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Do it Magazine01ダンスカンパニー tantan のシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、ダンスカンパニーtantanの亀頭可奈恵さんと佐々木萌衣さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
※感染防止に配慮して撮影しております。
02亀頭可奈恵さんのシゴトとシネマ
映画『トゥルーマン・ショー』
監督:ピーター・ウィアー
『トゥルーマン・ショー』
Blu-ray: 2,075 円 (税込)/DVD:1,572 円 (税込)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
*2022 年 11月の情報です。
――作品との出会いやきっかけを教えてください。
亀頭 コンテンポラリーダンスをやっていくうちに、情報をインプットすることがすごく大事だと思い、いろいろな人と話をする機会を作ろうと夜の仕事をはじめたんです。そこで働いているときにお客さんから「あなたみたいな性格はこの映画いいと思うよ」って教えてもらった映画が『トゥルーマン・ショー』で。その時に出会いました。
――その作品からはどんな影響を受けましたか?
亀頭 私は公演作品を作るとき、ある一線を引いてお客さんが観にきているという状況を作る事が好きなんです。それが正に『トゥルーマン・ショー』で描かれている世界観と一緒で。作品のテイストを伝えるときに、言葉で説明するよりも「これだよ」と映画や画集を見せて伝えた方が早いので、この映画と出会ってからはダンサーさんに『トゥルーマン・ショー』を見せるようになりました。リハーサル(作品の準備)を行うときは、他者が作った媒体を見せて、自分の伝えたい事を伝えていく手段をとることが多いので。
――映画で悩みが解決されたことはありますか?
亀頭 現代の踊りといわれているコンテンポラリーダンスって、本来はどんどん更新されていかなければならないものなんです。でも最近、コンテンポラリーダンスも形式化されつつあり、主観芸術になってきてしまっていて……。私は主観芸術ではなく客観芸術をやりたいと思っているのですが、その考えに至ったのは『トゥルーマン・ショー』を観たことがとても大きかったんです。これまでは、自分たちの感性だけでやりっぱなしだったんですけど、この映画を観てからこのままではダメだなと気付いて。『トゥルーマン・ショー』を観たあとに「ほつれ。」という作品を作って公演したんですけど、この作品を作ってからやりたいことが明確に見えるようになったんです。そこから、迷いのない作品が作れるようになり、自分のやりたいことも明確になっていきました。
――作品の魅力を教えてください
亀頭 ラストがしっかり締まるというところがすごくタイプです。画の中に扉があって、最後にそこから出て行くところが、なんだかこちら側に来たような感じになるというか。あとは、人形劇やジオラマを見る感覚みたいな、そのものから少し距離を置いて楽しむことができる感じがすごく好きです。
03佐々木萌衣さんのシゴトとシネマ
映画『ジョーカー』
監督・製作・共同脚本:トッド・フィリップス
『ジョーカー』
デジタル配信中
Blu-ray: 2,619円(税込)/DVD:1,572円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
TM & © DC. Joker © 2019 Warner Bros. Entertainment Inc., Village Roadshow Films (BVI) Limited and BRON Creative USA, Corp. All rights reserved.
――作品との出会いやきっかけを教えてください。
佐々木 亀頭に教えてもらったことがきっかけです。そして映画館に一緒に観にいきました(笑)。
――その作品からはどんな影響を受けましたか?
佐々木 作品の中で、ジョーカー役のホアキン・フェニックスの踊るシーンが何回かあるんです。そのときの人に見せるためではなく、自分の内側から出てくる感情だけで動くダンスにすごくビビッときて。ダンスの根源って、もともとは内からの自分のリズムだけで踊ることから始まっているんです。なので、自分の中で「ダンスって何だったっけ?」という状態になっていた時に『ジョーカー』を観て、ホアキンさんが踊っている姿を見て、「あ、これだ…!」と、ダンスの根源を思い出すことができました。
――映画で悩みが解決されたことはありますか?
