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Do it Magazine01モデル・俳優 イシヅカユウさんのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、モデル・俳優 イシヅカユウさんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
02作品名
映画『ロシュフォールの恋人たち』
監督/脚本/作詞:ジャック・ドゥミ
Blu-ray発売中(4,700円+tax)発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
(C)Cine-Tamaris 1996 ※Cineのeの上にアキュート・アクセントが付きます
03インタビュー
――作品との出会いやきっかけを教えてください。
中学2年生の時、1960年代のファッションにハマっていて、60年代のファッションをまとめた本(60’s STYLE BOOK)を愛読していたんです。その本の映画のファッションを紹介するページに『ロシュフォールの恋人たち』が載っていて、そこで作品と出会いました。
当時はおそらくVHSしか販売されていなかったのですが、デジタルリマスター版のBlu-rayが発売されるタイミングで再上映があって。高校生の時に初めて1人でミニシアター(シネマイーラ)へ観に行った思い出の作品でもあります。
――作品からはどんな影響を受けましたか?
映画の中で服飾がすごく大事な存在になっていて、細かなところまで仕掛けられていることに感動しました。ダンスシーンで踊った時に、スカートの切り返しのところだけ真ピンクになっているのがチラッと見えたりして。とても忘れられない映画体験になりました。
もともとは服飾の仕事に就きたいと考えていたんです。高校卒業後に服飾の専門学校へ進学したんですけど、家庭の事情で1年くらいしか通うことができなくて……。その後、服飾の仕事にまた携わりたいと気持ちを切り替えて頑張れたのも、何度も観ていた『ロシュフォールの恋人たち』の存在がすごく大きかったと感じています。
――映画で悩みが解消された時のエピソードはありますか?
東京でモデルの仕事を始めたばかりの頃は、バイトをしながら地元から東京へ通っていて、わりとモラトリアムな時期だったんです。なので、その時にもよく『ロシュフォールの恋人たち』を観て元気をもらっていました。
作品を観る度に「ここってこんなシーンだったっけ?」と、新たな気付きがどんどん生まれていくのも『ロシュフォールの恋人たち』の魅力。きっと、自分自身が何かしらの成長や変化をしていたからだと思うんですけど、そういう1つひとつの気付きも嬉しかったですね。
――『ロシュフォールの恋人たち』はイシヅカさんの人生において支えとなる作品だったんですね。
はい。ジャック・ドゥミ監督の作品は『シェルブールの雨傘』や『ロバと王女』など面白い作品がたくさんあるんですけど、『ロシュフォールの恋人たち』はもう底抜けに元気になれる。洋服の布の広がり1つで感動できることを知れたのも、この作品がきっかけですし。作品を見るたびにいつもすごく勇気づけられています。
――モデルとして活動を始め、現在は俳優のお仕事もされていますが、お芝居には以前から興味があったのでしょうか?
モデルが俳優の仕事を始めることは、キャリアの重ね方としてシームレスであると思っているんですけど、私の中でモデルと俳優では表現の仕方が全然違うと感じていたんです。
――実際に仕事をしてみたらだんだんと変化が?
監督が所属していた服飾サークルで、以前私がモデルをしていたことがあったんです。その時のご縁で、『蹄』(監督:木村あさぎ)という作品のヒロイン役で映画に出演するお話をいただいて。当時はまだモデルの仕事がメインだったこともあって、精霊のような役だったんですけど、映画づくりはモデルの仕事とは違う楽しさがたくさんありました。
――映画づくりに参加して、お芝居の面白さに気付いたんですね。
その後も、いろいろなミュージックビデオに出演をして、2020年に『片袖の魚』(監督:東海林毅)という映画で主演を務めたことが俳優という仕事と向き合う大きな転機になりました。
――俳優の仕事と向き合ってみて、どんな変化や気付きがありましたか?
“歩く”という1つの動作をとっても、これまではモデルとして“服を綺麗に見せるための歩き方”に注目していたので、普段の歩き方も無意識に“モデルの歩き方”になっていたんです。なので、“普通に歩く”こととか、細かな動作1つひとつと向き合って考えていきました。
そうしていろいろな動作を研究していくうちに、どんどんお芝居をすることが楽しくなり、俳優のお仕事って人生の全部が引き出しになり得ると感じたんです。思いもよらない時に、思いもよらないことが何かの引き出しになったり。
――人生の全てが経験となり、お芝居に繋がると。
経験していないより経験していた方が自分の糧になるし、お仕事にも繋がっていく。なので、多少のリスクがあったとしても「まずはやってみる」という方法を選べるようになりました。元来そういうタイプだったはずなんですけど、いつの間にかだんだんとブレーキをかけるようになってきてしまっていたので、俳優の仕事を始めてから人生がどんどん楽しくなっています。
――もともとファッションが好きでモデルの仕事を始められたと思うのですが、“好きなこと”が“お仕事”になって、苦しかったり大変だったりしたことはありませんか?
