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Do it Magazine01TOKYO解放区 千葉雛子さんのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、TOKYO解放区で働きつつ、夜空と交差する森の映画祭の代表補佐も務める千葉雛子さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
02作品名
『おとぎ話みたい』
監督:山戸結希
©寝具劇団
03作品との出会い
新宿のk’s cinemaでやっていた「MOOSIC LAB」の上映の時に出会いました。当時まだ17歳だった私は、映画自体はもちろんすきだったけれど、そんなにインディーズの作品を見る機会はないし、良くも悪くも自分が好きそうな作品をあらかじめ“選んで”観てしまっていた時期でした。
そんな中、気軽な気持ちで、「おとぎ話」の音楽が好きだからぐらいの感覚で、映画館に行った私にとって山戸監督の作品はとっても衝撃的で、そこからぐっと映画にはまっていったように思っています。
04仕事とのリンク
作品がというよりも、作品との出会いの衝撃、「偶然性」みたいな部分がリンクしたように思っています。具体的には、“すきだときづいていないもの”と「偶然」出逢ってしまった時の、出逢ってしまった感と言いますか、一気に世界が広く深くなって、知らないことがもっと増える、みたいな。自分の知らないことがこんなにあるんだと知ることができる。そういう素晴らしさを、とても強く感じた作品でした。
私は、新宿の伊勢丹の館の中や外で、“すきだときづいていないもの”や、“まだ知らない考え方や感じ方”と「偶然」出逢っていただくためのお仕事をしています。
具体的な内容は、伊勢丹新宿店が行っている「TOKYO解放区」というプロジェクトの企画・運営として、『ファッションをたしなみ、カルチャーをたのしむ、全ての人が「たのしく生きていく」きっかけになるようなプロジェクト』を生み出す、というものです。
企画を通して、ある程度の“衝撃”や“すき!”をお客様に体感していただくのって、やっぱり、思ってもみなかったところとの出会いあってこそで、「偶然性」というものがベースにあると思うのです。
それは、シンプルに知らない・興味がないと思っていたブランドのお洋服がとても似合うとか、自分のスタイルじゃないと思っていたファッションを試してみたらとてもハマった、みたいな表象的な部分はもちろん。でもそれだけではなく、その背景にある哲学や過程を知る中で、その思想・哲学に対する思わぬ共感や、事象に対する自分自身の感じ方の発見だったり、モノやブランドをリスペクトするという姿勢だったり。そういうソフトな「きもち」に寄り添う部分においても同様です。
そして、伊勢丹新宿店のような誰でも来れるオープンでマスなお客さまと関われる担当だと、そういう「きもち」に寄り添う偶然性が生める企画ってすごく大事だなあと思っていて。
オープンでマスなお客さまにカルチャーってたのしいよ、ファッションっておもしろいよ、みたいなちょっとオタクっぽいところからアプローチできるところがとてもたのしいのです。
そして、そういうアプローチを通して、音楽×映画の企画として誕生した「MOOSIC LAB」や、「MOOSIC LAB」で『おとぎ話みたい』を観て、私が一気にカルチャーに深くのめりこんでいったような、知的欲求をくすぐるきっかけづくりに成れたらいいなと思っています。
05作品から受けた影響
“きっかけ”になるフックは多く出せるほうがいい、というところです。
映画は総合芸術なので、要素が多いものではあるものの、ある程度これが要素だよって教えてもらえる感じになっていないと、情報量が多い私たちの生活の中ではあまり気付けなくて。そういう要素出しや、提案することが映画だと宣伝のお仕事になるとは思うのですが、私も企画を立てる時に、「こんな人にも!」というようになるべく広げて、ジャンルやテイストは合わせながらも超えていけ、みたいなことは映画を観て考えるようになった気がします。
『おとぎ話みたい』の場合、趣里さんとおとぎ話(バンド)の皆さんを山戸監督が演出しているのですが、作品の中にはメルロ・ポンティの身体論という学術的な話や、田舎、高校生という表彰記号的な話など、いろいろ絡んでいます。