佐々木 私、技術を上げていくこととか、見ている人に「すごい」「上手い」って思われるための練習が好きではなくて…。ダンスはじめたときから『ジョーカー』を観るまでは、上手いって思われたくてしていた練習だったんです。でも、技術が上手いダンサーは無限に居るし、なぜか目が惹かれる人ってダンスそもそもを楽しんでいるんですよね。自分の感情を素直に出していたり、作品の内容に沿って自分の中で深めたものを出せている人に目が惹かれるんだと気付いて。『ジョーカー』を観てからは、自分が感じたことを体現するための練習にシフトしていこうと思いました。
――作品の魅力を教えてください
佐々木 主人公の箍(たが)が外れる瞬間がすごく好きで。私自身も普段、気分がゆっくりと上昇していくということはなくて、いきなり上がることが多いんです。急にすべてを投げ出したくなる瞬間もあるし、急にどこかへ行ってしまうこともある。だからこの映画を観ていて、ジョーカーの感情の動きや感覚がすごくわかるなと思いました。
04tantanのお二人へインタビュー
――おふたりがダンスの道に進もうと思ったきっかけを教えてください。
亀頭 踊りをはじめたのは、2~3歳の頃で。物心つく前からやっていたので、踊りを踊ることは昔から自分の日常だったんです。でも実際はあまり好きではなくて……。いつの間にか自分の日常になっていたので、その踊りをやめるという選択肢がわからなくなっていました。結局、高校生になってから自分には踊りしかないということに気が付いて。でも、どうにか進路を探してみようと、コンテンポラリーダンスを推している大学を見付けたんです。そこが日本女子体育大学でした。入学してから大学でダンスの勉強をしていったらどんどん楽しくなっていって。一緒にやってくれる仲間がいて、いろんな人に支えられて、今ここに居るという感じです。ずっと青春をしていきたい!明日死ぬかもしれないし、死ぬときに楽しかったと答えられる人生が良い!と思っているので。
――佐々木さんはいかがですか?
佐々木 私は小さい頃、すごく引っ込み思案だったんです。ただ、舞台に立って、照明を浴びて音に包まれて、お客さんに見られるという状況は好きで。学校では誰とも話さない子だったんですけど、発表会では踊りまくっていたくらい、ダンスのことが好きだったから続けてきて。大学に進学して、就職するということも考えたんですけど、まだ照明を浴びたいという気持ちがあるので今も続けています。
――おふたりの関係は映画でいうと、監督と役者みたいな感じですね。
亀頭 そうですね。私はダンサーというより作り手なので。でも、これまで踊りをやってきたので、踊れるうちは一緒にやっていますが、私が踊りを辞めてもきっと佐々木は続けていくと思います(笑)。
佐々木 もちろん!あと、亀頭の作る作品は、いつも私にしか踊れない作品になっているんです。そこがプレイヤーとして面白いと感じているので、今でも一緒にやっています。
――日常の中で「映画を観たい」って感じるときってありますか?それはどんなときですか?
亀頭 私は完全にインプット、アウトプットとして観ています。少ない情報の中で過ごしていると、情報も廃れてきますし、私の中では古いものって毒になるんです。映画は、自分の中の情報が少なくなってきたときに観るようにしています。
――作品はどのように選んでいるんですか?
亀頭 自分で選択をするということをすごく大事にしているので、パッと直感で選びます。あとは言葉に惹かれることが多いので、キャッチコピーとか帯とかで自分に沁みたものを観ることが多いです。
――佐々木さんはどうですか?
佐々木 私は映画館が単純に好きなので、映画を観るときは大体映画館に行きます。あと、あまり冒険をしないタイプなので、1つ「この作品」と決めたら永遠にその作品を見続けるタイプです。
――亀頭さんとは逆のタイプですね。
佐々木 映画館で観て良かったと感じた作品はずっと頭の中に入っていて。生活を送る中で「めっちゃ好きな人ができた!」というときは、あの映画ってこんな感じだったな~って思い出して噛み締めたりしています(笑)。悩みが出てきたら、過去に観た映画を思い出して浮かんだ作品を観るということも多くて。新しい映画を観るときは、だいたい亀頭に教えてもらうことが多いです。
亀頭 それで観て感じたこととか感想を聞いて、それがまた私の新しい情報になるんです(笑)。そしてまた新しい作品のイメージが沸いて…ということに繋がるので。
――人の感想とかも大事にされているんですね。
亀頭 感想を書き込むシートを作っています。一つの作品に入るとき、リハーサルではだいたい10作品くらいを観ているんです。そしてシートにびっしりと感想を書いてもらって、みんなにもコピーをして共有しています。観て感じたことを作品をつくる上での共有材料として活かしているので。
――tantanの作品にとって、映画ってすごく大きな存在なんですね。
亀頭 そうですね。映画は他者とのコミュニケーションをとるときに重要な存在になっています。私にとって映画は、リハーサルで活用するものでもありますし、娯楽としても観ますし、今の自分を把握することができるものでもあります。
――佐々木さんはいかがですか?
