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Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。
今回は、現在アップリンク吉祥寺で上映中の映画『記憶の居所』『朝をさがして』の鼎談インタビューをお届け。両作品を監督した常間地裕さん、『記憶の居所』「味の話」主演の山下リオさん、『朝をさがして』主演のSUMIREさんに、作品への想いや自分と向き合うこと、忘れられないシアター体験などをお聞きました。
『記憶の居所』©Filmssimo /『朝をさがして』©︎Ella Project
アップリンク吉祥寺にて3月29日(金) 〜4月11日(木) 2週間限定上映
アップリンク京都にて4月12日(金)〜上映
ほか全国順次公開
01インタビュー
――どちらの作品も、普遍的なテーマだけれど忘れたくない感覚が残る作品でした。まずは脚本読んだ時の作品の印象をお聞きしたく、『記憶の居所』の「味の話」で唄を演じた山下さんからお願いします。
山下リオ(以下、山下):初めて脚本を読んだのはコロナ禍で、「死」というものが身近になっていた頃でした。 普段から“感覚”で記憶を思い出したりする経験があったので、脚本の中にどこか懐かしさを感じました。
山下リオさん
――どこかリンクするものがあったんですね。
山下:リアルタイムでリンクする部分が多く、すごく共感できたんです。ちょうど事務所から独立したタイミングで、俳優として少し自信をなくしていた時期でもあったので。主演も10年以上ぶりくらいだったので、作品にちょっと背中をおしてもらえたような感覚がありました。
――俳優人生としても、一つのポイントになる作品だったと。
山下:そうですね。私にとっては10年後とかも見返したくなるような、すごく記憶に残る作品です。
――続いて、『朝をさがして』で美琴を演じたSUMIREさんはいかがでしたか?
SUMIRE:偶然なんですけど、自分も事務所を辞めてフリーになったタイミングでの初めての作品でした。コロナ禍で仕事がなくなった時期もあったし、いろんな人とのすれ違いもあったので、当時悩んでいたことの全てが作品の中に詰まっている感じがあって、共感できるところがたくさんありました。
SUMIREさん
――作品と出会った時期もタイムリーだったんですね。
SUMIRE:もともと悩みや苦手なものを共感できる方が仲良くなりやすいと感じていたので、脚本の中に共感できる部分がたくさんあったことが嬉しかったです。こんな素敵な脚本を書く監督だったらきっと、いい作品を一緒に作り合えるだろうなと感じました。
―― 常間地監督は、どんなことがきっかけとなってこの2作を作ったのでしょうか?
常間地裕監督(以下、常間地):『記憶の居所』は、劇中に出てくるゴッホの「夜のプロヴァンスの田舎道」という画を美術館へ見に行った時の光景を、創作に置き換えて小説みたいなものを書きはじめたことが企画の発端でした。自分の中で“記憶”というものがキーワードとしてずっと残っていて、“記憶”について掘り下げていった時に、“五感”のことが浮かんできたんです。何かの味だったり、自分の体験だったり。そのような形で、創作の中にフィクションを織り混ぜながら作っていきました。
常間地裕監督
――『朝をさがして』はいかがでしょう?
常間地:『朝をさがして』は、恋愛をテーマにしたwebドラマの企画がきっかけでした。そこに何かをプラスしようと考えた時に、コロナ禍から少し経過したときに向き合えた、人の居場所や人との距離みたいなものを描きたいと思ったんです。自分の生活の延長線上にあるフィクションとして脚本を書き始めました。
――今回、山下リオさん、SUMIREさんとご一緒してみていかがでしたか?
常間地:出演いただけてとても嬉しかったです。あの役を体現してくださるのは山下さんとSUMIREさんしかいなかっただろうなと思えるようなお芝居でした。撮影期間は短かったですが、一緒に対話しながら作っていったので、現場でもすごく助けられましたね。
――お二人は常間地監督とご一緒してみていかがでしたか?
