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Do it Magazine01TOROI 田島由基さんのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えて頂きます。今回は埼玉県さいたま市大宮区にある古着屋「TOROI」の店長、田島由基さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
02作品名
『最後の忠臣蔵』
監督:杉田成道
『最後の忠臣蔵』
DVD 3,314 円+税
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©『最後の忠臣蔵』製作委員会
03理由
主演の役所広司さんの芝居の素晴らしさ、この一言に尽きます。人間が持つ強さや弱さ、そして優しさ・儚さ・狂気、様々な心の動きを、とても繊細に演じられる姿を見たときに、とてつもない衝撃を受けました。
役所さんはこの作品でおそらく10キロ近く減量され、眼光鋭く、頬はこけ、今までの役所さんとは明らかに違った雰囲気でした。作品が動いていく中で、様々な心の表情を自然に見せてくれるのです。役所さんが演じていると、とても簡単なように見えるのですが、難しいことを簡単にやってのけるモンスター俳優のように感じます(笑)。映画の中で見せる役所さんの自然な演技は、すごく不自然なお芝居ができるからこそ成り立つものだと思うのです。
話は逸れましたが、この作品の役所さんはほんとに強烈です。ガンガンと人の心に土足で入るのではなく、静かにその人の心へ忍び込み、心を捕まれる、そんな印象でした。この映画を見るまで、映画や俳優さんの事は好きで観ていましたが、初めてちゃんと観ている者と演技者が真っ向勝負している映画・演技に初めて出逢えた感じがして、その時の衝撃は今でも忘れられません。
04映画との出会い・エピソード
役所広司さんと佐藤浩市さんがもともと好きで、この二人が初めて本格的に共演するというところから興味が湧きました。情報解禁になったのが2009年の12月、公開が2010年の12月だったので、待ちに待った劇場公開でした。公開日初日、舞台挨拶も見に行きましたし、もっと言えば公開日前々日、某番組の公開生放送のゲストが役所さんだったので、それも見に行きご本人と握手もしました(笑)。
ここまでハードルを上げて観に行って、映画が微妙でも、「あの二人がみれたら幸せだな」くらいに思って観に行ったのですが、役所さんの芝居に衝撃を受け、そこから役所さんの虜になっていきました。そして、役所さんだけではなく、日本のたくさんの俳優さんに興味を持ち、分析をしていくことが趣味になっていったのです。本物の役者とはどんな人なのか、ありとあらゆる俳優さんの作品を観て、その人がどんな価値観・考えを持っているのかを想像するのが、何よりも楽しい時間となりました。役所さんの他には三國連太郎さん、緒形拳さん、志村喬さん、笠智衆さん、仲代達矢さん、山﨑努さん、樹木希林さんが好きです。日本にはたくさんの素晴らしい俳優さんが活躍しているのですが、日本人は自国の俳優さんの良さを知らなすぎるのが現状だと思います。(そこは少し悲しいところではありますね)
そして『最後の忠臣蔵』との出会いからは、「この映画はどんな方向性の作品なのか」というところにとても興味が湧くようになりました。映画を観て、その背景を追い、色々な角度から分析するということを、何本も何本も繰り返しました。そして、商業性の強い映画・アート性の強い映画・その中間をいく映画など、様々な作品を自分なりに深く掘り下げていくようになったのです。古着界にも、様々なお店がたくさんあります。その中で、「自分達がどこを目指し・歩んでいくのか」ということを模索し、考えていくきっかけになった作品が『最後の忠臣蔵』だったのです。
05働くこと・仕事への思い
偉そうなことは言えませんが、僕は古着屋という仕事をしてきて、同業の方よりも映画監督さんや俳優さんの考え方や価値観にものすごく影響を受けてきました。物事を表現するということに関してはリンクする部分が多いと思い、積極的に映画や本、インタビュー記事、実際に映画監督さんや俳優さんのトークショーなどにも足を運びました。その中でも一番胸に残った言葉は、自分の大好きな役所広司さんから直接いただいた言葉でした。
「何かを人に伝えたいのであれば、その何かを愛しなさい。そうじゃないと人には何も伝わらない」
当時私は古着屋の店長として、お店をどう表現していくか悩んでいた時期とも重なり、この言葉にハッとさせられました。一番大事なのは「自分がやりたい何かを愛する気持ち」なのだと。そこから私は、自店のアイテム一つ一つ、そしてお客様を愛するという気持ちを大切に仕事に打ち込みました。今でもその気持ちは変わらず、胸の中にしっかりと刻まれています。
映画監督や俳優さんのトークショーや本・インタビューなどから学んだことは「枠に囚われない」ということでした。表現ってこんな自由で面白くて良いのだと気が付いたのです。たくさんの映画監督の価値観に触れ、自分の仕事に置き換えて、古着を通して「枠に囚われない表現をしていこう」と強く思うようになりました。
そして、俳優さんから影響を受けた価値観は「オリジナルである」ということです。役所さんの「結局どの俳優さんを憧れてもその人にはなれないし、自分は自分でしかない。オリジナルでいることが大切です」という言葉にもハッとさせられました。すべての表現者の方がお持ちの考えではあると思うのですが、一人一人感性や考え方・姿形も違う、それをわかった上で自分にしかないオリジナティで勝負をするということ。一人のファッションに関わる人間として、とても通づるものを感じ、オリジナルであることの大切さを改めて教えていただきました。
06プロフィール
田島由基(たじま ゆうき)
1987年7月21日、埼玉県生まれ。2009年に大宮の古着屋TOROIの立ち上げに参加。2013年 原宿に姉妹店10-9の立ち上げに参加する。趣味は日本映画・演劇鑑賞、日本の俳優を分析。真の役者とは?を常日頃から追求している。
古着屋 TOROI used & vintage
住所:埼玉県さいたま市大宮区宮町2-3-1-2F
TEL:048-871-7965
OPEN:12:00〜20:00
Instagram:@toroi_vintage
スタンダードアイテムから、少し捻りの効いたアイテムまで、幅広いセレクトをしております。古着ならではの出会いを楽しんでいただける空間となっております。大宮へお越しの際は、是非お立ち寄りください。
07編集部より
大宮駅から歩いてすぐの街の一角にある素敵な古着屋TOROI。店長の田島さんに映画や役者についての話をお聞きすると、笑顔で映画や俳優に対する熱い想いを語ってくれました。好きな俳優の本やインタビューを読んで、「自分の業界に置き換えた時に、通づるものがあると思ったんです。役者さんの考え方とか、映画の要素をお店の中でも表現していけたら」と語る田島さん。映画を観た時に感じるような、心が動く瞬間を表現しているという古着屋TOROIに行って、洋服と空間に触れてみてくださいね。
text:Yuki Tajima
photo:Kohe Asano
edit:Sayaka Yabe