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Do it Magazine01Do it Close-up (ドゥイット クローズアップ)
Do it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする企画の[ Do it Close-up ]。今回は、春画を愛する者たちが暴走する偏愛コメディ映画『春画先生』(10月13日(金)より公開)に編集者の辻村俊介役で出演している柄本佑さんにインタビュー。映画や演じた役柄のこと、作品にちなんで今偏愛しているもの、そして、野外上映やシアター体験の魅力などについてお伺いしました。柄本さんおすすめのコメディ映画もご紹介!
02インタビュー
――映画『春画先生』は独特のリズムがあり、映像と物語にすーっと引き込まれていく面白さがありました。今回、塩田明彦監督とご一緒してみていかがでしたか?
僕の勝手な印象で、抽象的なことや感覚的なことをおっしゃられる方なのかと思いきや、しっかりと明確に「こういう風にしてください」とおっしゃる監督でした。本読みや衣装合わせなどでご一緒していくうちに、非常にたくましい方だと感じていたので、現場に入ってからは「監督についていけばいいんだ」という思いになりました。
あと、鰹節を削るときの音や、弓が飛んで刺さるときの音が台本のト書きに擬音として書いてあったんです。作品における音の重要性みたいなものが台本に反映されていたので、音に対するこだわりがある方だなと感じました。
――台本に音のト書きに入っているのは結構珍しいのでしょうか?
そうですね。音まで書かれているのはあまり見ないかもしれません。映画の中の音というのはどこかで映像を支えてるんじゃないかと思いましたし、役者が入りやすい世界観みたいな、気持ちのいいリズムを作られてるような感じもありました。
――音のト書きがあることでシーンや役のイメージをしやすくなることも?
結局は映画が出来上がってみないとわからないことではありますけど、今回の鰹節の音はこの作品において重要なんだということがわかりましたし、 監督の鰹節へのこだわりも伝わってきました。
――確かに鰹節を削るシーンは、後からじわじわ響いてきましたね。
そうなんです。あの鰹節を削る音で、弓子の元気度が測れる映画になっているので。
――本作で柄本さんが演じた編集者・辻村俊介はどんな人だと捉えて演じていきましたか?
監督が“いい加減な色男”とおっしゃっていたように、台本を読んだときから“イケメン”よりも“色男”に近しい役なんだろうなと思っていました。これくらいの声量でこういう風に明瞭にセリフをしゃべってほしいという演出が、台本の段階からなされていた感じがあったので。
――辻村が登場してから、物語が更に回転していったような気がしました。
いや、そういったことは考えてはいなかったですね。でもそういう風に見えていたというのであれば、監督がそういう風に演出されていたのかもしれません。
――なるほど……!
芝居をしている時はあまり気付いていなくて、終わってしばらくたってから「そうだったんだ」とわかることもあるんです。辻村さんはいろいろな行動をしていますけど、根本的にはきっと“春画を作り上げること”が全ての原動力になっていたじゃないかなって、今になって思います。先生に対する愛情と尊敬があるというところが、辻村さんの芯でありポイントだったんじゃないかなと。
――撮影が終わってから、「こうだったんだな」と気付いたり、「実はこうだったのかも」って思い返すこともあるんですね。
完成した作品を観て、「俺、悪役だったんだ」って思ったこともあります(笑)。めちゃめちゃ主人公に睨まれていて、「ちょっと悪いやつだったんだ」って気付いたりすることもあるくらい(笑)。
――『春画先生』は春画に魅せられた人々の“偏愛コメディ”です。柄本さんが偏愛しているものを教えていただけますか?
5年前くらいから、仕事とか関係なく体力づくりでボクシングをはじめて、かなりはまっています。体力づくりと称してやっているんですけど、いざやってみるとやっぱり面白い。かつ、遊びだからこそ真剣にやってしまうんですよね。やる度に課題が出てきて、そのハードルを超えるためにまたいろいろ考えて。達成できたら、また新たな課題が生まれてきたりして(笑)。
――ボクシングって奥深いですね。
でも、そういう感覚がないと続いていないなと思っています。仕事だったらもちろんやりますし、「ここまで頑張れば」というひとつの区切りがあったりするけど、遊びは誰かに頼まれてやってるわけでもない。 だけど、そこにストイックに真面目に取り組んで行くことで、遊びも豊かなものになるなと今回ボクシングを始めてみて思いました。
――ボクシング映画を作られた監督やプロデューサーの方もハマって続けているという話も聞きます。
何かがきっかけで始めて、面白くて続けている方も結構多くいらっしゃるので、やっぱりボクシングって魅力的なんだろうなと。僕を担当してくれているトレーナーの方がボクシングコーディネーターで、いろいろな映画の現場にも参加されている方なんです。 なので、現場に入る時期は撮影を控えている方や監督と一緒に合同で練習したりすることもあります。
――そうなんですね!
あとは、ボクシングから始まって、その後キックボクシングに行ったり、総合に行ったりする方とかもいるんです。俺は両手だけで精一杯だし、まだまだやることがたくさんあるのにみんなすごいなって(笑)。
――ボクシングには、続けていくためのヒントが詰まっていそうですね。
ボクシングの面白さって、パンチで殴ったりとか、ミットでストレス解消するとかではないんですよ。ちょっと哲学的なところがあって、実践をやってみると、相手を倒しに行くというよりは、どこからか自分の問題に繋がってくる。ひとつひとつ組み立てていくみたいな感覚でいうと、将棋とか囲碁とかにも近いかもしれません。
――面白いです。
あと、いいストレートが出ると次のストレートは意識をしてしまってダメなことが多いんです。パンチを打っているんだけど、パンチを打つことを考えないみたいな矛盾が自分の中に生まれてきて、それがまた面白い。相手に気付かれないようにパンチを打つために、まず俺が打つことを考えないで打つ、みたいな。わけがわからなくなってきますよね(笑)。
――ボクシングで得た感覚って、仕事にも反映されることもありますか?
