりな言葉じゃなくて』で夢と情熱の間で揺れ動く主人公を演じた前原滉さんにインタビュー。ご自身の転機とも重なり、迷いながらも出演オファーを受けたと話す前原さん。作品や役をどう落とし込むかや悩みや葛藤とはどう向き合うか?をお伺いしました。
12月20日(金)より全国公開中
01主演オファーに対する心境と役者としての挑戦
――テレビ朝日映像の初の長編映画作品、かつ主演ということで、オファーがあったときどんな気持ちがありましたか?
実は、最初にお話をいただいた時「僕には背負いきれません」ってお伝えしたんです。ちょうど自分自身について考えたり向き合ったりする時期だったんですよね。
――そういうタイミングって何度かやってきますよね。
ですが、この作品の制作チームの方々がエネルギーを持って接してくださったんです。その後、もう1度自分の中でいろいろ考えて、出演することを決めました。気持ちが決まってからは、前向きに作品と向き合っていけましたが、それまでは自分の日常のことも含め、すごく迷いましたね。
藤⽥拓也役:前原滉 | 1992年11月20日生まれ、宮城県出身。 連続テレビ小説「まんぷく」(18/NHK)などのドラマや、各映画賞で高い評価を受けた『あゝ荒野 前編』(17)などの映画に出演。ドラマ「あなたの番です」(19/NTV)でマンションの新管理人役を演じ話題に。近年のドラマでは、連続テレビ小説「らんまん」(23/NHK)、「VRおじさんの初恋」(24/NHK)、「クラスメイトの女子、全員好きでした」(24/YTV)、「スカイキャッスル」(24/EX)や、映画では『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(23)、『沈黙の艦隊』(23)、『笑いのカイブツ』(24)、『マッチング』(24)など幅広く活躍する。
――出演を決めてからはどんな風に作品を自分の中に落とし込んでいきましたか?
脚本を読みながら役と向き合う中で、「脚本の内容にも意見をいただけたら」といったお話を監督からいただいたんです。普段は役者としてそういう関わり方ができる機会はあまりないのですが、僕の目線から「この話をどういう風に届けるか」みたいなことをお話させていただいて。そこからまた監督やプロデューサーの方が考えて、内容を精査しながら話し合ってくれたりして理解を深めていきました。そうやって、作品をどうしていくかという視点を持ちながら、「その場合だったら、きっと拓也はこうだよな」みたいなところを考えたり話したりすることができたのは新しい経験でした。
――役を演じるうえでも、視点が増えそうですね。
そうですね。みんなで意見を出し合って、話し合って、少し時間が経ってからまた脚本を読んでみると、作品の形が変わってくることもあるんですが、逆に、シーンとしてはなくなったけど、そのシーンにある“想い”は変わらずに残り続けていることもあって。そういうところを大切にしながら役を演じていました。
©2024 テレビ朝日映像
――今回そのような経験を経て、前原さんの中で作品への向き合い方に変化はありましたか?
作品を作る上で、それぞれに役割があるんだなと改めて感じました。出来上がった脚本に対して、芝居でどう答えていくかという良さもあるし、入り込みすぎてしまうことで、どこか冷静ではなくなってしまう部分もあるんです。「監督」という作品全体を見る人がいて、「役者」という人物に視点を当てて深めていく人がいる。そして、その垣根を無くすことで、いいこともあれば難しいことも生まれてくるんだなと。
――なるほど。でも、そういう視点を感じられたことも含め、貴重な経験でしたね。
そうですね。その中で、バランスがとれるようになっていけたらいいですね。今回はとてもいい経験になりました。
02悩みや葛藤との向き合い方
――主人公の拓也は様々な葛藤を抱えていましたが、前原さん自身は葛藤や悩みとはどういう風に向き合っていますか?