佐々木 亀頭の作品に出るときは、映画はコミュニケーションのツールとして使うことが多いなと今の話を聞いていて改めて感じました。作品に出演する側としても、映画の「あのシーンのあの感じ」と共有することで、体現する事ができるので。
――これまでもさまざまな作品を作られてきていますが、今後やってみたいことはありますか?
亀頭 私、ゾンビ映画が大好きなんです。なので、作品の構想の一つとして、大きな自動車道でゾンビの大名行列を作りたいなと考えています(笑)。和風テイストで、道を全部ブラックライトにしたり、お客さんに吐瀉物を投げたりして。なかなか許可を取るのが難しそうですけど。
佐々木 舞台だけだと舞台を観にくる人しか観られないので、道路などでゲリラ的にやることで「何かをやっている」という状態で観られるのはいいですよね。その状況だと、私たちももっと「見られている」という気持ちが高まる気がします。なので、私も亀頭が話したようなことはやってみたいと思っています。
05プロフィール
左:亀頭可奈恵 右:佐々木萌衣
tantan(タンタン)
振付家兼ダンサー亀頭可奈恵主宰のダンスカンパニー。
2014年日本女子体育大学舞踊学専攻の同期と結成。
2015年tantan単独公演「指切った。」を発表。同年9月ダンス花にて「生きるために食う。」が奨励賞。
2016年ダンスがみたい!新人シリーズ14にて「傷としお。」がオーディエンス賞。2017年NEXT REAM21にて「触らぬ神にたたになし。」が最優秀賞。同じく2017年SICF18 PLAYで栗栖良依賞。2017年、SAI Dance FestivalにてJury praize賞。2018年単独公演「正義の自由論。」を発表。2019年単独公演「ほつれ。」を発表。同年、六本木アートナイト2019に参加。2021年、単独公演「天国と地獄。」発表。同年、東京オリンピック2020開会式出演。同年、単独公演「私の海で溺れればいいのよ。」発表。2022年、「愛と誠。」発表。現在も、創作活動を続けている。
tantanHP:https://tan2.tokyo/
Instagram:https://www.instagram.com/tantan_gakeppuchi_
亀頭 可奈恵(カメガシラ カナエ)
ダンス・アーティスト
幼少期、クラシックバレエを習う。何を思ったか急に高校生の時「自分で踊りを作れるのではないか?」と思い、日本女子体育大学、舞踊学専攻へ入学。コンテンポラリーダンスを学ぶ。多くの人に支えられながら、たくさん泣き、笑い、怒り、その他もろもろの多くの感情を身につけ大学を卒業する。
在学中、同じ方向を志している友人と「入口 出口 崖っぷち」をコンセプトにダンスカンパニーtantanを設立する。
日々、駆け上がったり、転がり落ちたり、泥だらけになりながら、どうすれば自分らしく美しく生きられるのかについて考えている。
Instagram:https://www.instagram.com/k.kamegashira
佐々木 萌衣(ササキ メイ)
ダンサー
青森県八戸市出身。4歳からダンスバレエリセ豊島舞踊研究所にて豊島和子、豊島重之、服部明子らに師事。青森県立八戸東高等学校表現科にて映像表現や舞台芸術を学ぶ。
日本女子体育大学舞踊学専攻卒業。在学中は岩淵多喜子研究室で学ぶ。これまで鈴木ユキオ、伊藤キムなどの作品に出演。
Instagram:https://www.instagram.com/m._.eimei
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ー舞台情報ー
2022年tantan新作公演「パンドラの匣。」
神は私たちに感情という”不安”を与え、”安定”をくださらなかった。
その不安に今日も振り回され、踊らされている。
振付・出演 亀頭可奈恵(tantan)
出演 佐々木萌衣(tantan)吉沢楓
日程
東京公演
11月16日(水)19:30
11月17日(木)19:30
11月18日(金)19:30
11月19日(土)14:00/18:00
11月20日(日)14:00
*開場は開演の30分前。
会場
オメガ東京 ※荻窪駅西口から徒歩7分
料金
一般前売 3000円/当日 3500円
学生前売 2500円/当日 3000円
チケット販売
tantanチケットフォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeNSZEn_gdj_cYOQwsveEeAxLJP83jTyggf7pweYp7gd5HRew/viewform?usp=sf_link
tantanメールアドレス
tantantotantan77@gmail.com
舞台監督 下村唯
照明 太田明希(Light Vision)
音響 スタジオShogo
衣装 村上美知瑠
主催 tantan
photo:Natsuko Saito
interview&text:Sayaka Yabe