山下:現場で卵焼きの味を変えてくださったり、 その場で感じる感覚というものを最大限生かせるように配慮してくださったりして、すごく居心地がよかったです。
SUMIRE:監督として尊敬できる部分はもちろんたくさんあるんですけど、いい意味でフラットさがありました。現場でも周りの方に気を配ったりして、常に周りへの感謝を忘れない方でした。監督の持つあたたかい空気が現場に広がっていましたね。
――あたたかい、居心地のいい現場だったんですね。制作において、監督がいつも心がけていることなのでしょうか?
常間地:場合によっては緊張感を持つことが必要な時もありますが、今回はみんなが居心地のいい現場で、その場に居やすい空気みたいなものを大切にしていたいと思っていました。結果、今お二人が話してくださったような形になっていたのであればよかったです。映画はスタッフ、キャストのみなさんがいないと作れないものなで、現場では常に全員でクリエイティブに向き合える環境で在りたいと思っています。もちろんその中で、監督として見たい景色や描きたいものはしっかりと持っていないといけませんが。
――両作品とも“自分と向き合う”みたいなところが1つのテーマのように感じました。みなさんは自分と向き合う時間は大事にしてますか?
山下:私は「自分と向き合い続けて30年」というくらい常に向き合っています(笑)。仕事始める前から自分のことが嫌いすぎて、「なんで自分のことが嫌いなんだろう?」って理由を考えたりしていました。昔からいろいろと考えてしまうことが多いので、一人の時間はすごく大事にしています。
――“自分のことが嫌い”というところが向き合う発端だったんですね。
山下:以前姉から「意地悪な顔」と言われたことがあって……(笑)。すごくびっくりしたんですけど、内面が外面に反映されているのかもしれないと思って、自分の顔を毎日自撮りしてどう変化しているのかを見るようにしたんです。周りに優しくすることを心がけて、自分の顔がどう変化していくのかを1年間くらい続けて見ていた時期もありました。
――そうして客観的に見ることは、俳優の仕事にも繋がってきそうなことですね。
山下:そうですね。結局自分のことを知らないと出したいものも出せないでしょうし、ある種、職業病みたいなものかもしれません。だから正直、今インタビューに答えている私もどこか作られているなと感じていて……。普段はもっとふざけている人間なので、取材の時は真面目にいなきゃみたいな固定概念があるんですよね。自分の中には常に「どの自分でいよう」といういろんな選択肢があるので、それを知りたいと思って去年リアリティーショー(『韓国ドラマな恋がしたい』)にも出演しました。
――何か新たな発見はありましたか?
山下:もっと自分を解放していくにはどうすればいいのか、ということを考えるようになりました。『記憶の居所』を撮っていた時とはまた気持ちや感覚は変わっている気がしますね。だからこそ、あの時の私はあそこにしかいないんですけど。
――SUMIREさんはいかがですか?自分と向き合う時間は意識的にとるようにしていますか?
SUMIRE:自分と向き合うことイコール自分のことを好きになる作業だと思っています。自分を好きでいることが自信を持つことにも繋がるし、周りとの接し方もよくなっていく気がするので。とはいえ、時々向き合い方がわからなくなったり、「こういう状況の時っていつもどうしてたっけ?」と迷うときもありますが。
――その状況になってしまったときはどう対応していますか?
SUMIRE:“無理をしないこと”を心がけるようにしています。やりたいと感じた時にやれる環境を作るとか、食べたいときに食べたいものを食べるとか。つい無理をしてしまって、大丈夫じゃないのにすぐに「大丈夫です」と言ってしまうことがあるので……。
――自分でそのことがわかっているだけでも、行動や判断が変わってきますよね。それは役者を続けていく中でだんだんと気付いていったことですか?
SUMIRE:そうですね。続けていくことで経験も増えていきますし、考え方も変わってくる。今でも「どう向き合っていこう?」と迷うときはあるんですけど、「今、自分は悲しいんだ」とか、その時思っていることを冷静に見つめて考えるようにしています。なるべく“無理をしないこと”を心がけていることで、向き合い方も少しずつうまくなってきている気がしますし、自分自身が生き生きしていることで、それが演技にも反映されると思うので。
――常間地監督はいかがですか?
