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Do it MagazineDo it Close-upは、Do it Theaterが今気になるシアターカルチャーをクローズアップしてお届けする企画。 今回は、映画『ほなまた明日』(2024年9月28日(土)より公開)で長編映画デビューを果たした道本咲希監督と主演の田中真琴さんにインタビュー。キャラクター作りでこだわったことや撮ることでのコミュニケーションについてお伺いしました。
2024年9月28日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
01インタビュー
――この作品は主人公のナオの存在によって周りの人たちが刺激を受けたり気付かされたりするお話で、人と人との関係や人物描写が魅力的でした。本作ではナオをどう描くかがとても重要に感じたのですが、キャラクターはどのように形成していったのですか?
道本咲希監督(以下、道本):これまでも実体験から映画を作ることが多く、今作も私の実体験をベースにフィクション化して脚本を作っていきました。なので、ナオは私自身でもあるし、私が憧れている誰かでもあります。
――そうなんですね。そんなナオを演じた田中真琴(以下、田中)さんとの出会いはいかがでしたか?
道本:田中さんとはワークショップオーディションで出会いました。田中さんの持つ「何かをやってやるぞ」という溌剌とした強さが、私が描いていたナオの像と重なるところがあると感じたんです。なので、私の中にあったナオ像を田中さんの持っている力に寄せていったような感覚があります。
田中真琴・たなかまこと
――田中さんは、「自分と重なる役」「人生をかけて演じた」とコメントを寄せてましたが、ナオという役と出会い、演じてみていかがでしたか?
田中:私も周りの意見にあまり左右されない人間なので、そういうところがナオと似ているのではないかと思いました。きっと周りの人から見たら、そういうところが「自分と違うものを持っている」感じがするのだと思います。でも、自分自身が特別であるという認識はないんですよね。自然とそう見えてしまうところに、何かナオと近いものがあると感じていました。
――自分の気持ちに素直に進むというところで、重なるものがあったと。
田中:はい。今作のワークショップオーディションに参加したのも、ちょうど崖っぷちにいた時期で。“もっと自分からがむしゃら動いていきたい”とインターネットで見つけて気になったワークショップに片っ端から参加していたときに出会ったんです。きっと、その当時の気持ちが役と重なっていったんだと思います。
――そうして参加したワークショップオーディションで道本監督と出会って、一緒に作品作りをしてみていかがでしたか?
田中:道本監督は、たくさんお話を聞いてくださる方でした。リハーサル終わりにご飯を食べに行って話をしたり、帰ってからも電話をしたりして、映画について密に話す時間を作れたのが嬉しかったです。
――周りの人たちの会話や接し方から、ナオがどういう人間なのかが見えてくるところが面白かったです。なぜそういう構成の物語にしようと思ったのでしょうか?
道本:この映画は、1人の女性が力強く歩いていく作品が作りたいというところから企画が始まりました。また、以前から1人の人間にみんなが影響され、ちょっとずつ人生を変えられていくみたいな話を作ってみたいとも思っていたんです。なので今回は、力強く歩んでいく人に周囲の人たちがちょっとずつ刺激を受けて、人生が変わっていくという構成にしました。
――そういう物語を作りたいと思ったのは、何かきっかけや出会いがあったのでしょうか?
道本:大きなきっかけとしては、自分の学生時代の体験です。今作は私が学生時代に体験したことを書いた小説がベースになっていて、学生時代から親しくしていた方が今回脚本で参加しています。その脚本家の人から見た当時の私が、人のことを傷つけながらもやりたいことに突っ走っていく姿を、乱暴だけれど面白いと思ってくださり、その視点も交えながらストーリーを作っていきました。
――ナオの友人や先生などのキャラクターはどのように作っていきましたか?
道本:私が書いた小説の中にそれぞれ似ているキャラクターがいて、映画にする際に脚本の方と一緒に具体化していきました。試写で観た方からの感想では、「どの登場人物にも道本さんが居るね」と言われたりします。
道本咲希監督・みちもとさき
――田中さんは、ナオのパートナーや友人たち、山田勝役の松田崚汰さん、松雪小夜役の重松りささん、多田慎太郎役の秋田卓郎さんなどとご一緒してみていかがでしたか?
