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Do it MagazineDo it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。
今回は、新鋭・蘇鈺淳監督による映画『走れない人の走り方』で映画づくりに奔走する小島桐子役を等身大に演じた山本奈衣瑠さんへのインタビューをお届け。モデルとしてキャリアを始め、俳優業の他にも「EA magazine(エア マガジン)」を制作・発行するなど幅広く活動をしている山本さんに、映画のことや、ものづくりについての想いなどをお聞きました。
4⽉26⽇(⾦)よりテアトル新宿にて二週間限定公開
©︎2023 東京藝術大学大学院映像研究科
01インタビュー
――視点や構成など細部まで魅力たっぷりな映画でした。脚本を読んだ時の印象はいかがでしたか?
私が桐子を演じることは決まっていたんですけど、「なんでこんなに可哀想なんだろう?」「全然うまくいかないじゃん」と思いました。でも、脚本を読んでいくと、うまくいかないことが続くということは、同時に“頑張っている”ということが並行してるからかもしれないと感じてきたんです。桐子はめちゃくちゃ頑張っていて、めちゃくちゃ映画が撮りたいんだろうなということが伝わってきたので、その気持ちを大事に、映画づくりに全力で向き合っていこうと思いました。あと、桐子が主人公ではありますが、いろんな人たちの人生も描かれていたので、映像になった時にどんな繋がりになるんだろう?みたいな感覚もありました。
――撮影に入る前、監督とはいろいろとお話されましたか?
監督とは今回の長編の前に短編でもご一緒していて。どちらの作品も2022年に撮影をしたので、ほぼ1年間監督と一緒に映画づくりをしていた感じなんです。
――なるほど。では、ある程度関係性ができたなかでの撮影だったんですね。
そうですね。なので、どういうものが好きでどういうものに興味があるのか、彼女の世界観みたいなものがなんとなく見えてきていました。監督は基本的にすごく穏やかなんです。でも、自分の世界はめちゃくちゃ持っている人だから、この監督に着いていけばきっと面白いものが出来上がるんだろうなと思って着いていきました。
――作中での山本さんの等身大な佇まいが素敵でした。桐子とはどう向き合っていきましたか?
こうして取材いただく中でも自分と桐子について考える機会があって、改めていろいろと考えているところでした。そして先ほど監督との対談があって話をしていたときに、監督が「奈衣瑠だと思って脚本を書いていました」と話していて。「そうだったんだ、だから似ていたんだ!」と気付いたんです(笑)。それまでも「桐子の気持ちがすごくわかります」とか勝手に話していたんですけど、そりゃ似てるわ、って感じですよね(笑)。
――山本さんをイメージして脚本を書かれていたんですもんね(笑)。
あと、監督のマイペースさとかこだわりがある感じとか、種類は違うかもしれないんですけど私もそういうところがあるので、そもそも同じ星の人間だと思うんです。だから、監督が書いた桐子のことがすごく理解できたんじゃないかなって。そして、桐子の「映画を撮りたい」という気持ちに向き合って気持ちを高めて演じていったら、ああいう感じになりました。
――山本さんは雑誌をつくったりPOPUPに参加したりとクリエイティブなことをされています。そういったものづくりへの想いが、桐子の映画づくりへの想いに重なった部分もあったのでしょうか?
あったと思います。日常生活でもそうなんですけど、私はやりたいことがたくさんあってなかなか優先順位が決められないんです。全部同じ皿の上に乗っけてしまうから全てが1番で。でも、その決められないところが、多分自分のこだわりでもあると思うんです。桐子も、車が故障したり、主演俳優に辞退されたり、外から見たら難しいと思われる状況かもしれないですけど、彼女の気持ちはよく理解できました。
――俳優やモデルなど幅広くご活躍されていますが、お休みを含めどのようにバランスをとっているんですか?
自分の中で割合を決めているわけでもなく、仕事としてお話いただいたものに対して、1つずつ向き合っている感じですね。でも、基本は脳みその中に1つの情報しか入らないタイプなので、撮影している時は撮影に集中して、終わったらめちゃめちゃ遊ぶみたいな形です。
――集中するときは集中して、休むときは休む、と。
区切りはつけるようにしていて、頑張ったあとは友達と過ごしたり、一人で海外旅行に行ったりと自分にご褒美をあげるようにしています。あとは、隙間に散歩する時間をつくったり、意識的に一人でいる時間を設けるようにしていますね。趣味の時間というか、好きなものを吸収する時間というか。
――自分の好きな感覚を思い出す時間って大事ですよね。
そうですね。立っているだけで許される時間とか、世の中に何も生み出していない私をよしとするみたいな時間も大事です(笑)。 ただ息をしているだけの自分を許す、みたいな時間をめっちゃ設けるようにしています。ただ立って、夕日の位置が変わっていくのを見ているみたいな時間。でも、それが私にはすごく大事なんです。
――これまでも俳優部としていろんな映画づくりに参加されていますが、映画をつくる現場の魅力ってどんなところにあると思いますか?
