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Do it Magazine6歳の少女の視点で描いたナニー(乳母)との愛情の形『クレオの夏休み』マリー・アマシュケリ監督、ベネディクト・クーヴルールプロデューサー、主演のルイーズ・モーロワ=パンザニインタビュー
Do it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする[Do it Close-up]。 今回は、映画『クレオの夏休み』(2024年7月12日(金)公開)のマリー・アマシュケリ監督、ベネディクト・クーヴルールプロデューサー、クレオ役ルイーズ・モーロワ=パンザニさんにインタビュー。作品のテーマや演出でのこだわり、本作を子供の視点で描いた理由などをお聞きしました。
7月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
01インタビュー
――日本での公開を控えて、今どういうお気持ちですか?(取材は2024年3月の来日時に実施)
マリー・アマシュケリ監督(以下、マリー):初めて日本で私の映画が公開するので、観客がどういう反応をするのかワクワクしています。国境を超えてどのように作品が伝わるのかとても興味がありますね。
――今回作品で描かれている「ナニー」は日本では中々馴染みがない文化でした。いろいろなことを想像しながら映画を拝見したのですが、なぜナニーの物語を描こうと思ったのでしょうか?
マリー:フランスではナニーの文化が主流なんですが、ナニーの現状について触れられていないことが多くあるなと感じていました。
――どういったところでしょうか?
マリー:例えば、ナニーたちの中には祖国に実の子供を置いてフランスに出稼ぎに来て、富裕層の子供のお世話をしている人が多くいます。ナニーを雇っている人たちは、そういうことをわかっていながら公には言えないという事情があるんです。
――まさに(イルサ・モレノ・ゼーゴ演じる)グロリアもそういった背景をもっていましたね。
マリー:あとは、世間では子供が自分の母親ではない人に対して、母親と同じような愛情を抱くことにもあまり触れられていません。恐らく、子供の実の両親が嫌な思いをすることを危惧して語られていない部分だと思います。そういったナニーと子供の秘密の関係というか、禁断の愛を描くことが今作の大きなテーマになっています。
――ですが、本作はグロリアではなく、クレオの視点で物語が描かれていますよね。子供の視点で描いた理由を教えてください。
マリー:そこはプロデューサーともよく話し合った部分です。
ベネディクト・クーヴルール(以下、ベネディクト):誰の視点に立って描くのかは、いろいろなパターンが考えられました。両親やナニーたちの視点で描くことや、例えばアフリカのカーボベルデから出稼ぎに来た人の視点で描くことなど、さまざまな可能性はありました。ただ、本作を子供の視点にこだわって描いたのは、映画を観た誰もが子供の視点に立って、そこに自分を見出すことができるのではないかと思ったからです。
――ルイーズ・モーロワ=パンザニさん(以下、ルイーズ)の演技にもとても胸を打たれました。初めての演技だったそうですが、思い通りにできましたか?
ルイーズ:思い通りの”思う”がなかったので、本当に初めて演じてみたという感覚でした。クレオの役自体も脚本を読んでよく理解できていたので、演技もスムーズにいったと思います。
――演じたクレオと自分自身に重なるところがあったのでしょうか?
ルイーズ:はい、私にも実際ナニーがいるんです。彼女は私が保育園の頃からずっと側にいてくれたので、脚本で描かれている心情がとてもよく理解できました。
――クレオの気持ちに理解があったからこそ、あの素晴らしい演技が生まれたんですね。クレオの繊細な感情の揺らぎを伝える上で、監督が演出でこだわったところを教えてください。
マリー:子供は、どんなことでも常に初めての体験になると思うんです。風を見るのも、海を見るのも、人と出会うのも、別れるのも。全てが自分にとっての初めての出来事なので、火山が爆発するようなすごく強い感情をいかにしてカメラに収め、強い気持ちを表すかが大事だと思ったんです。
――なるほど。
マリー:その様子は映像でも描けるのですが、音からも描くことができます。自分を取り巻く環境や周りの状況を、どのように感じているかを描くには、さまざまな方法あります。その中でも音響は、最も自然に描ける方法だと思っていて。なので今回は、そういった力強い感情を自然に描くためにも、音響にはすごくこだわりました。
――プロデューサーとしての視点からはいかがでしょう?