向き合わないかもしれません(笑)。悩む時間の長さは置いておいたとして、葛藤することや悩むことって、人生にとって必要なことだと思うんです。ただ、葛藤や悩みと向き合う時間が長ければ長いほどしんどいなって思うんですよね。
――確かにそうですね。
僕がまだ役者を始めたばかりの頃、全然仕事がなかったんです。でもやっぱり俳優として仕事がしたい、芝居がしたいって思うわけじゃないですか。「じゃあなんで今仕事ができていないんだろう?」って考えたときに、そこから分岐すると思うんですよね。「自分がダメだからだ」という考え方に陥ることもあるし、「世の中が悪いんだ」って考えることもある。きっともっと細かく分岐していると思うんですけど、どちらの道へ進んでも、あまりいいようには進めないというか。
――つい、誰かや何かのせいにして、気持ちが落ちてしまいますよね。
なので、僕は悩みができても「時間が経ったらきっと解決するだろう」って思います。解決するまでの時間の過ごし方はそれぞれ自由ですし、その間に目の前のことを頑張りつつ、時間を待つという考え方もある。人生の中で、悩んだり、なんかうまくいかなかったりする時はいつも「まあ、なんとかなるっしょ」って思うようにしています。そう思わないと、あまりにもしんどすぎるので(笑)。
――その時が来るのを待つ、と。
これだけ周りにいろんな人間がいる中で、自分との対話の時間を増やしすぎてもしょうがないというか。
現実では、漫画みたいに急な進化もしなければ、 突然パワーを得たりもしないですし、運命の人が急に現れたりもしないんです。だったらもう、人と話をしたり、気持ちを切り替えてゲームをしたりするほうがいい。そうして意識的に、悩むこととか葛藤する時間を増やさないようにしているのかもしれません。
――悩みや葛藤と出くわす度に、だんだんと自分なりの解決方法や回避策が見えてくるんですね。
そうですね。僕も過去に大きな壁にぶつかって長い時間を過ごした時に、「この時間、無駄かもしれない」って思ったのかもしれません。悩みがなければないで、必要なのかも?と思うこともありますが(笑)。
03拓也という役への多様な解釈
――今回前原さんが演じた役のことについても伺っていきたいのですが、見る人によっていろんな捉え方ができる人物だなと思いました。
拓也のこと、好きでしたか? 嫌いでしたか?(笑)。
――私は、内田慈さんが演じていた先輩の視点が一番近かったかもしれません。甘い部分もあるけど、根っこの部分は信じたいところがある、みたいな。
これまで取材をしていただいたなかで、ライターさんによって拓也がどういう人かの受け取り方がめちゃくちゃ分かれているんです(笑)。それが面白くて。
――そこがこの作品の面白い部分でもありますよね(笑)。作品の中で印象に残ったのが、拓也の「脳みそねじきれるくらい」というセリフです。前原さんは、何かと向き合って、<脳みそねじきれるくらい>考えることは得意ですか?
「脳みそねじきれるくらい」って不思議なセリフですよね(笑)。僕は、考え事は考えすぎないようにしています。これまでの経験上、考えすぎてあんまりいいことがなかったというか。凝り固まった状態でいると、考えすぎてよくわからないところに入ってしまったりするので。
――それは、自分自身のことに対しても、作品と向き合うときもですか?
そうですね、どちらも考えすぎないようにしてます。「このキャラってきっとこうだよな」って考えて現場に行って成功した試しがあまりなかったので……。かといって、めちゃくちゃアイディアを持っていくわけでもないんですけど(笑)。僕、役に対していろいろ練ってくるみたいなタイプに見られがちなんですけど、全然そうではなくて。眼鏡をかけているからか、「賢そう」とか「いろんな映画を観ていそう」「いろんな本を読んでいそう」って思われがちなんですけど、全部逆なんですよね(笑)。もちろん、脚本を読みながら「このキャラってきっとこうだろうな」と考えていますが、芝居は相手もいることなので、まずはその場所でやってみることを大事にしています。
――なるほど。では今作でりえを演じた小西桜子さんとの共演はいかがでしたか? 詳しくお伝えするのは難しいですが、屋上のシーンはとても見応えがありました。
屋上のシーンに関しては、すごくいろんな変化があったんです。撮影中も、監督と小西さんと3人でずっと話していましたし。3人ともそれぞれの意見があって、拓也はきっとこういうことを伝えたいんじゃないか、りえはこういうことが聞きたいんじゃないか、みたいな対話を重ねていきました。ただ、見えているビジョンは一緒なんだけど、演じる人物を通すと少し変わってきてしまい……。そこが難しかったですね。なので、あのシーンをどうしていくのかという部分はすごく話し合いました。
――いろんな感じ方ができるシーンですもんね。
風も強くて、音を録るのも大変な状態でしたけど、チームの皆さんの想いが詰まっているシーンなので、そう言っていただけてすごく嬉しいです。たくさん話し合いながらも、いざ演じるとなったら、「もうやるしかない!」っていう感じもありましたし。そういう部分も含めて、すごく勉強になった時間でした。
©2024 テレビ朝日映像
04中学時代の甘酸っぱいシアター体験
――Do it Theaterは野外シアターを企画・制作しているチームで、「記憶に残る」ということを大事にシアター作りをしています。なにか記憶に残っているシアター体験はありますか?