©寝具劇団
私は『おとぎ話みたい』を観てから、メルロ・ポンティのことをそんなに知らないなと思って、『知覚の現象学』を読みました。『おとぎ話みたい』を通してメルロ・ポンティに出逢って、そういうものを面白いって思えるようになったのも『おとぎ話みたい』を観ることができたからかもしれません。ただ単純に高校生から大学生に代わったころに観たので、それが“大学生になった”ということなのかもしれませんが(笑)。
06映画によって解決された悩み
映画×ファッションの企画を絶対にやりたいと思っていたのですが、新入社員の頃は何もできずに指をくわえて見ていることしかできなかったんです。その頃、山戸監督が企画・プロデュースした『21世紀の女の子』という作品が公開されて、あーファッションってこうやって映画とも繋がれるんだった…と改めて思いました。
『21世紀の女の子』は、雑誌の「装苑」が衣装をプロデュースしている短編オムニバス映画なのですが、それぞれの短編にTOKYOの若手ブランドが衣装を提供しているんです。
今回の衣装提供はこれです!という感じでビッグメゾンがタイアップをしているケースはたくさんあると思うのですが、『21世紀の女の子』のように、若手ブランドがずらーっと、それぞれの監督と、それぞれの演者と、それぞれの物語とピッタリ寄り添いながら、ファッションとして映画に関わっていたのを見て、まだまだファッション×カルチャーでできることって、映画に限らずたくさんあるし、ファッションのたのしみ方ももっといろいろお客さまに提案できるな、と思いました。
07作品の魅力
山戸監督の作品を観ていて一番衝撃的だったのは、言葉の隙間を映像が埋めていくような感覚です。映像に言葉が彩るのではなく、言葉と映像が対等な感じがとてもすきですね。
企画も映画も、事象を「パッケージ化」(会期何日にしろ、映画2時間半にしろ)することだと思うのですが、そういうパッケージとしての魅力も、『おとぎ話みたい』にはとても感じます。
08プロフィール
千葉雛子(ちば ひなこ)
大学では、精神分析や映画文化について学び、卒業後、ファッション×カルチャーを軸にした企画の実施のため、(株)三越伊勢丹に入社。TOKYO解放区の店頭スタイリストを経て、2019年4月よりTOKYO解放区の担当を務める。現在ここの学校に在学中。趣味で「夜空と交差する森の映画祭」の代表補佐としても活動している。
2020年2月26日(水)~3月10日(火) 、伊勢丹新宿店本館2階=TOKYOクローゼット/リ・スタイルTOKYO内にて、「TOKYO解放区 知る」を開催いたします。作り手の哲学やクリエーションの背景を知ることで、商品のその先にある思いを感じながら服をお選びいただくことをテーマに、これからのTOKYOのファッションシーンを飾る4ブランド「koll(コール)/RURI.W(ルリ)/SREU(スリュー)/BELPER(ベルパー)」をご紹介いたしますので、是非店頭に遊びに来てくださいませ!
■TOKYO解放区 Instagram
https://www.instagram.com/isetan_tokyo_kaihoku/
■夜空と交差する森の映画祭 Instagram
https://instagram.com/forest_movie_festival/
09編集部より
TOKYO解放区で働きながら、野外映画フェス「夜空と交差する森の映画祭」の代表補佐もしている千葉さん。雑誌「それいゆ」との出会いと、ファッションとカルチャーを両方やりたいという想いから今の仕事に就き、最近では今泉力哉監督の映画『mellow』の公開にあわせて、田中圭さん演じる主人公が働く花屋をイメージした限定ショップを伊勢丹新宿店内に開き、トークイベントなども企画されていました。
現在もさまざまなファッションとカルチャーの企画を進行中で、映画に関しても、映画の中にあるものが拡張されるような企画や、映画と現実の間を広げられることをやっていきたいたいとのこと。千葉さんの言葉の中でも一番印象に残ったのが「小さなカルチャーを知ることは人生の機微につながる」という言葉。「シゴトとシネマ」の連載も、誰かの人生の機微に繋がっていったら嬉しいなと思いました。
text:Hinako Chiba
photo: Hiroki Kanayama
edit:Sayaka Yabe