ベネディクト:今作では、子役を見つけることが非常に重要だったので、たくさんの子供たち出会い、物語を伝えていきました。そんな中で出会ったルイーズは、クレオに会ったことがなくても、クレオのことをすぐに理解してくれたんです。ルイーズは、クレオという人物を正しく表現して、魅力的に演じてくれました。
――運命的な出会いだったんですね。
ベネディクト:ルイーズは、事前に脚本を読んでいてくれたり、両親ともストーリーについて話し合ったりしてくれていました。監督に質問を投げかけたりして、意欲的に脚本に向き合ってくれたことが繊細な表現に繋がったのだと思います。
――監督とプロデューサーでよく話し合ったことや、助け合ったことがあれば教えてください。
ベネディクト:よく話し合ったのは「どういった映画にするのか」ということ。マリーは自分の体験を語る部分があったので、まずは5ページくらいのストーリーを書き、そこから二人で掘り下げていきました。
マリー:今回は子供がメインの作品だったので、ベネディクトのアドバイスはとても助かりました。
――具体的にはどういったアドバイスでしょう?
マリー:ベネディクトはこれまでに子供が出演する作品を作ったことがあったので、その経験にすごく助けられました。脚本は、70ページ以上あったら絶対に無理よとアドバイスをくれたり、子供たちの稼働時間を考えて、なるべくシンプルかつダイレクトな話にした方がいいよと教わりました。あと、喧嘩もしましたね(笑)。
マリー:というのは冗談で(笑)。ルイーズから見ると、どちらが監督でどちらがプロデューサーかわからない状況もあったかもしれませんが、仲良く過ごせました。
ルイーズ:みんな、仲良かったです!
――みなさんは野外シアターやドライブインシアターなど特別な環境で映画を見たことはありますか?
ルイーズ:私はコルシカ島で野外シアターを観たことがあります。
ベネディクト:パリのラ・ヴィレット公園では夏休みの間にミュージカルや、テーマに沿った映画を無料で上映して、毎年とても賑わっています。
――映画館以外での映画体験はどうでしたか?
マリー:音響が良ければすごくいい体験になると思います。
ベネディクト:私も音が大事だと思います。素晴らしい作品でも、音響設備や会場の響き方がうまくいかなかった場合は、映画の重要な部分が抜け落ちてしまうと思うから。でも、音が良かったらとてもいい体験になると思います。
――それでは最後に、日本で映画を観る方にメッセージをお願いします。
マリー:今、外で映画を見ることの楽しさを話しましたが、この映画が、外に出ていけるきっかけの作品になれたらと思います。自分の殻に閉じこもっていないで、他の国や他の人の気持ちに一歩足を踏み入れていけるような、映画を通してそういう体験をしていただけたら嬉しいですね。
ベネディクト:日本ではナニーがどのようなものか知らない方が多いと思うので、日本の方々が私たちの映画を見てどういうふうに感じるのか、すごく楽しみです。
02作品情報
7月12日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国公開
Ⓒ2023 LILIES FILMS
(あらすじ)
父親とパリで暮らす6歳のクレオは、いつもそばにいてくれるナニーのグロリアが世界中の誰よりも大好き。お互いに本当の母娘のように想いあっていた2人だったが、ある日、グロリアは遠く離れた故郷へ帰ることに。突然の別れに戸惑うクレオを、グロリアは自身の子供たちと住むアフリカの家へ招待する。そして夏休み、クレオは再会できる喜びを胸に、ひとり海を渡り彼女のもとへ旅立つ…。
監督:マリー・アマシュケリ
1979年7月16日生まれのジョージア系フランス人。映画監督、脚本家。
共同監督した長編デビュー作『Party Girl』が2014年カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に出品され、カメラドールを受賞。セザール賞の最優秀長編映画賞と最優秀編集賞にノミネートされるなど世界中で絶賛を集めた。本作『クレオの夏休み』が単独での初長編監督作となる。
プロデューサー:ベネディクト・クーヴルール
フランスの映画プロデューサー。フランスの映画学校フェミス(La Fémis)で映画製作を学ぶ。
これまでセリーヌ・シアマ監督の『水の中のつぼみ』(2007)、『トムボーイ』(2011)、『ガールフッド』(2014)、『燃ゆる女の肖像』(2019)、『秘密の森の、その向こう』(2021)を手掛けた。
クレオ:ルイーズ・モーロワ=パンザニ
8歳でパリ在住(2024年2月時点)。撮影当時は5歳半。パリの公園で遊んでいたところをスタッフに見出され、本作で演技初挑戦となった。
公式X:@cleo_movie
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/cle
photo:Natsuko Saito(@72527n)
interview&text:Reika Hidaka