そうですね……。今ぱっと思い浮かんだのは、中学生のときに初めて女の子と見に行った映画ですね。クリスマスに『チキン・リトル』という映画を見に行ったんですけど、そのときの映画体験はすごく鮮明に覚えています。
――なんか甘酸っぱいですね。
当時、僕はサッカー部で、冬休みで部活もなくて時間があったので、陸上部だった子とガラケーで「何してるの?」みたいなメールのやり取りをしていたんです。そのやり取りから、「じゃあどこか行く?」みたいな話になって。何を見るとかも決めていなくて、取り敢えず映画館に行って、その場で2人で決めて見たのが『チキン・リトル』でした。緊張していたので、もう映画の内容は覚えていないくらいなんですけど(笑)。
――やり取りにも青春を感じます(笑)。
ほかにも、20歳の時に東京に出てきて、1人でレイトショーに行った記憶とかもあるんですけど、鮮明に覚えているのは、やはりそのクリスマスの映画体験ですね。中学生だったので、見終わったあとの時間もどうしたらいいのかとか全然思い浮かばなくて……(笑)。映画は楽しかったんですけど、結局その子とはお付き合いすることもなかったので、そういう部分も含めて覚えているのかもしれません。
――その距離感がまたいいですね。
その子とは、大人になってからもたまに会ったりするんですけど、お互いにその話はしないんですよね(笑)。なので、今度会ったときにちょっと話してみます。
05作品情報
12月20日(金)より全国公開中
(Story)
32歳の藤田拓也(前原滉)は中華料理店を営む両親と暮らしながら、テレビの構成作家として働いている。念願のドラマ脚本家への道を探るなか、売れっ子脚本家・伊東京子(内田慈)の後押しを受け、ついにデビューが決定する。
夢を掴み、浮かれた気持ちでキャバクラを訪れた拓也は、そこで出会った“りえ”(小西桜子)と意気投合。ある晩、りえと遊んで泥酔した拓也が、翌朝目を覚ますと、そこはホテルのベッドの上。記憶がない拓也は、りえの姿が見当たらないことに焦って何度も連絡を取ろうとするが、なぜか繋がらない。
数日後、ようやくりえからメッセージが届き、待ち合わせ場所へと向かう。するとそこには、りえの”彼氏”だという男・猪山衛いのやままもる(奥野瑛太)が待っていた。強引にりえを襲ったという疑いをかけられ、高額の示談金を要求された拓也は困惑するが、脚本家デビューを控えてスキャンダルを恐れるあまり、要求を受け入れてしまう。
やがて、事態はテレビ局にも発覚し、拓也は脚本の担当から外されてしまう。京子や家族からの信頼も失い、絶望する拓也の前に、りえが再び姿を現す。果たして、あの夜の真相は?そして、りえが心に隠し持っていた本当の気持ちとは……?
出演:前原滉
小西桜子 内田慈 奥野瑛太 那須佐代子 小川菜摘 山下容莉枝 酒向芳
池田良 八木光太郎 沖田裕樹 敦 士 鈴政ゲン 加藤菜津 佐々木史帆 高木ひとみ◯ 谷山知宏 今泉マヤ 根岸拓哉
チャンス大城 土屋佑壱 浅野雅博 外波山文明 玉袋筋太郎
脚本・監督:渡邉崇
原案・脚本:栗田智也
製作・エグゼクティブプロデューサー:若林邦彦 企画:陣代適 統括プロデューサー:阪本明 粟井誠司 安田真一郎
プロデューサー:丸山佳夫 キャスティングプロデューサー:山口良子 脚本協力:三宅隆太
音楽:小川明夏 加藤久貴 撮影:長﨑太資 照明:後閑健太 録音:山口満大 助監督:吉田至次 畑山友幸
スタイリスト:網野正和 ヘアメイク:渡辺真由美 制作担当:岩下英雅 編集:鷹野朋子 カラリスト:長谷川将広
音響効果:佐藤祥子 配給統括:増田英明 宣伝プロデューサー:橋本宏美 スチール:柴崎まどか
制作プロダクション:テレビ朝日映像 配給:ラビットハウス 宣伝:ブラウニー
2024 年/日本/カラー/アメリカンビスタ/DCP/5.1ch/105 分/G
©2024 テレビ朝日映像
公式 HP:https://arikitarinakotobajyanakute.com/
公式 X: @vivia_movie
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photo:Cho Ongo(@cho_ongo)
interview&text:Sayaka Yabe
hair&make-up:ゆきや(SUN VALLEY) or YUKIYA(SUN VALLEY)
stylist:臼井 崇(THYMON Inc.)or TAKASHI USUI(THYMON Inc.)