常間地:しっかり自分と向き合えて処理できているかと言われると、多分できてないと思います。でも、何かを創作している時が1番自分と向き合えていて、整理をしている時間なんだろうなとも思います。
――なるほど。向き合おうとする時に何かを見つけられたり、気付いたりすることもありますもんね。
常間地:一人で居るといろんなことをぐるぐる考えてしまうので、誰かと話したりアウトプットすることで自分と向き合っているのかもしれません。ただお酒を飲んで話をするとか、そういう何気ない時間が自分にとってはすごく大事なんだろうなと感じています。
――誰かと話をすることで、考えが整理できたりしますよね。
常間地:日常の中にある言語化できない感情みたいなものから作品を作ることが多いので、誰かと話をすることで「本当はこう思っていたんだ」という発見に繋がることがあるんです。だからこそ、作った映画を観てくださった方が、映画を介して自分との対話みたいな形になって、観終えたあとの外の景色が少しでも明るく映っていたら嬉しいですね。
――主人公が目を背けてきていたことから、記憶や身近な人の変化をきっかけに変化していく2作品だと感じたのですが、みなさんは自分の弱さとはどう付き合っていますか?
常間地:弱さとかネガティブな部分とは、うまく付き合っていくしかないと思ってます。作品を作るためにいろんなことを考えて唸るのは仕方がないことだし、それをプラスに捉えていくしかないなと。
――ネガティブな感情も、作品が生まれるきっかけにもなるかもしれないと。
常間地:はい。ネガティブを対処しきれていない時もあるかもしれませんが、全てが創作に生きているとも感じますし。もちろん、楽しいことがあってポジティブな気持ちになる瞬間もありますし、映画を観に行ったり、人と会ったりしながら自分の中でバランスを取っているんだと思います。
――SUMIREさんはいかがですか?
SUMIRE:ネガティブな感情とか悲しい気持ちになった時は、自分を愛でるようにしています。常間地さんと少し近い感覚かもしれないですけど、決して一人では生きてはいけないので、友達に話を聞いてもらったり、誰かとおいしいものを食べに行ったりしますね。
――“自分のことを愛でる”っていいですね。
SUMIRE:『朝をさがして』でも描かれていますが、コロナ禍があったからこそ、家族や友達の大切さに気付けましたし、人と関わることのありがたみを再確認できたと思うんです。ネガティブがあるからこそポジティブにもなるし、大変なことがあるからこそ幸せを感じられる。これからもみんなで支え合って生きていきたいです。
――山下さんはいかがですか?
山下:昔はネガティブって悪いものだと思っていたんです。同時に、自らネガティブな方向に向かうような思考や行動をとっていることもあったんですけど、今はもう全然変わりました。
――どのような変化があったんですか?
山下:ネガティブが楽しいと感じるようになりました。
――すごい変化ですね!
山下:苦しければ苦しいほど、それをどう対処しようかという自分に対しての挑戦が生まれる。それに対して泣くことや怒ることもたくさんありますけど、その感情自体が面白いですし、解消するためにいろんな努力もするので。一生懸命、全てのことを楽しみながら生き抜いていきたいです。
――最後に、みなさんの記憶に残っているシアター体験について教えていただきたいです。まずは山下さんからお願いします。
山下:渋谷のイメージフォーラムで『ゴモラ』(監督:マッテオ・ガローネ)を観に行ったときのことですね。内容をはっきり覚えてるわけではないんですけど、上映が終わって映画館を出たときに景色が全然違って見えてドキドキして帰ったんです。その時の感覚を今でもすごく覚えていますし、今でも時々思い出すんですよね。
――素敵な映画体験ですね。
山下:内容よりも観たときの衝撃が残っているのってすごいことですし、やっぱりそれは映画だからこそできること。私はこれからもそういう映画に出たいですし、そういう役者で在りたいと思っています。なので、自分の中での一つの指針になっているのかもしれません。
――SUMIREさんはいかがですか?