セリフを覚えるときの感覚に似ているかもしれません。僕はそういった細かい作業が結構好きなんだなって改めて思ったりしています。あと、続けていくことで新たな気付きが生まれていくので、そこに気付くためにもこれからも真剣に真面目に続けていこうと思っています。
――柄本さんはこれまでたくさんの映画をご覧になられていると思いますが、野外上映やドライブインシアターで映画を観た経験はありますか?
野外上映では観たことありますが、ドライブインシアターにはまだ行ったことはないです。
――ドライブインシアターは日本では開催自体少ないですもんね。野外上映での鑑賞はいかがでしたか?
ひとつの映画体験としての形としてとても良いなと思います。というのも、野外上映で映画を観たらきっと忘れないだろうなと。 劇場の非常にこだわった音響の中で集中して観るのももちろん良いのですが、野外上映で、作中の音とは関係のない街の音が一緒に鳴ったり、虫の声が聞こえてきたりして。そんなところも含めて映画体験に繋がっているというか。
――確かに、現地へ向かう道程も含めての映画体験な感じがありますよね。
そうなんです。そしてもともと映画ってそういうもののような気がするんですよね。家を出た時からというか、 もっと言えば、その日起きた時から映画が始まっているような。そういった経過も含めたものが、映画にはあるのではないかと思っていて。より良い映画であればあるほど、これまで過ごしてきた時間と、映画を観た後の景色がちょっと変わる感じがあって。やっぱり映画ってそういった力があると思いますし、野外上映になるとよりそれが明確になるなと。
――改めて映画の素晴らしさに気付かされるようなこともありますよね。野外上映に限らず、記憶に残っているシアター体験はありますか?
たくさんありますね。地方に行った時も映画館を巡ったりするし、 いろいろな記憶があるからなあ……。池袋にある新文芸坐は中高生の頃からお世話になっているんですけど、場所が非常にいいんです。近くにストリップ小屋があったり、パチンコ屋があったり、風俗街があったりして。その中に映画館が急にどんって立っている。その劇場の中に入っていって、増村(保造)であるとか、川島雄三とか、成瀬(巳喜男)とか小津(安二郎)の作品とかを観てきました。そういった作品を新文芸坐に観に行くことから、映画が始まっていたような感じがしています。
――初めて新文芸坐に行くときは結構ドキドキした記憶があります。
ドキドキしますよね。「ここに?」ってなりますもん。でもその空間に入っていく感じも含めて、とっても好きな映画館です。何回も回数をやってくれる大箱のシネコンも、もちろん良いしありがたいんですけど、いわゆるミニシアターみたいなところって、それぞれの歴史や匂いがあったり、そこに息づく何かがある感じが好きで。そういう古めかしい映画館に行くと、映画の記憶が体験として刻まれる感じがあります。
――では最後に、偏愛コメディ映画の『春画先生』にちなんで、柄本さんおすすめのコメディ映画を教えてください。
うーん、難しいですね。古い作品ですが、マルクス・ブラザーズの映画ですかね。1人ひとりがただ歩いたり座ったりしただけで面白い。更に、転んだり飛んだり跳ねたりして、どんどん面白くなっていくんです。あと、とにかく役者さんの面白味を楽しむ作品となると、コメディというより喜劇作品になりますが、『社長シリーズ』ですね。 『社長シリーズ』は、森繫久彌、小林桂樹、三木のり平、加東大介、フランキー堺といった錚々たる役者さんが出ていて、どれを観てもまあ面白い。
――どんな部分がおすすめですか?
社長シリーズの最初の作品で、森重さん演じる社長の奥さんが社長の体の健康を気遣っていて、本人はパンを食べたりしたいんですけど、毎朝スムージーみたいなのを飲まされているんです。ある日、お腹を空かせたまま会社に行くと、ある人が会議室で会議中にうな丼を2つ食べている。社長は会議で喋らないといけないんだけど、うな丼にばかり目がいってしまって(笑)。
――お腹が空いていますもんね(笑)。
その森繫さん演じる社長の“いいな”っていう顔を横で三木のり平さんが見ていて。 社長に「そんな顔で見るんじゃない」という感じで袖を引っ張るんですけど、そのやり取りがおかしくてしょうがない(笑)。その時の三木さんの上目遣いと、森繫さんのリアクションとか、そういうやり取りを観ていると、芝居の面白さを感じますし、芝居で笑わされる感覚があるんです。『社長シリーズ』にはそういうシーンがたくさん散りばめられていてとにかく 面白いので、おすすめです。
――『春画先生』とあわせて観ても面白そうですね。ありがとう御座いました!
03作品情報
映画『春画先生』
10月13日(金) 全国ロードショー
原作・監督・脚本:塩田明彦
配給・宣伝:ハピネットファントム・スタジオ
公式サイト
Ⓒ2023 「春画先生」製作委員会
Photo:Natsuko Saito
Interview&Text:Sayaka Yabe