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Do it Magazine01建築家・蒼樹株式会社代表 包怡萱さんのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、今回は、建築家であり、泊まれるシアター「TheaterZzz」を作った蒼樹株式会社代表・包怡萱(バオ・イーシャン)さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
02作品名
『インセプション』
監督:クリストファー・ノーラン
『インセプション』
ブルーレイ ¥2,381+税/DVD ¥1,429 +税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.
03作品との出会い
建築を学んでいた大学生の時に映画館で出会いました。もともとクリストファー・ノーラン監督の映画が好きだったことも大きかったのですが、何よりも夢や時間をテーマにしているところ、そして予告編での空間の描き方のかっこよさに惹かれました。実際に映画館で観た時には、想像以上の構成と映像美に感激し、とても衝撃を受けました。
04仕事とのリンク
今までもストーリーで泣いたり、感動したりする映画はありましたが、緻密な編集や構成に圧倒されて涙を流したことはなく、本当に自分の世界観を変えるくらいの衝撃を受けました。そして同時に、インスピレーションをとても刺激されました。
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.
大学院の卒論で、「建築設計手法と映画の編集手法」をテーマにした際、『インセプション』と『マトリックス』を題材に選び、時間と空間を編集している点を中心に論じました。建築を専攻にしていたのに映画を題材にしている人間は私くらいだったと思います(笑)。
05作品から受けた影響
『インセプション』を観て初めて、「映画というものは時間を編集することでこんなにも空間を面白く表現できるのか、もしかしたら、逆のことも建築でできるんじゃないか」という発想になりました。それまでは、まさか映画というものが自分の建築の考え方に影響を及ぼすとは思っていなかったので…。
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.
06映画によって解決された悩み
この夏にオープンしたばかりの、弊社の新施設である「TheaterZzz」の立ち上げ時はもちろん、設計やコンセプトを考えて、答えが見つからなくなりかけた時や、行き詰まった時など、頭の整理するように『インセプション』を観返しています。
完璧に計算され尽くした脚本、映像、音楽、構成。改めて観ても新たな発見が常にあって、新鮮なインスピレーションを常に与えてくれるんです。人生で通算100回以上は観ているのですが、まだまだ新たな発見がありそうです(笑)。
07作品の魅力
何層もの魅力的な構成になっていて、層を移動すると音楽のテンポや光の表現も変化するんです。そして、夢の各層の連結の仕方が全て異なっていて、その空間と空間がつながる際の映像の美しさ、空間を大胆に表現して夢か現実かを曖昧にする映像表現が本当に素晴らしいのです。この作品のラストでは、正解を見せていません。白黒つけずに、敢えて境界をぼかすということの面白さを、とても強烈に感じました。
©2014 Warner Bros. Entertainment Inc.
建築的な表現で『インセプション』を表すならば、柱や屋根や壁が完璧に完成され、様々な要素が細部までしっかりと整っている。まさに完璧な建築と言えるのかもしれません。例えるならば、光の操作が巧みな著名な建築家、ダニエル・リベスキンドの建築に似ているかも…。または、建築に編集という概念をもたらしているイームズ夫妻によって建てられた、イームズハウスにも似ているといえるかもしれません。
08プロフィール
包 怡萱(Yixuan Bao/バオ・イーシャン)
蒼樹株式会社CEO
空間プロデューサー
一級建築士、宅地建物取引士
中国西安市生まれ、中学校3年の時来日。
小さいときから立体や空間に特別な感情を抱き、高校1年から建築に進む道を決めた。京都大学大学院建築学専攻卒業後、株式会社三菱地所設計、株式会社グローバルエージェンツを経て、『蒼樹株式会社』を創業。現在は、時代をリードする斬新さを持ちつつ、「ただいま」と言いたくなるような暖かくて懐かしさのある空間を創り出すために活動し、最新施設である泊まれるシアター「TheaterZzz」を企画、デザイン、運営。
■蒼樹株式会社WEBサイト
https://soowood.co.jp/
■TheaterZzz WEBサイト
http://theaterzzz.com/
■TheaterZzz Instagram
https://www.instagram.com/theaterzzz/
09編集部より
映画・旅・茶という3つの要素を融合し、両国にオープンした泊まれるシアター「TheaterZzz」を立ち上げたバオさん。都内だけれど、ふらっと来て非日常な体験ができるとても素敵な空間で、カップルや団体、貸し切りでの利用も多いようです。そんな「TheaterZzz」を立ち上げた、建築家で蒼樹株式会社の代表でもあるバオさんがセレクトした作品は、斬新なアイディアと巧みな編集で圧倒されるクリストファー・ノーラン監督の『インセプション』。
「TheaterZzz」立ち上げの経緯や、どうしてこのような空間の発想に辿り着いたかのお話を聞きながら、バオさんの頭の中にある映画と建築の関係の面白さが見えてきました。その中で特に印象的だったのは「映画は時間を編集していて、建築は空間を編集している」という言葉。もともと映画がお好きで、学生時代からたくさんの映画を観ていたバオさん。「チャレンジするのが好き」「アイディアをいかに具体化できるか」というワードをあげながら、今後のビジョンについてもお話してくださいました。
映画・旅・お茶を立体的に楽しめる空間「TheaterZzz」にぜひ遊びに行ってみてくださいね。
text:Yixuan Bao
photo: Megumi Yamakoshi
edit:Sayaka Yabe