SUMIRE:ここ最近の記憶になるんですけど、渋谷のTOHOシネマズで観た『PERFECT DAYS』(監督:ヴィム・ヴェンダース)ですね。日常の素晴らしさを再認識させてくれるような作品で、鑑賞後は劇中で使われている曲を調べて聞いたり、映画に出てきたような居酒屋に行ったりして。映画館を出た瞬間すごく気持ちがよかったですし、かけがえのない小さな幸せを大切にしていたいという気持ちになりました。
――もしも野外やドライブインシアターで観るとしたらどんな作品を観たいですか?
SUMIRE:好きな映画になってしまいますが、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(監督:ウォン・カーウァイ)とかですね。映画の空気感や撮り方がすごく好きで。テイストは少し違いますけど、時間がゆったり流れる感じは常間地監督の作品と通ずる部分があるような気がしています。そういう、ちょっとおしゃれな映画とかをドライブインシアターで観れたら素敵です。
――常間地監督はいかがでしょうか?
常間地:野外上映は、船から対岸のマンションの壁面に投影して観るのを体験したんですけど、すごくリラックスして楽しめたので、 自分の長編作品もどこかで野外上映してみたいです。
――撮影した場所などで上映できたら素敵ですよね。忘れられないシアター体験はありますか?
常間地:映画館で観た映画ってどれも体験としてすごく記憶に残るんです。その中でも印象深かったのは、2年前くらいの年末に早稲田松竹でやっていた青山真治監督の特集上映です。その時に観た『ユリイカ』(監督:青山真治)が1年の締めくくりにピッタリで、街を歩きながらずっと映画のこと考えていました。
――初めて作った作品を劇場で上映した時はどんな気持ちでしたか?
常間地:初めて劇場で上映したのは、ちょうどコロナ禍のタイミングだったので、一度延期して、やっと一席空けで上映できるようになった頃だったんです。公開初日は本当にぐっときて、その景色を観たときに、もう映画作りを辞められないなと思いました。
――映画館がより特別な場所になった瞬間ですね。
常間地:作品を観てくださった方から「1日経ってもあの映画のことを思い出した」みたいな感想をいただいて、すごく嬉しかったことを覚えています。『記憶の居所』と『朝をさがして』も、誰かにとってのいい映画体験になって、今回の2本立てでの上映が誰かの経験と紐づいて記憶に残っていったら素敵だなと思っています。
02作品詳細
常間地裕監督作 2本立てロードショー
『記憶の居所』/『朝をさがして』
アップリンク吉祥寺にて3月29日(金) 〜4月11日(木) 2週間限定上映
アップリンク京都にて4月12日(金)〜上映
ほか全国順次公開
(2023年/54分/G/日本)©Filmssimo
(あらすじ)
看護師として他者の死に慣れてしまった唄(山下リオ)は、疎遠になっていた母の死の報せを聞き故郷へ。いっぽう、美 術館で出会った男(サトウヒロキ)と女(橘 舞衣)は月夜の中をプロヴァンスへと向かって車を走らせる。そして、一 人の少女がまだ名も無き音楽を奏でるとき、また一人の少女はその姿を夢中になって見つめている……。
出演:山下リオ、小久保寿人、磯西真喜 ほか
(2023年/54分/日本)©︎Ella Project
(あらすじ)
新型コロナウイルスの影響で多くの人が時間の停滞を経験した2020年、CAになるという夢を諦めた美琴 (SUMIRE) は不動産屋の仲介スタッフとして働いている。コロナ禍を境に美琴は、下町の定食屋で働く幼馴染の遼太郎(秋元龍太 朗)と、毎週水曜日の20時に近所の公園で1時間だけ会うようになる。倦怠期にある同棲中の恋人・正紀(宇佐卓真)、 恋多き会社の後輩の桜(中島侑香)との、劇的なこともない平凡な日常。遼太郎のとある告白から、美琴が無意識のうち に止めてしまっていた時間が動き始める……。
出演:SUMIRE、秋元龍太朗、宇佐卓真 ほか
公式HP:https://www.kioku-asao2in1.com/
photo:Natsuko Saito(@72527n)
interview&text:Sayaka Yabe
SUMIRE hair&make-up:佐々木篤
SUMIRE stylist:JOE(JOETOKYO)