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Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする企画の[ Do it Close-up ]。今回は、11月15日(金)公開の奥山由之監督『アット・ザ・ベンチ』をクローズアップ。撮影を担当された今村圭佑さんと共に本作が作られた経緯やチーム作りで大切にしていたこと、映像をはじめ、幅広くご活躍されているお二人にだからこそ聞ける映画だから描けることをお話いただきました。
映画『アット・ザ・ベンチ』
2024年11⽉15⽇(⾦) テアトル新宿、109シネマズ⼆⼦⽟川、テアトル梅⽥ほか全国公開
川沿いの芝生の真ん中に一つのベンチが佇んでいる。
ある日の夕方、そのベンチには久しぶりに再会する幼馴染の男女が座っている。
彼らは小さなベンチで、どこかもどかしいけれど、愛おしくて優しい言葉を交わしていく。
この場所には他にも様々な人々がやってくる。
別れ話をするカップルとそこに割り込むおじさん、家出をした姉とそんな姉を探しにやってきた妹、ベンチの撤去を計画する役所の職員たち。
一つのベンチを舞台に、今日を生きる人々のちょっとした日常を切り取るオムニバス長編作品。
01インタビュー
――今回は映像をはじめ、幅広くご活躍されている監督の奥山さんと撮影を担当された今村さんの対談ということで、「映画だからこそ」というテーマでお話をお伺いしていきたいと思います。まず、お二人の関係性から教えてください。
奥山:最初に今村さんとお会いしたのは2021年です。ファッションブランドの映像でご一緒したのがきっかけでした。
――現場でご一緒してから、またいつか一緒に作品を作りたいという想いがあったのでしょうか?
奥山:そうですね。今村さんとはまた何かを一緒に作りたいと思っていました。僕自身、作品の制作数があまり多くないので、ご一緒できる機会自体が少ないのですが。
今村:一緒に撮影した時も、映画を作りたいみたいな話はしていたような気がします。
奥山:その頃はまだ『アット・ザ・ベンチ』の構想はなかったのですが、映画の企画開発を幾つか進めていましたね。
奥山由之 | 映画監督、写真家。1991年、東京都生まれ。2011年に『Girl』で第34回写真新世紀優秀賞を受賞してデビュー。以降、具象と抽象など相反する要素の混在や矛盾を主なテーマに作品制作を続け、MVやCMなどの監督業も行う。次回監督作に、新海誠の同名アニメーション作品を実写化する『秒速5センチメートル』が控える。
今村圭佑 | 1988年富山県生まれ。映画・CM・MVのカメラマン、撮影監督として活動。
主な作品に「新聞記者」(監督:藤井道人/19)、「百花」(監督:川村元気/22)、「リボルバー・リリー」(監督:行定勲/23)、「四月になれば彼女は」(監督:山田智和/24)など。米津玄師、あいみょん、宇多田ヒカルなどのMV撮影も手がける。
――そして、今回の『アット・ザ・ベンチ』の撮影をお願いすることに。
奥山:以前ご一緒したとき、辺り一面が霧の中、何人もの被写体が不規則に行き交う様子を撮影したのですが、視界がとても不明瞭にも関わらず、今村さんは物凄い速度で動き回りながら撮っていて、目の前すら見えない状況下で、けれど明らかに何かの確信を持ってカメラを右へ左へ振っている様子を見て、この人は、全身の感覚を研ぎ澄ませて、逃してはいけない瞬間を第6感で捉える人だなと思ったんです。今村さんの瞬発力や感覚の鋭さにはとても驚きました。
――『アット・ザ・ベンチ』は、奥山さんによる自主制作映画という形で2023年の秋に第一話がSNSで発表されました。その後、第二話が発表されて、劇場公開も決まり、一般的な映画宣伝とは違って、興味深いなと感じたのですが、どのような経緯で映画が作られ、公開が決まっていったのでしょうか?
奥山:幼少期からこのベンチの近所で暮らしていて、哀愁感のある佇まいに愛着を抱いていたのですが、ある日近くで大きな橋の工事が始まって、部分的な変化を続ける東京という街の中で、変わらずそこにいるベンチを、いま作品として残しておかないと後悔しそうだ、と思い立って、自主制作を始めました。オムニバス作品にするということは最初から決まっていましたが、劇場公開はもちろん決まっていませんでした。今村さんにお声がけした時も、1編目の脚本家とキャストが決まっているくらいだったと思います。なので、2編目以降、なにを作るのかは具体的に決まっていない状態で1編目の制作がスタートしました。
今村:僕がお話をいただいたときは、1編目以降はまだ脚本もなくて、キャストも決まっていませんでした。でも、「5編は撮りたい」ということは考えているような状態だった気がします。なんならもっと長いスパンで撮るのかなって思っていたくらいです(笑)。
――今回スタッフも少人数で撮影されたと伺いました。
今村:そうですね。奥山くんからは、少人数で、サッカーチームぐらいの人数で撮りたいということを聞いていました。僕は学生映画から参加してきたので、そのくらいの人数で撮ることは普通にあったし、どちらかというと少し懐かしい感じがありました。ただ、奥山くんは普段はもっと少ない人数で、自分の手の届く人たちだけで作品を作ることも多かったと思うんです。作風ももちろん大事だけれど、本作で1番守るべきルールは「少人数で撮る」ということだったのかなと思います。
――面白い視点ですね。
今村:キャストやスタッフの関わり方や、撮影に対する捉え方もそれぞれ違うだろうから、それが面白いなと思って現場を見ていました。とくに俳優陣は、少ない人数で撮るということをシンプルに楽しんでいる感じもありましたね。奥山くんの狙いとしても、あまりカメラを感じさせないような撮り方や、人の配置とかも考えていたと思いますし。そしてそのことを一番感じるのは俳優なので。これまで見てきた風景とは圧倒的に違うものがあるということは、作品の狙いともきっとマッチしていたと思います。
――そういったいろんな感覚が混ざり合っているのも、作品の空気に表れているのかもしれませんね。スタッフもキャストも本当に魅力的な方々が集まっていますが、このチームは一体どのように作られていったのでしょうか?