そもそも私は物をつくることがすごく好きなので、そこにどんな人が携わっているのかがいつも気になるんです。映画の現場にいても同じような感覚が生まれるので、今自分が俳優の仕事をしているのもその魅力に触れて辿り着いたように感じています。
――素敵な視点ですね。
映像作品の部屋の中にあるものや、1つ1つの光も、誰かがつくっているもので。世の中はどんどん発展していて、CGなどの技術もたくさんありますけど、映画の中で<飲み物を飲む>という動作のための飲み物も、誰かが準備して置いてくださっている。そういう全ての景色をつくることがすごく興味深いので、各部署の仕事にすごく興味あります。
――そういった作り手の視点があると、お芝居をすることもより面白くなりそうです。
映画が好きな人たちの中には、ある1つの光の素晴らしさがわかる人たちもいるじゃないですか。私はまだそこまで詳細にはわからないですけど、その作品の世界を生み出している人たちの仕事はすごく魅力的ですし、全て誰かがつくったもの、デザインしたものなんだって思うととても愛おしくなる。各部署のプロフェッショナルな仕事を見ていると、「私も頑張ろう」という気持ちになりますね。
――そう考えると映画って、作り手の方々のいろんな人生が入っているように感じます。でも同時に、何かをつくることや何かを生み出すことって苦しい部分もあるように思うのですが、山本さんが感じるものづくりの1番面白いところと1番苦しいところってどんな部分ですか?
すごく個人的な感覚なんですけど、物をつくるということは今この瞬間にでも始められるじゃないですか。紙とペンあったらZINEがつくれるし、自分の心の動機だけですぐに始められるというところが楽しさですね。
――まさに今この場でも始められますよね。逆にどんな部分が苦しいですか?
またこれも個人的に苦手な部分になってしまうんですけど、数字的なこととか、機械的なことですね。アイディアを生み出すのと、それを整理してまとめていくことはまた少し違う脳を使うので、数字的なこととかこの枠内で終わらせてくださいということが本当に苦手で……。
――ものづくりは1人でもできますが、苦手な部分をフォローし合ったり、アイディアを出し合ったり、誰かとやることで幅が広がることもありますよね。
そうですね。映画の現場も、小規模であっても1人でつくっているわけではないですし。現場は各部署がそれぞれ用意してきたものを披露する場でもあり、そのフェアさもいいですよね。いざ現場で合わせてみたら予測していなかったものが生まれたりしますし。そういうところも現場の楽しいところだと思います。しかも映画は、1人だけに観てもらうものではないので、つくる段階でもいろんな目があった方が広がりも生まれるのではないかなと。
――なるほど。
それで言うと、モデルやお芝居のお仕事には脚本という地図はあるけれど、枠のようなものはないと思っていて。そこから多少はみ出ていてもOKだったりするので、それが自分には合っているなと感じています。
――Do it Theaterは野外シアターを企画・制作しているチームなのですが、山本さんは野外上映やドライブインシアターで映画をご覧になられたことはありますか?
実は、ドライブインシアターで観たことがあるんです。
――そうなんですね! どの作品をご覧になったんですか?
『シング・ストリート 未来へのうた』(監督:ジョン・カーニー)を観たんですけど、映画館で観るのとはまた違う魅力がありましたね。寝っ転がって、お菓子とかを食べながら観て、めっちゃいい思い出になりました。楽しかったので機会があったらまた行きたいです。
――映画館で観るのももちろん素晴らしいですが、野外上映やドライブインシアターはまた少し違う楽しさを味わえますよね。
私は、映画の楽しみ方はもっといろんな方法があるんじゃないかと思っているので、映画館以外の場所でももっと観れるようになったらいいなと思っています。映画を観に行くときって、その前の時間も記憶や思い出に含まれるじゃないですか。ちょっと遠いところとか、旅行のついでにとか。野外で映画を観るという目的があって、みんなでお出かけをするのもまた素敵ですよね。
――では最後に、本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。
この作品は、映画づくりってこういうことなんだとか、物をつくる人の悩みや迷いが見えてくる映画。そして、映像で表現できることの豊かさとか、自分たちの手でつくったものについての温度が伝わる距離感で描かれています。その部分を楽しんでいただけたら嬉しいです。
――ちなみに、山本さんが桐子に声をかけるとしたらどんな言葉をかけますか?
気持ちがすごくわかるからこそ「あんた、よくやったよ」って感じですかね。『走れない人の走り方』というタイトルですけど、桐子なりにがむしゃらな走り方で走ってみたら、それが桐子の走り方になったわけなので。
――確かにそうですね。
性格は頑固ですし、周りの人たちに迷惑をかけているんですけど、最終的に諦めないでちゃんとやり抜いている。すごくチープかもしれませんが、「諦めないで、辞めないでよかったね」って伝えたいですね。自分が譲れないものがちゃんとあることも見えましたし。
02作品詳細
4⽉26⽇(⾦)よりテアトル新宿にて二週間限定公開
ヨーロピアンビスタ/5.1ch /82分 ©︎2023 東京藝術大学大学院映像研究科
(あらすじ)
ロードムービーを撮りたい映画監督の小島桐子。だが、理想の映画づくりとは裏腹に、予算
は限られ、キャスティングは難航するなど、問題は山積みだ。ある日桐子は、プロデューサ
ーに内緒でロケハンに向かうが、その途中で車が故障。さらにその夜に飼い猫が家から逃げ
出した上、妊娠中の同居人が産気づく。様々なトラブルに見舞われ動揺した桐子は、翌朝の
大切なメインキャストの打合せを反故にしてしまう。キャストが決まらず車を直す金もな
い中で、撮影を実現させるための方法を模索する桐子は、あるアイデアを思いつくーーー。
出演:山本奈衣瑠、早織、磯田龍生、BEBE、服部竜三郎 ほか
HP:https://hashirenaihito-movie.com/
Instagram:@hashirenaihito
X:@hashirenaihito
photo:Natsuko Saito(@72527n)
interview&text:Sayaka Yabe
hair&make-up:kika
stylist 佐藤奈津美