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Do it Magazine01イベント企画・DJ 庵地鉄兵さんのシゴトとシネマ
映画との出会いはいつも偶然で、何気なく観た映画が、人生の一本になったりする。【シゴトとシネマ】では、仕事や生き方に影響を与えた、働くことの原動力になっている映画とエピソードを教えていただきます。今回は、イベント企画・DJの庵地鉄兵さんの人生を揺るがせた映画と、仕事への想いをご紹介。
02作品名
『大停電の夜に』
監督:源 孝志
大停電の夜に
DVD&Blu-ray発売中
DVD:2,800円/Blu-ray:3,800円(税抜)
発売元:アスミック・エース
販売元:TCエンタテインメント
©2005『大停電の夜に』フィルム パートナーズ
03作品との出会い
好きなジャズ・ミュージシャンの菊地成孔さんが音楽を担当している映画ということから興味を持ち、鑑賞しました。
04仕事とのリンク
私はクラブとかではない、レストランや船などのちょっと変わった場所での中小規模のイベントを多く開催しています。そこにはいろんなタイプのお客様がいらっしゃるので、私はどんな人にとっても居心地のよい「居場所」を作ることを心掛けています。この作品をみて、世界観自体がその理想の雰囲気に近いなと思ったんです。作品全体から「居場所」を感じました。
木戸(豊川悦司さん)が経営するバーに数人が偶然集まり、初対面なのに意見をぶつけ合うシーンがあるのですが、ここでは誰も否定し合うことがなくて。「ああ、なんて優しい世界なんだろう」と。
ほかにも、手術前のナーバスな少女と天体オタクの少年が夜空を見上げて語るシーン、年老いた母親と生き別れた息子が少しためらったあと強く抱き合うシーンなど、映画全編が優しくて寛容な時間で満たされています。
05作品から受けた影響
『大停電の夜に』はなぜ、その優しく寛容な世界が自然体に表現できたのかというと、特定の人に対してではなく、作品に用意された世界自体が優しく寛容であることに尽きるのではないかと思うんです。つまりは、映画の世界のフォーマット自体の素晴らしさ。制作側の方が優しい世界をひたすらに追及して枠組みを作り、その中で演者の方に表現してもらう、というイメージでしょうか。
私のイベントに置き換えると、演者がそのイベント空間にいる全ての人ということになるのですが、この優しく寛容な場所をそこで意図的に実現するのは簡単ではなくて…。
当たり前ですが、人は生きているだけで生き方・思想がそれぞれ違い、それを相手に理解させようとするとどうしても欲が生まれてしまいますよね。しかし、その欲を満たそうと、特定の誰かを優しく受け入れようとした瞬間に、寛容な場所であることからは少しずつズレが生まれ、徐々に離れていってしまうように思います。
もちろん、人に対して寛容であることは慈愛に溢れていて、とても美しいものだと思います。少なくとも、否定されるべきものではありませんよね。ただ、それと居場所を作ることは別。この作品は、私のイベント作りの心構えのヒントを与えてくれた気がしました。
06映画によって解決された悩み
この作品を見てから、誰かのために居場所を作ろうとしたとき、「本人が居場所を求めてはいけない、むしろ、不寛容な環境に身を置く必要がある」と考えるようになりました。極論のようにも思いますが、本来、自分自身に甘い性格の私にとってはこういう考えのほうがしっくりきます。
あと、出演者やイベントスタッフの仲間たちにも居場所があるようにしたいので、イベント開催の目的や私の考えていることは常に共有できるように努めています。その考えは、幼稚で拙い内容であることも多いのですが、ひとつずつ伝えていくことでみんなが「しょうがないな」「付き合ってやるか」と、子どもをあやすような感じで手伝ってくれるのです。変な構図ですが、そんな環境をみんなが楽しんでいるように感じているので、とりあえず良しとしています。
今では、イベント制作のほか、ボランティアで小さなDJ教室を不定期に行なっていますが、今度教室でもこの映画で感じた居場所についても伝えられたらいいなと思っています。
07作品の魅力
『大停電の夜に』では、様々な人間模様が描かれ、常に優しさと寛容さが溢れています。さらに音楽と映像の美しさがそれを際立たせています。少し疲れてるときや心を温めたいとき、リラックスしたいときにぴったりな作品。しっかり時間に余裕を持ってみていただくのがおすすめです。
08プロフィール
庵地鉄兵
鹿児島県出身。O型。身長175cm、体重59kg。1999年10月福岡でDJを始め、上京ののちに2011年10月にODと共にFunky House DJコンビDIAMOND SNAPを結成。現在はコンビでの活動の他、東京湾での船上パーティーや自治体や商店会との共同町おこしイベントの企画・運営、座学でのDJ教室など、日本独自のDJ文化発展のため多方面にわたり精力的に活動中。
09編集部より
今回取材に伺ったのは、麻布十番にある素敵な飲食店でのアットホームなイベントでした。会社員の傍ら、イベントの主催やDJとしても活動している庵地さんがシゴトとシネマの一本にセレクトしたのは、イベントの理想の世界観が描かれているという映画『大停電の夜に』。映画についてお話を聞くと、出会ったきっかけや思い入れのあるシーンについて、企画しているイベントやDJに対する想いを交えながら語ってくれました。
イベント中も撮影をさせて頂いたのですが、その場に居る人たちがそれぞれのペースで、自由気ままにフラットに過ごしていて、まさに特別な一夜を描いた『大停電の夜に』に通づるような、あたたかな空気に触れることができました。DJ中は、会場の雰囲気を掴みながらの選曲はもちろん、急遽行われたジャンベとのセッションや、お客さんからのオーダーを取り入れながらカタチにして楽しませていた庵地さん。一人で行っても、誰と行っても、そこにはいつでも“自分の居場所”があるような心地良さがあり、またイベントに遊びにいきたいなという気持ちになりました。
text:Teppei Anchi
photo:Natsuko Okanobu
edit:Sayaka Yabe