奥山:何より、このベンチに対する個人的な思いが起点になっている作品なので、ベンチに対する思いや愛着みたいなものを1人ずつ丁寧に共有して、最初から完成に至るまで、参加してくれる方々それそれの個々の思いが根底に流れている作品にしたかったんです。そう考えたときに、僕自身が心から信頼をおいていたり、この人が作るものが本当に好きだなと心から思える人たちに、まずはお声がけだけでもしてみよう、と思いました。
――何よりも信頼を大切にされていたんですね。
奥山:じっくりと1人ずつにお声がけをして、できる限り直接企画意図を説明しました。なので今回は、みなさんそれぞれが“個人”として、僕の思いに賛同して集まってくださっていることを制作過程の随所で実感しました。キャストに関しても、企画説明と読み合わせをしてから一緒にベンチを見に行って、「この場所でこういう作品を作りたい」ということを1人ずつにお話していきました。とても贅沢な時間を過ごさせていただきましたし、みなさんには心から感謝の気持ちでいっぱいです。
今村:僕はその姿を「すごく楽しそうだな」と思って見ていました(笑)。撮影の現場でも、少ない人数のなかで動いていたけど、みんなすごく楽しそうだったので。
――丁寧に気持ちや意図を共有することの大切さを感じます。今回、想いを共有することを大切にしながら映画を作ってみて、改めて気付いたことはありましたか?
奥山:気付いたこと・・・ありすぎましたね(笑)。
今村:奥山くんはもっと自分1人の脳で作りたいという感じの人なのかなと思っていたんです。でもそうではなく、11人で作るんだったら11人の脳で作りたいというスタンスだったのが、少し意外でした。
――みんなのアイデアや視点を取り入れながら作っていきたいと。
今村:芸術の中で言うと、映像作品はたくさんの人数の人が関わって作られていることもあり、どちらかというと大衆的なものだと思うんです。でも、陶芸や絵画などはほぼ1人で作られるから、芸術性は高いですが、大衆性は少し薄くなる。大きく分類すると、写真と映像はたぶん近いところにはあるけど、これまでほぼ1人で作品を作り上げてきた奥山くんが、自分1人の脳で作りたいと考えるタイプではなかったというのが意外でした。きっと、そういう部分も含めて楽しみながら映画を作っていったんだと思うんですけど。
――今村さんも写真を撮りますが、やはり写真と映像ではコミュニケーションのとり方は変わってくるのでしょうか?
今村:奥山くんが写真を撮っているところをほぼ見たことないからわからないですが、たぶん映像的な写真の撮り方なんだろうなと思っています。僕も写真は撮りますが、被写体がいて「これだ!」って衝動的に撮る形しかわからないんです。でも、撮りたい瞬間とか、いいと思う瞬間みたいなものは、奥山くんと近いものがあるような気はしています。
奥山:今村さんのお話を聞いていて改めて思いましたけど、例えば写真集を作るときって、割と1人で作品を構築していくことが多いんです。だから今回のようにいろんな人とご一緒して作れるのであれば、自分とは異なる考えも取り入れて、思ってもいなかったようなところに作品が到達できる可能性を信じたかったんです。映画作りはこれが初めてですが、これまでも映像作品は作ってきていて、自分1人が頭の中で思い描いていたものとは少し違うけれど、みんなの意見が混ざり合った時に「これはこれで想像を超えていいものになった」という経験があったので。今回もそういう意味で、みんなで作る、ことへの手応えを感じましたね。
――たくさんの人が関わることで生まれる形の面白さってありますよね。しかも今回は奥山さんが信頼している方々と一緒に作られているからこそ、進む先を信じられるというか。
奥山:僕はカメラを構えて撮るということへの関心よりも、そこでどういう人や物、環境がどう存在しているかみたいなことへの関心があるんです。今村さんと一緒に作品を作ると、目の前で起きてることはどういう状況でどういう物語なのか、どんな人たちがどんな気持ちでそこにいるのか、みたいなことに向き合って集中できる。それをどう捉え、どう切り取るかというところは、今村さんにお任せできるという安心感があるんです。
――素敵な関係性ですね。
奥山:今村さんがどう感じているかはわかりませんが、会話をするときの呼吸の相性が合う感覚があって、コミュニケーションがとりやすいんです。それは、単純に好き嫌いが合うという要因もあると思うんですけど、言葉では伝えきれない感覚的な部分で通じ合うものがあるように思っていて。たまに現場で、今村さんが説明してくれたことを言葉だけで捉えるとちょっとよくわからない時もあるのですが(笑)、それでもある程度は伝わってくるという。
今村:(撮影やカメラの)用語を使うときもありますしね(笑)。
奥山:そうそう。今村さんが思っているよりも、僕はカメラの専門用語がわかってないので(笑)。お互いに「これはどう言葉で伝えればいいんだろう」ってなったときも、「きっとこういうことなんだろうな」って直感でわかり合えることがよくあるんです。今までいろんな人とお仕事してきましたが、全員とそうなれるわけではないので、幸運な巡り合わせだなと感じています。
――今村さんは、今回『アット・ザ・ベンチ』で奥山さんとご一緒したことで気付いたことや変化はありましたか?