“好きすぎて仕事にしたら辛くなってしまう”みたいな感覚があることもすごくわかるんですけど、私自身は運良くそうはなっていないですね。好きだから仕事にしてるように見えるかもしれませんが、やっていくうちに仕事になっていったところもあるからかもしれません。
――なるほど。
あとは、ファッションや映画以外にも好きなことがたくさんあるからかもしれません。音楽も好きですし、料理をするのも食べるのも大好き。だから、少しベクトルが違っていたら料理人になってたかもしれません(笑)。でも逆に言うと、それを全部できるのが俳優の仕事なんですよね。
――確かに。俳優はいろいろな人生を演じるお仕事ですもんね。
そして私のプライベートは、仕事以上に映画みたいなことがよく起こるんです(笑)。こうやってインタビューを受けているのも、映画やドラマのワンシーンみたいだなって思いますし、“映画みたいだな”と思って毎日を過ごしています。
――イシヅカさんの、いろいろなことに興味を持って進んでいくエネルギーは、どんなところから生まれているのでしょうか?
映画や音楽や食など、たくさんのものをインプットすることですね。今っていろいろな形でインプットができるので。あとは、魚を見ることです。
――『片袖の魚』で演じられたひかりともリンクしますね。
そうなんです。ひかりと同じで、魚を見ることも私の原動力になっています。ファッションや色の組み合わせを考えるときにもすごく参考になるので、魚や自然って本当にすごいんです。
――興味だけで終わらせないところとか、どんどん知ろうと行動に移されているところも素敵です。
行動に移せるようになったのも、きっと俳優の仕事を始めたことがきっかけになっていると思います。俳優は演技を突き詰めることも大切ですけど、それ以上にいろいろなことを知って、身体で覚えることが大事。その積み重ねが、演技につながっていくんだろうなと感じています。
――日々の生活の中でも、さらに多方面へ興味が生まれていきそうです。
そうですね。そういう視点を持てたことで、人生を送ること自体がすごく楽しいということに気付けました。この先、役を演じるうえで歌を歌うかもしれないし、踊りを踊るかもしれない。もちろん、プロとしてその道を突き詰めている人がいて、その人たちがいるからこそ享受できているわけですが。
でも、「やりたい」と思ったことを素直にやるのって、全然悪いことではないですよね。自分の中で勝手に遠慮してできていないこともあると思うので、そこに気付けたことが今の私の積極性に繋がっているのかもしれません。
――今回取材をしたいと思ったきっかけが、イシヅカさんの「私は、映画を観るのが好きなんじゃなくて、映画になっちゃいたかったんだと最近気づいた。」というXの投稿だったんです。これは、どういうことがきっかけで思ったのでしょうか?
矢口史靖監督の『ひみつの花園』を観た時に、「私もそういう風に生きたい」って思ったんです。
――気になります。
すごく面白いのでぜひ観ていただきたいんですけど、『ひみつの花園』は、主人公が思い立っていろいろなことをやり出して、どんどん映画みたいなことが起こっていくみたいな作品なんです。この作品の他にも、映画の中の人たちって突拍子もないことが突然起こったとしても、どんどん行動していくじゃないですか。それってきっと、映画を作る方々が「本当はそうしてみたい」って感じたから、作っているんだと思うんです。なので私も、「こうしてみたい」ということをただ傍観しているだけでなく、そういうふうに生きていこうって思ったんですよね。
――なるほど。映画が今のイシヅカさんを作っている要素の1つにもなっているんですね。
そうですね。映画は総合芸術なので、観ているといろいろな方向から殴られているような感覚があるんです。・・・言い方が少し強くなりましたけど(笑)。
――そもそも映画を観ることは子供の頃からお好きだったんですか?
映画にハマったのは、お父さんが持っていたDVDで観た『チャーリーズ・エンジェル』(監督:マックG)と『キル・ビル』(監督:クエンティン・タランティーノ)がきっかけです。ルーシー・リューに憧れて、そこからアクション映画やタランティーノ監督の作品など、いろいろな作品を観るようになりました。
あと、実家のすぐ近くに大きな図書館があったので、VHSで昔の邦画もよく借りて観ていました。鈴木清順監督の、大正浪漫三部作と呼ばれている『ツィゴイネルワイゼン』、『陽炎座』、『夢二』とか。あと、若尾文子さんの大ファンなので、若尾さんが出演している作品はほとんど観ています。
――では最後に、イシヅカさんが感じる『ロシュフォールの恋人たち』の魅力を教えてください。
それこそ、ファッションも音楽も画も全部が魅力なんですけど、シーンに映っている全ての人たちが、映画の中ですごく生き生きと生きているんです。時々恋をしたり、泣いたりしながら、すごくおしゃれな服を着て、カラフルで楽しそうに過ごしている。そんな「この日を楽しく生きよう」としている姿が本当に好きで、観ていて幸せな気持ちになるし、勇気をもらえる。でも1番の魅力は、スクリーンに映る全員が、息づいていることなのかなと思います。
04プロフィール
イシヅカユウ
Japanese fashionmodel actor.
KASHISH Mumbai Queer Film Festival最優秀主演俳優賞.
Instagram:@yu_ishizuka
X:@ishizukayu
photo:Natsuko Saito(@72527n)
interview&text:Sayaka Yabe