田中:大学生役の4人とはチームみたいな感じで、行動を共にすることが多かったんです。これまで私がしてきた仕事は、先輩の俳優さんたちとご一緒するという環境が多かったので、今回のように自分が引っ張る側の立ち位置は初めての経験でした。
なので、意識的に「頑張らなきゃ」って思っていたんですけど、それは私が気にしすぎだったみたいで。周りを見たらみなさん全然気にしていなくて、気軽に話をしたり、監督がいないところで相談し合ったりしていました。
――いい環境だったんですね。
田中:私がカメラの練習で街を何時間か歩いていた時も、多田役の秋田さんが立ち合ってくれて、その合間にカフェで役についての話をしたりして。それぞれが役に近い関係性でいれたような気がしています。
――だからこそ、あの4人の距離感ややり取りが生まれたんですね。
田中:脚本を読んだときに、ナオが孤立して、嫌な奴みたいに見えてしまったりするのは少し怖いなと思っていたんです。でも、だんだんとみなさんと関係性が築けて、信頼も生まれてきた。そういう空気がいい感じに映像に出ていたら嬉しいです。ナオとしても、相手と向き合った上で傷つけてしまっている部分もあるけれど、そこにちゃんと愛があることが伝わればいいなと。
――今作はカメラの映画でもあり、「撮る」ことで見えてくるものもキーになっていると感じたのですが、「カメラを向ける」ことや「撮る」ということに対しては何か意識されていましたか?
道本:今回は「写真を撮る」というよりも、写真を撮るために歩き続けることとか、写真を撮るうえで起こるコミュニケーションみたいなところに注力していました。あと、写真を扱う映画をつくる上で、絶対に写真に対して誠実でいようと、リサーチも重ねました。
――リサーチをして、どんな気付きがありましたか?
道本:ある学校の先生から、写真学生には「とにかく歩きなさい」と教えているとお聞きして、なんか、止まることのできない人生と似ているなと感じたんです。なので、今作では歩くということを大切に作っていきました。
――ナオが歩きながら撮影するシーンは印象的です。
道本:田中さんにはカメラを持っていただいて、写真家の淵上(裕太)さんにアドバイスをもらいながら一緒に道を歩いて撮影をして、カメラを構えるときの身体の使い方を覚えていただきました。
――写真を学んでいる学生として、そういうフィジカルの部分も大切にされていたんですね。
道本:フィルムカメラで撮影するときは、体の動きを止めて、その瞬間を狙ってシャッターを押さないとぶれてしまったりして綺麗に映らないんです。なので、身体の使い方を覚えていただき、あとは田中さんの気持ちのままに素直に撮っていただくだけだと思っていました。
――田中さんは、カメラ用のInstagramアカウント(@tanakamakotocamera)もありますが、普段から写真をよく撮られているんですか?
田中:大学生の頃に買ったデジタルの一眼レフで、パシャパシャと好きなところを撮っています。フィルムカメラも扱ったことはあったんですけど、特に意識せずに好きなように撮っていました。今回の役を演じるにあたって、いろんな映画を見たり、本を読んだりして勉強した上で、淵上さんにもいろいろ教えていただいたんですけど、カメラと向き合う精神性に関しては理解できていなかったんです。
――気になります。
田中:写真を撮るということは、この世の中にその人の一瞬を残してしまうということの重大さが伴うんですよね。その責任の重さみたいなものまでは、あまり考えたことがなかったなと。いい写真が撮れればという気持ちで撮っていましたが、よく考えると、その人の写真がこの世の中に一生残ってしまうということでもある。どんな写真でもそこに責任が生じるから、ちゃんと撮らなきゃいけないなと。
――責任……なるほど。今ではスマートフォンでも簡単に撮影して記録できてしまう世の中だからこそ、いろいろ考えてしまいますね。
田中:はい。そのことを教えてもらってからは、プライベートで撮影するときも、カメラを向けることや、写真を撮るときの意識が変わりました。
――あと、先ほど監督がお話されていた「コミュニケーション」の部分も、映画の中にさまざまな形で描かれていたように思います。子どもたちとのシーンや、女性2人を撮影していて「なんか嫌だ」と言って去られてしまうシーンなど。
道本:子どもたちとのシーンは、脚本の初期の段階から入れていました。ナオが写真を撮る喜びって、カメラがなかったら出会えなかった人たちとカメラを通してコミュニケーションがとれることなんです。ナオはそれを素直に嬉しいと思える人なので、ナオが第三者とコミュニケーションをとることを意識しながら脚本を書いていきました。
――映画に置き換えると、ナオにとってのカメラは監督にとっての映画だったりするのでしょうか?