今村:僕はいつも撮影をしているなかで、「慣れないようにする」ということと戦っていて。映画を撮る上で、シチュエーションとか、その場で起こること、大きな視点で見ると同じように感じてしまうこともあるんですよね。だからそれに慣れずに、常に違うものを考えていこうと思っているんです。でも今回の『アット・ザ・ベンチ』において、奥山くんはあまりにも純粋な気持ちで映像に向かっていて。それがすごく羨ましくもあったし、「それは楽しいよね」みたいな感覚がありました。
――その感覚は経験を積めば積むほど、薄くなっていってしまうものですもんね。
今村:奥山くんの姿を見ていたら、自分もそういう気持ちで作品に向き合いたいなと思ったし、やっぱりこういう風に立ち向かった方が絶対にいいよね、と改めて思いました。その感覚は、『アット・ザ・ベンチ』でも感じたし、今奥山くんと一緒に作っている映画の現場でも感じています。
――ちなみに、今回奥山さんは初めて映画を監督してみて、映像と写真にはどんな違いがあると感じましたか?
奥山:違いを挙げたら切りがないですが、最大の違いと感じるのは、見る人にとって、写真の方が映像的に残る印象があって、映像の方が写真的に残る点だとは思います。写真はある瞬間の1点しか写らないので、点の前後を想像させる余白みたいなものがどうしても生じる。その余白こそが映像的に頭の中で再生される感覚がある。
――おもしろいですね。
奥山:一方で映像は、あるシーンの表情やセリフ、”あの時のあの瞬間…!”みたいなものを持ち帰っているのかなと。写真は瞬間の1点を見つめて、その1点以外の全てを想像するみたいな感触があるので、そういった点で真逆かもしれません。
02作品情報
映画『アット・ザ・ベンチ』
2024年11⽉15⽇(⾦) テアトル新宿、109シネマズ⼆⼦⽟川、テアトル梅⽥ほか全国公開
(Story)
川沿いの芝生の真ん中に一つのベンチが佇んでいる。
ある日の夕方、そのベンチには久しぶりに再会する幼馴染の男女が座っている。
彼らは小さなベンチで、どこかもどかしいけれど、愛おしくて優しい言葉を交わしていく。
この場所には他にも様々な人々がやってくる。
別れ話をするカップルとそこに割り込むおじさん、家出をした姉とそんな姉を探しにやってきた妹、ベンチの撤去を計画する役所の職員たち。
一つのベンチを舞台に、今日を生きる人々のちょっとした日常を切り取るオムニバス長編作品。
監督:奥山由之
出演:広瀬すず(第1編・第5編)、仲野太賀(第1編・第5編)、岸井ゆきの(第2編)、岡山天音(第2編)、荒川良々(第2編)、今田美桜(第3編)、森七菜(第3編)、草彅剛(第4編)、吉岡里帆(第4編)、神木隆之介(第4編)
脚本:生方美久(第1編・第5編)、蓮見翔(第2編)、根本宗子(第3編)、奥山由之(第4編)
音楽:安部勇磨
企画・製作:奥山由之 プロデューサー:佐野大 撮影:今村圭佑 録音:佐藤雅之 美術:野田花子
衣裳:伊賀大介 ヘアメイク:小西神士/くどうあき 編集:平井健一/奥山由之 助監督:鈴木雄太
制作担当:神谷諒 カラリスト:小林千乃 オンライン編集:土屋瀬莉 グラフィックデザイン:矢後直規
配給宣伝協力:池田彩乃 制作・配給:SPOON
2024年|日本|86分|カラー|ビスタ|5.1ch|英題:AT THE BENCH
©2024 Yoshiyuki Okuyama/Spoon Inc, All Rights Reserved.
web:https://www.spoon-inc.co.jp/at-the-bench/
photo:Cho Ongo(@cho_ongo)
interview&text:Sayaka Yabe