道本:そうですね。私も監督として映画を撮らなければ考えていなかったこととか、出会わなかった人たちと出会えているので。そしてナオは、写真を撮ることでずっと考え続けていられる。そこも幸せなことの1つだと思っているので、そういう意味でも重なる部分はたくさんあります。
――少し質問が変わるのですが、Do it Theaterは<記憶に残る体験>を大事にさまざまなシアター体験や空間作りをしているチームです。お二人は記憶に残っているシアター体験はありますか?
田中:私は『脳天パラダイス』(2020年公開/山本政志監督)を映画館に観に行ったときです。コロナ禍真っただ中で、ライブハウスや劇場で声を出して笑うことがはばかられていた中、みんな堪えきれずに笑っていて。映画館でのそういう経験が初めてだったのと、コロナ禍でそういう体験ができたことがすごく印象的で衝撃的でした。
――映画館でいろんな人たちと一緒に観ることの面白さでもありますよね。
田中:劇場を出た時もみんなマスクをしているんですけど、「マスクの中できっと笑っているな」という空気が感じられて(笑)。その体験があったからこそ、やっぱり映画っていいなと思うことができたところもあります。
――監督はいかがですか?
道本:私は映画館への思い入れが強くて、学生の頃は大阪で暮らしていたので、今はなき京都の立誠シネマとか京都みなみ会館によく通っていたんです。そこで初めてゴダールの作品を見たり、石井岳龍監督の『狂い咲きサンダーロード』を見て画面の迫力に驚いたりして。いろんな思い出があります。その中でも、京都で映画を見て、そのまま京都の街を歩いて大阪に帰るみたいな時間が、自分自身にすごく影響をもたらしていると思っています。
――映画を観たあとの余韻を味わう時間ですね。
道本:映画館へ向かう途中に古い街並みもあって、そこを歩きながら「今日はどの映画見ようか」と考えたり、見た後に映画を思い出しながら歩いて帰る時間がすごく大切でした。
――では最後に、本作を観る方に向けてメッセージをいただけますか?
田中:ナオが考えていることや悩んでいることは、いろんな人に共感できるところがあると思っています。何か大きな変化が起こるわけではないかもしれませんが、見たら少し前を向いて歩いて行ける感覚が生まれるような作品。なので、ちょっと息抜きをするような感じで見ていただきたいなと思っています。
道本:『ほなまた明日』というタイトルには、みんながそれぞれ自分のペースで歩いた先に、「また会えますように」といった意味が込められています。この作品を観てくださる一人ひとりの人生に寄り添うような、共感できるような作品になってると思うので、ぜひ劇場に来ていただきたいです。
02作品情報
『ほなまた明日』
2024年9月28日より新宿K’s cinemaほか全国順次公開
(あらすじ)
大阪。大学卒業を控えたある年の夏。 写真家を目指す芸大生の草馬ナオ(田中真琴) は、写真中心の生活を送っていた。 同じ写真学科の小夜(重松りさ)、山田(松田崚 汰)、多田(秋田卓郎)は、写真に夢中になるあ まり、人としてはどこか不器用なナオに振り回さ れつつ、その才能を認め彼女を応援していた。 人生の岐路を前に、写真の本質に近づこうとする ナオの情熱は、否応なしに3人の心をざわざわと 揺らし、嫉妬や焦燥を生み、それぞれに“選択”
を迫っていく。卒業後、写真家となったナオは、小松、多田と久々の再会。そこで山田が失踪していること を知る。
監督:道本咲希 脚本:郷田流生 道本咲希
出演:田中真琴 松田崚汰 重松りさ 秋田卓郎
大古知遣 ついひじ杏奈 越山深喜 ゆかわたかし 加茂井彩音 福地千香子 西野凪沙
制作:Ippo 製作・配給:ENBU ゼミナール
©ENBUゼミナール
公式サイト:http://honamata-ashita.com/
X:@michimoto_kumi
Instagram:@team.michimotoo
photo:Cho Ongo(@cho_ongo)
interview&text:Sayaka Yabe
hair&make-up(田中真琴):槇 佳菜絵
stylist(田中真琴):菅井彩佳